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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/03/23 (Mon) 01:18
「正しい街」第2回。

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 昼下がりのカフェテラス。このところ穏やかな春の陽気が続いており、テラス席は柔らかな日差しと吹き抜ける風がとても心地よかった。
 悠理はしかし、なぜか居心地の悪い胸の高鳴りを感じていた。
 約束の時間に数分ほど遅れていくと、可憐もちょうど到着したばかりという体で店員が引く椅子に腰かけるところで、先に椅子に座っていた野梨子がメニューを開くところだった。
「あら、珍しく同じくらいにそろったわね」
と、可憐が悠理の遅刻癖へのからかい混じりに言った。
 大学卒業と同時に家業の宝石商の手伝いを始めた彼女は、可愛らしい春色の唇でほほ笑んだ。
 以前のような派手なメイクではなく、ビジネスシーンにもふさわしい大人っぽいナチュラルメイクへと変貌している。
「さすがに悠理も主婦ですもの。きちんと旦那様が仕事に遅刻しないように一緒に起きて朝食をとっているのでしょう?」
 こちらは以前と変わらず清楚な白ワンピースでちょこんと椅子に腰かけた野梨子もほほ笑んだ。
 普段は実家で茶道の師匠の一人として後進の指導をしている彼女も、以前は洋装をすると可愛らしい少女然となっていたものだが、今は小柄ながらも大人の女性に見える。
 どこがどう変わったと言われても、言語表現が乏しい悠理などは説明に窮するのだが。
「そりゃあ、そうだよ。そりゃ出張も多いから、一人のときはちょっとサボっちまうけどさ」
と、悠理はノーメイクの唇をとがらせた。
 ネイビーのボーダーのカットソーに白いパンツ。
 持っているカバンが今は老いた愛猫の顔の形をしたショルダーなのは御愛嬌だが、やはり大学卒業後は実家の家業を社交面で手伝っている悠理は、普段の服装もかなり大人しくなった。

「さ、お二人とも、何を注文しますの?私はもう決めましたわ」
「そうねえ、あたしは桃のフレーバーティーにしようかしら?」
「ん~、あたいはピンクマカロンのパフェにしようかな」
 可憐と悠理はそれぞれ季節のメニューを選んだ。
「あら?あんた、パフェだけで足りるの?あとで追加する?」
と、可憐がオーダー時にメニューを返さないほうがいいかと思って尋ねた。
「ん~、これだけでいいや」
と、頬杖をつきながら言う悠理はどこか無表情にも見えて、
「ちょっと大丈夫?体調悪いんじゃないの?」
と、可憐は声をひそめた。
「いんにゃ?そうでもないよ。相変わらず心配性だな」
 ははは、と悠理は笑って見せた。
 やってきたウェイターに、それぞれがオーダーを口にする。
「野梨子はローズヒップティー!どうしちゃったの?いったい」
 ここは季節ごとのスイーツと紅茶が有名な店である。以前ここに来た時は、悠理はその時のデザート5種類を全部食べ、野梨子はバニラフレーバーティーを飲んだはずである。
「いまちょっとカフェインは制限してますの」
と、野梨子がはにかんだように言うと、悠理はずくん、と一つ大きく心臓が弾んだ。
 不意に目覚めた早朝からずっと感じていた違和感がまた、大きく頭をもたげてきた。それは不安にも焦燥にも似ていて、悠理は胸をぎゅっと押さえる。どうして?どうして?
 一方で、可憐も野梨子の様子になにか感づいた様子で、あらま、と口元を押さえて、そして二人の友人を交互に見る。
「そうよねえ。二人ともそろそろ1年になるしねえ。そういう頃合い?」
「いやですわ、何のことですの?」
 一人合点してしみじみ言う可憐に、野梨子が苦笑を寄せる。
「お・め・で・た♪もしかしたら悠理もつわりとか?」
と、可憐が弾んだように言う。そしてそのまま続けて、
「あたしたちも年とったってことよね~。まだ20代半ばだけど、もう人の親になってもいい頃合いよね~」
と、頬に手を当ててほおっと息をつく。
 大学卒業と同時に結婚した親友カップル2組と違い、可憐はようやく先日美童と付き合い始めたばかり。
 とはいえ、もともとお互い恋の狩人。さっさと落ち着いた関係になってしまうのも癪に障るが、しかし親友同士だったこともあってすでに家族か同士のような雰囲気もあり、複雑な時期なのである。
「もう、いやですわ。一人でどんどん話を進めて」
「あはは、ごめん。でもその通りでしょ?」
と野梨子に返事を求める可憐は、もう一人の話題の主である悠理が黙り込んでしまっていることに気付いてはいなかった。

 違う、違う、違う、チ・ガ・ウ・・・

「ええ、私は当たり、ですわ。本当はまだ安定期に入るまでは、と思いましたけど、あっという間に感づかれてしまいましたわね」
 まだまだ初期ですから、家族のほかには、支障が出るかもしれない仕事の関係者の一部にしか伝えてませんの、と野梨子は付け加えた。
「わあ、やっぱり!予定日は?」
「年末ごろですわ」
「ま。じゃあそのころは予定あけとかなくちゃ」
 このままだったら、プライベートでは美童や母とクリスマスを過ごす予定しか入らないつもりだけど、さ。と可憐は付け加え、その予定が壊れなきゃいいけど、と頭の中で舌を出した。

