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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2017/08/22 (Tue) 12:56

12周年記念の小話。ブログより転載。


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なんでそう思ったのかはわからない。なんで今更思いついてしまったのかはわからない。
だけど確実にあの瞬間に思いついてしまった、「もしも」。

完全に出来心だったとしか思えない。

だけど、それからずっと、意識せずにはいられなかった。

───もしもあの時、あの二人がケンカしていなかったら、今頃は…



「悠理。別に大学では夏休みの宿題もありませんし、なぜ僕をそこまで避けるんですか?」

大学生活最初の夏休みもようやく終わろうとしていた。
8月初めまで前期試験があり(そして悠理は盆直前まで追試が続いていた)、後期の授業が始まる9月最終週までの長い夏休みもそろそろ終わりが見えてきたころ。

清四郎は大学に入学してから、悠理の兄、豊作と経済関係の書籍のやり取りをするようになっていた。
真面目一徹の豊作にしてみれば書籍そのものはすでに目を通し終えたものばかりではあったのだが、清四郎の自由な発想と組み合わさった時の解釈が大変面白く、気がつけば「次はこれを読んで感想を聞かせてほしい」と自らの蔵書を渡しながら次の約束を取り付けるのが常となっていた。
清四郎としても実務家としての豊作の手腕は高く評価しているので(彼は革新家となるべき時の決断力がないだけなのだ)、彼との経済実務についての話は大変に実のあるものだった。
もちろん豊作は多忙の身であるので、月に1回か2回のやりとりである。
内容も剣菱の経営にかかわるような際どい内容では決してない。清四郎としても再び危険を冒すつもりはさらさらない。

今日もそうして豊作のもとを訪れて、ビジネスディナーに出かける彼を見送った後で、その妹である悠理の居室にやってきたのだった。
前回は様子がおかしい悠理の様子に遠慮して、彼女を部屋をおとなうことはしなかったものの、やはり気になるものは気になる。
夏休み前にこのように彼女の部屋をノックした時は、「おう、兄ちゃんと頭が痛くなる話してたんだろ?茶でも飲んでけよ」と、普通に招き入れてくれたのだ。



しかしこの夏はおかしい。
最初に気付いたのは先月この部屋を訪れた時だった。

「あ、また兄ちゃんのところか?」
と部屋のドアを開けた悠理の顔がほんのりと赤かった。
そして明らかに話が弾まないのである。
その直前の週末(大学生活初めての夏休みの最初の週末)に倶楽部の皆で海に遊びに行った時の話を持ち出した時からとにかく挙動不審だった。
「本当にあなたは無茶ばかりするから」
と悠理が岩場で滑って危うく深い擦り傷を作りそうになった時の話を持ち出しても、
「いや、あの、えーと」
と赤くなって口ごもるばかり。
いつもだったら、
「うるさいな、結局怪我してないんだからいいじゃないか。それよりさ~」
くらいの反応が帰ってくるはずが、である。

そしてしまいには、
「助けてくれて、あんがとな」
と消え入りそうに小さな声でぽつりと言ったのだ。
その普段の彼女の姿からは考えもしないような儚げな様子に、清四郎までつられて赤面してしまうほどだった。

その後も倶楽部の集まりで顔を合わせても悠理は魅録や野梨子と話すばかりで、清四郎に近づこうともしない。
その様子はすぐに美童や可憐の憶測を呼んだ。



「なぜ僕を避けるんですか?そんな様子だとまるで…」
と、清四郎は言い淀んだ。
続くセリフを口にしていいものか、さすがに逡巡する。
だが、
「まるで、なに?」
と、上目遣いの目の周りをほんのりと朱に染めて悠理が尋ねるものだから、清四郎の口から言い淀んでいた言葉が飛び出してくる。
「まるで恋でもしてるみたいだ、と可憐たちが噂してましたよ」

それを聞いて悠理の目が大きく見開かれて、口がわなわなと震えだす。
「こ、恋って、恋って…」
それからの悠理はめまぐるしい動きを見せた。
まず一度顔が爆発するように赤面した。
それから目をそらし、わたわたと手を上下させた。
そして頬を自分の両手で包んで下を向いてから、数回深呼吸。
少し赤面が引いたところで、きっと口を結ぶと顔を挙げた。
(その間、清四郎はずっと悠理の様子を観察していた)
「そんなんじゃないんだ!」
否定の声は思ったよりかなりきっぱりした口調だった。

