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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 12:46
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2015/03/02 (Mon) 23:15
もうちょっとだけそばにいたい。

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 雲行きが怪しいとは思っていた。
 だが、清四郎は何も言わずにじっと空を見つめていた。
 ぽつり、と飽和した空からとうとう雨だれが地上へと舞い降り始める。
 初めは音もなく静かに地表を濡らしていたそれは、やがて本降りになってきた。

 清四郎はただ、それを窓越しにじっと見つめていた。
 暗くなってきたので、窓には己のいる室内の風景が映し出されている。

 じっと、そこに映る彼の人の背中を見詰めた。

 すると、まるでその視線に気づいたかのようにその人は振り向いた。
「あーーーー、終わったぞ!清四郎。早く採点!」
「終わりましたか?」
「え?雨?」
 彼女は大きな目をまん丸に見開いた。
 だが、彼はそれに気づかなかったようにして彼女の座る机のほうへと近づいて手元を覗き込んだ。
「雨、いつからだ?」
「ついさっきですよ。悠理、解き方はいいんだが、1問目の1行目から掛け算を間違ってますよ。よくこれで最後の行までたどり着けましたね。あ、次の行でもう一回間違えてなぜか正しい数字になってるんだ。」
「るさいな。最初の計算間違いさえなければあってるんだろ?」
「そうですね。数学の証明問題で漢字を間違えてても減点はされないでしょうね。」
 むう、と悠理は頬を膨らませた。
 今日は明後日・月曜日の数学の小テストに向けて、悠理は清四郎の部屋で勉強していた。古着のジーンズにフリースのトレーナーを着ている。
 悠理は綿パンにシャツにやはりトレーナーという格好で隣に身を乗り出している清四郎を恨めしげに見上げた。
「本降りになる前に教えてくれりゃよかったのに。」
 清四郎は赤ペンの動きを止めると、悠理の顔を覗き込んだ。
「解き終わるまで解放しないと言ったはずですよ。計算間違いはともかく最後までたどり着けたのは偉いと誉めてあげますから。」
「今日はジャケットだけなんだよ。」
 悠理はこれにライダージャケットを羽織ってバイクで菊正宗家に来ていたのだった。
 小降りのうちならそのまま帰れないこともなかったが、本降りになっては上下そろいのライダースーツでもなければ乗る気にはなれなかった。(勉強道具が濡れるという考えは彼女には全くない。)
「まあ、とりあえず雨が弱くなるかもしれませんし、うちで夕飯まで食べていきませんか?」
 清四郎はにっこり笑った。

「雨、弱くなんないなあ。」
 箸を咥えたまま、悠理は窓のほうを眺めた。
 菊正宗家の土曜の晩餐にそのままお邪魔することになったのだ。悠理の席からは首を左に向ければ縁先が見える。
「あら、雨はこのまま明日の昼まで降り続くって天気予報で言ってたんだけど、知らなかった?悠理ちゃん。」
と、和子が声をかける。
「んー、それでも弱くなったら帰れないことはないんだけどね。」
 悠理は眉をしかめてそう言う。
 和子は瞬間、くすり、と笑った。
「なんだ?和子。」
 土曜日なので夕食の時刻に食卓につくことが出来ている父・修平が首をかしげた。
 悠理も首をかしげて和子のほうを振り返っている。
「いや、今の顔の作り方が清四郎に似てたから。仲のいい友達同士でも長く一緒にいると仕草や表情が似てくるってあるわよね。」
と、和子は口元を押さえながら笑いを堪えていた。
「あらあら。まるで恋人か夫婦みたいね。」
と、菊正宗夫人も苦笑した。
 その言葉に悠理のみならず、珍しく清四郎まで赤面した。
「なに言ってるんですか。倶楽部の連中みんなが似通ってくるなんて恐ろしいの一言ですよ。」
 清四郎の言葉に、悠理も頷く。
「可憐みたいなしなを作る清四郎や魅録なんか見たくないぞ。」
 心なしか青ざめて力説する悠理に、残りの女性二人は笑い転げそうになる。
 修平も顔を俯かせて肩が震えているところを見ると、全員なよっとした仕草の清四郎と魅録のコンビを想像してしまったようだった。
「まあでも悠理には少しは可憐や野梨子、せめて美童を見習ってほしいものですよ。僕や魅録にばかり似てどんどん凛々しくなってどうするんですか。」
「ちょっと待て!それって自分は凛々しいって言ってるみたいじゃないか!」
「一応女の子である悠理が僕らみたいに振舞うから凛々しくなるってことですよ。」
「わけわかんねえ。」

 そのまま家族そっちのけで言い争いをはじめた二人を、「いつものこと」と残りの三人は無視を決め込んでいた。
 ただ、和子にはわかっている。「恋人か夫婦」という言葉に清四郎が反応したことが。
「本当にかわいらしくなっちゃって。」
と呟いた彼女に、
「なんか言ったか?和子。」
と修平が尋ねる。
 和子は空になった茶碗と箸をきっちり置くと、
「なんでもないわ。パパ。」
と微笑んだ。

「んじゃ、おばちゃんが言ってたみたいにさせてもらうぞ。」
 バイクはうちにおいて帰っていいのよ。預かっておくから。晴れたら取りにいらっしゃい。と、菊正宗夫人に提案されたのだった。
 夕食を終えて、一旦は清四郎の部屋に戻った二人だった。
「ええ。小雨でも雨の中走って事故でも起こしたらいけませんし。」
「あたいが事故るかよ。」
「甘く見ている人が事故を起こすんです。」
 悠理は迎えの車を呼ぼうと取り出した携帯を握る手に力が篭った。
「お前さ、天気予報知ってたんじゃねえの?」
 清四郎は驚いて悠理の顔を見る。
 彼女の目は、すべてを見透かすような深い光を湛えていた。
 だが清四郎は素早くポーカーフェイスの仮面を被る。
「さあ?それより、電話するんでしょ?」
 にっこりと促す清四郎の顔をじっと一瞬見つめてから、悠理は短縮番号を押した。

「悠理。“遣らずの雨”って知ってますか?」
「“ヤラずの雨”?」
 車を待つ少しの時間、悠理はクッションを膝に抱っこして胡坐をかいていた。
 先ほどまで悠理が座って勉強していた椅子に清四郎は腰掛けてこちらを振り返っている。
「なんか今、卑猥な漢字変換したでしょ?」
 苦笑する彼に、悠理は怪訝そうに顔を歪めた。
「どっちにしても意味わかんねえ。」
 だが清四郎は何も言わずにじっと悠理のほうを見ている。
「せーしろー?」
 焦れたように悠理は尋ねた。
 するとゆっくり清四郎が口を開いた。
「自分で調べてみるといい。別に試験には出ませんけどね。」
 ゆっくり立ち上がる。階下でインターホンが鳴っている音がしたのだ。
「悠理ちゃーん。お迎えよー。」
 清四郎の母が呼ぶのが聞こえた。

「帰したくない、か。」
 悠理が去った後も、カーテンの隙間から清四郎は窓の外を見ていた。
 明日バイクを取りにやってきた彼女をまた見られるかもしれない。そう思うだけで嬉しいと思っている自分に気づいていた。
「しかしよりにもよって悠理に、とはね。」
と呟くと、清四郎は溜息をついた。

*遣らずの雨:帰ろうとする人をひきとめるかのように降ってくる雨。(大辞泉より)
(2004.11.19)
(2004.11.21公開)
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