「清四郎にも予定あけさせとくのよ!あの仕事の虫、出産立会どころか、日本にもいないかも知れないでしょ!」
と可憐は、実業家として世界中を飛び回る野梨子の夫の顔を思い浮かべながら言った。
 すると、野梨子が口を開くより先に、悠理がつぶやいた。
「だいじょぶ。清四郎は、今からスケジュール調整してる・・・」
「そうですの。清四郎ったら、綿密に予定日を計算してその前1カ月からスケジュールをあけるように奔走してますわ」
 かぶせるように言う野梨子はどこかうきうきしているように見える。
 そうだろう。大学時代に彼女のほうから清四郎に告白する形で付き合い始めた二人だ。
 この日をずっとずっと夢見ていたのだろう。

 違う、違う、違う、チ・ガ・ウ・・・

 あの日、桜吹雪の中、悠理は立ち尽くしていた。
 いつの間にか気付いた恋だった。
 ずっといけすかない悪友だと思っていた。
 でも誰よりも信頼できる親友だった。
 誰よりも、彼女を助けてくれる、頼りになる、強い男だった。

 自分から告白するつもりでいた、あの日。
 野梨子が清四郎と付き合い始めた、と、魅録から告げられた。

 違う、違う、違う、チ・ガ・ウ‥‥‥

 陽光降り注ぐテラス。今年は寒くて花が遅かったが、ソメイヨシノはとうに終わりをつげ、葉桜になっている。
 あのまさしく吹雪というのにふさわしいほどに降り注いでいた花弁はどこに行ってしまったのだろう?

「ま、あの清四郎が?」
 可憐は信じられないと言った面持ちで、清四郎の浮かれ顔を想像してみるが、どうしてもうまくいかない。
「ていうか悠理、知ってたの?」
と今度は悠理に水を向ける。
「あ、いや、なんかそんな感じかなーって」
と頭をかきながら、悠理はどうして自分はあんなことを口走ったのだろう?と首をかしげる。

 そうだ、知っている。
 清四郎は、妻の妊娠を聞いて、びっくりするほどに喜んで、医師になっている姉にいろいろ聞いたりしていて・・・
「年末は決算に向けた仕事の予定が目白押しですが、どうにかしますよ!」
と拳を握りしめていた。

 そうだ。あたいは知っている。

 そこにウェイターが注文の品を持ってきたので、悠理は混乱しながらもそれにぱくついてみる。
 山盛りアイスにピンクのマカロンとフルーツがどさどさと載せてあるパフェが、みるみる小さくなる。

 なんだか、変。とにかく、違和感。
 パフェはおいしい。でも、なんかチガウ。
 なんで、あたいは知っている?
 あたいが食べてたのは本当にパフェ?
 マカロンを一口かじっただけだったのは、いつ?

「ところで悠理は?そんなにアイス食べておなか冷やしていいわけ?」
と、可憐が悠理の姿に目をとめた。
「つわりでさっぱりしたものしか食べられないとか言うし、そのせい?野梨子もそう?」
「まだつわりも出始めなのでそんなに苦しくありませんわ」

 そう。例えて言うなら軽い二日酔いのような症状。
 吐き気はないが、なんとなくむかむかして、体がだるくて。
 食べられなくなる妊婦もいたり、食べると気分がよくなる妊婦もいたりするらしいが、自分はそのどちらでもないらしい。
 野梨子が可憐に訊かれるままに答えている。

 ・・・なんであたいは知っている?
 悠理はぐるぐると考える。
 確実にあたいはその感覚を知っている。
 あたいは食べられなくなったけど、って。
 知っているはずがないのに、どうしてあたいは知っている?

「ねえ、悠理は?どうなの?」
と、可憐が水を向けてきた。
「もう、可憐ったら詮索しすぎですわよ」
と、野梨子がたしなめてくれるが、悠理は一言、
「違うよ」
とだけ言った。
 考えるより先に口から言葉がするりと飛び出てきた。
「え?違うって?」

 違う、違う、違う・・・

「あたいはチガウ!」
 思わず、大きな声が出た。
 そしてその声に我に返った悠理は、可憐と野梨子が驚いてかたまっているのに気づく。
 あわてて、
「あ、いや、だから、いま生理中だし、この1か月くらい忙しくてご無沙汰だから‥‥‥」
と、ついつい余計なことまで口走ってしまう。
「あ、ごめん。てっきりそうなのかって‥‥‥無神経だったわね、ホント、ごめん」
と、可憐は平謝りに謝ってきた。

「ほら、もう気が済みましたでしょ?今日私たちを呼び出したのは貴女でしてよ、可憐」
と野梨子が話題を変えるように持っていく。
 可憐も少しほっとしたように、
「そ、そうなの!ちょっと新しい企画のアイデアがあってね、若い人妻のあんたたちに意見が聞きたいと思って!」
と、カバンからタブレットを取り出した。

 あたい、おかしい。なにかがおかしい。

 悠理は可憐の話にも生返事のまま、ぼんやりと街を眺めた。
 昨日までと同じ景色なのに、なにかがおかしい。
 街をゆく人の姿も、車の色も、なにもかも昨日までと変わらないのに。

 ふと、野梨子と目が合ったけれど、一瞬でそらされた。
 悠理の頭の中で、なにかがかちり、と小さく光った。
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