「ただ、思っちゃっただけなんだ。あの時、あの二人がケンカしてなかったらって!」
「あの時?あの二人?」
「父ちゃんと母ちゃんだよ!」
言われて清四郎は「ああ」と察した。
「まさか婚約騒動の時のことですか?」
なにをいまさら、と思いつつ、清四郎は首をひねる。
「だってあの時、二人がケンカしてなかったらお前がすぐには剣菱の経営に巻き込まれることもなくて、あたいにレディ教育しようとかも思いつかなくてケンカもしなくて、ものすごい勢いで結婚させられてたはずじゃん」
「まあ、そういう勢いでしたねえ」
と清四郎は苦虫をかみつぶしたような顔で、同意する。あの時のことはかなり苦い思い出だ。
悠理にとってはなおさらで、二人の間ではアンタッチャブルな話題だったはずである。

「あの時、もし結婚してたら…その…」
と、そこでいったん悠理が言い淀む。
「清四郎に裸で抱きしめられるのも、当たり前になってたのかなって、助けてもらった時に思いついちゃって…」
か細い声の悠理の言い方は婉曲的ではあるが、つまり…。
「水着姿で密着して、もしかしたらの夫婦生活を想像してしまった、と」
と、清四郎は身も蓋もないまとめをした。
それに今のように剣菱邸を足しげく訪れて悠理の部屋まで来ている状態は、まるで婚約が続いているかのようだ(実際そういう噂も流れていると小耳にはさんでいる)。

悠理はうぐっと息をのむと、
「だ、だから、別に惚れてるとかじゃないからな!」
と、力説した。
ただもしもを想像して意識してしまっただけ、と。

清四郎はその悠理の様子に、ふうっと一つため息をつくと、口を開いた。
「まあ、『人生にもしもはない』と言いますし、僕はそういう仮定は意味がないと思って、そんなことは考えたこともありませんが…」
と、そこでいったん止める。
「それあたいをバカにしてる?」
「そういうわけじゃありませんよ。でも改めてそういう仮定を考えてみても、どうしても僕たちがうまく結婚にたどり着けたとは思えないんですよね」
片手をあごに充ててふむふむ、と続ける。
「まずあの時におじさんとおばさんがケンカしてなかったとしても、早晩なんらかの形で騒動は起きていたでしょう。そしてあの時の僕は悠理の気持ちなんか目に入ってもなかった」

そのことは反省してるんですよ、と付け加えた上で、
「だから結局悠理が和尚に泣きつく羽目になっていただろうことは、容易に想像できます」
と結論付けた。
そこまで一気に言われた言葉を、悠理は口をぽかんと開けて聞いていた。ついでに赤面も引いたようだ。
「そりゃ、まあ、言われてみれば、そうなんだろうけど…」
今度は悠理が苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「そこまで断言されると複雑なような…」
と、つぶやいたのを清四郎は聞き逃さなかった。

「正直言うと、僕もちょっと複雑ですよ」
と、肩をすくめて見せると、悠理がえ、と瞠目した。
「可憐や美童に悠理に恋されてるんじゃないかと言われた時はもちろん『面倒なことになった』と思いましたよ。僕たちの友情にひびが入るんじゃないかって、心配になったもので」
そう言われた悠理はどういう顔をしていいかわからない、と言いたげな複雑な表情を見せている。
友情が大事で、仲間内での恋愛事が面倒だという気持ちを、たぶん彼女もわかっている。
「でも、さっき悠理に恋心を否定された時に、ちょっとがっかりしたのも事実です」

ほら、今の悠理と一緒でしょ。といたずらっぽく笑って見せたら、悠理が再びぽかんと口を開けた。
「がっかり?」
「ええ、そうですよ。悠理が僕に恋してるのかもと言われて、少し嬉しかったみたいです」

今度こそ悠理はフリーズした。
そしてたっぷり1分ほど経ったところで、体が動き出した。
ゆっくり体を後ろに引きながら、両腕を右に回して体をひねらせた。
そして両手をゆっくり交互に上下運動させて、やたらスローなモンキーダンスのようなしぐさをして頬に手を当ててから、
「う、うれしい?」
と床を見つめながら言った。

「ええ、できれば他の男を見てほしくないと思う程度には」
と、清四郎は魅録とばかり話していたこの夏の悠理の姿を思い出しながら言った。
すると数秒遅れて悠理がその場に座りこんだ。
「わ、大丈夫ですか?」
と、清四郎もその前に身をかがめた。
しゃがみこんで膝の間に埋められた悠理の顔は、限界を超えて真っ赤だ。
「それ、結構なやきもちってやつ?」
と、彼女は蚊の鳴くような声で尋ねた。
「たぶん、結構な」
と、清四郎も赤面しながら答えた。



過去の「もしも」に意味はない。
未来の「もしも」には意味がある。

もしも、悠理が清四郎に恋をしていたら?
もしも、清四郎が悠理に恋をしていたら?

そうして、新しい二人の関係が、はじまった。
(2016.8.25)
(2017.8.22加筆修正)
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