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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 11:13
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2015/02/20 (Fri) 00:40
白い花が揺れる野原で少年は微笑んだ。

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「この花の名前、なんてんだ?」
 部屋の片隅で生けられている小さな白い花を指して、悠理が野梨子に尋ねた。
「萩、ですわ。珍しいですわね。悠理が花の名前を尋ねるなんて。」
「いちいち一言多いんだよ。」
と唇を尖らせる。

 丸い小さな緑の葉。そこにたわわに咲いた小さな白い花弁を持つ花。

「こないだ、夢に出てきた。」
 悠理はまだその花をまじまじと見詰めていた。
 可憐がそれを聞きとがめる。
「あんたの夢って、また不気味だわね。」
 悠理が振り返ると、テーブルからこちらを見つめる可憐の眉がひそめられていた。
 予知夢だったり、霊からのメッセージだったり。
 野生動物のように第六感が発達している悠理の夢に関わって碌な目にあったことがない。
「子供の頃の夢だったんだ。」
 そう言う悠理の目は思い出すように遠くを見ていた。

 なんとなく暇だから、野梨子の家に新作の茶菓子を食べに来た。
 男性陣は隣家の清四郎の部屋にいる。
 このお隣同士の距離感はこういう形でちょうどよい。

 悠理は制服姿のままで床の間の前にあぐらをかいた。
「でも子供の頃の夢だったことしか覚えてないや。どんな夢だったっけ?」

 覚えているのは、自分が幼かったこと。
 白い花がたくさん咲いていたこと。

 そして、ずっと笑っていたこと。

「誰か一緒にいたんだ。誰だったろ?」

 目が覚めたときに、頬を涙が濡らしていた。
 あんまり懐かしい光景だったから。

「いま思い出したら行ったことないはずの場所なのに、すごく懐かしかったんだよ。」
「悠理の場合、子供の頃のことなんか忘れてるだけじゃありませんの?」
 野梨子が穏やかに微笑みながら言う。
「実は幽体離脱して三途の河原に行ってたとか?」
 可憐がちょっと青ざめながら幽霊のように手のシナを作って言う。
「怒るぞ!可憐。」
 さすがに悠理は拳を振り上げて怒る振りをする。
「あはは。冗談よお。」
と破顔した可憐につられて、野梨子もくすくすと苦笑した。

「そこに野梨子もいたような気がするな。そういや。」
と目の前の笑顔を見ながら悠理が言う。
 すると野梨子が笑みを引っ込めてそれに答える。
「私も、ですの?萩が咲いている野原に?」
「あたしはいなかったの?」
 可憐が尋ねる。
「だってちっこい頃の姿だったんだぞ。お前がいるわけないじゃん。」
 可憐が聖プレジデントに入学したのは中学から。だから悠理は小学生までの可憐の姿を写真でしか知らなかった。
「可憐とも会ってなかったくらいの頃に、萩が咲いてる場所・・・」
 野梨子が唇に手を当てて、目線を天井に向けて考え込む。
「行ったことあるか?」
と悠理は友人の優秀な記憶力を頼る。
「3年生の秋の遠足が確か、それに近い場所でしたかしら?」
と野梨子は呟いた。
「そうそう。あの時は、私と清四郎がいたクラスと悠理のクラスとで交流とかさせられたんでしたわ。」

 それぞれのクラスで出席番号が奇数のグループと偶数のグループとに別れて行動したのだった。
「あの時はたまたま3人とも一緒のグループでしたわよ。それに清四郎と悠理は身長が近かったからお隣に並んで歩いてましたわよ。」
 脅威の記憶力である。
 可憐も、当の記憶の住人である悠理も、感心の唸りを上げた。
「その時のことを夢に見たんですわね、きっと。」
 野梨子はにっこりと悠理に微笑みかけた。
「でも、なんで今頃その夢を?」
 可憐は野梨子の笑んだ横顔に尋ねる。
「さあ?清四郎に夢分析でもしてもらいます?」
と野梨子が首をかしげながら言った。
「別にそこまでしなくていいよ。」
と、悠理は再び視線を萩の花へと戻したのだった。



「悠理の夢、ですか。」
 翌朝、清四郎は並んで通学する野梨子からその話を聞いた。
「そのまま悠理は黙り込んで花をじっと見てましたの。あの遠足の日に何かありましたっけ?」
 可憐が疑問に思ったようになぜ今頃その夢を見たのだろうか?
 本当にあの日の光景を彼女は夢に見ていたのだろうか?

 だが、野梨子は幼馴染からそれに満足のいく答を受け取ることは出来なかった。
 彼も昨日の悠理と同じように、そのまま黙り込んでしまったからである。



「悲しい夢でも見ましたか?」
と清四郎は腕の中で静かに涙を流す女の頬を拭った。
 こんな風に彼女が涙を流すのは二度目だ。
 先日は彼女は泣くばかりで、その理由をついには話してくれなかった。
「んーん。幸せな夢。」
 彼女は涙を流しながらも微笑んでくれた。
「思い出してくれましたか?僕があの日贈った萩の花。」

 悠理はじっと自分を抱きしめる男の顔を見上げた。
 あの頃の少年の姿からすると見知らぬ人間のようにすくすくと大きく育った男。
 自分を抱きしめる裸の胸はしなやかに強靭で、ひどく彼女を安心させるものだった。

「たぶん、あの頃にはあたい、お前に惚れてて嬉しかったんだろうな。」

 まだ仲間にも明かしていない二人の関係。
 こんな仲になったのはつい最近。

 幸せだった頃の記憶も、今が幸せだからつられて思い出したのだろう。

「僕も初対面からずっと悠理が好きでしたよ。」
 その臆面もないセリフに、悠理は毛布を鼻まで引きずり上げた。
「ばーろー。恥ずかしいこと、簡単に言うな。」
 清四郎はくすりと笑って彼女と鼻が触れ合いそうなほど近くに顔を寄せる。
「先に嬉しいこと言ってくれたのは悠理ですよ。」

 ちょっとの間、無言で見詰め合う。

 そして彼女の瞳が優しく微笑んだ。
 ぽそりと呟く。
「好きだよ。せーしろー。」

 そのまま毛布をもっと引きずり上げて顔を全部隠してしまった彼女を、清四郎はその上からぎゅぅっと抱き締めた。



 ずっと好きだった。
 あの頃、あの萩野原。
 その気持ちを初めて自覚したのかもしれない。

 その幸福感を、初めて知った日かもしれない。

 まだ少年の清四郎が白く揺れる花に囲まれ、はにかんだように佇んでいた。
(2004.11.7)
(2004.11.9サイト公開)
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