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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 11:29
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2015/03/02 (Mon) 23:19
行かないで。ここにいて。
「遣らずの雨」のコンセプトで書いたつもりで失敗した習作。続編ではありません。

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「雨、ですね。」
「雨、だな。」

 それだけの言葉を交わしあい、また二人は無言で窓の外を眺めた。

 今日は土曜日。悠理は魅録とツーリングに行く予定だった。
 清四郎は白鹿夫人に頼み込まれて、野梨子の家で野点の会に参加することになっていた。
 だが、どちらもこの雨で中止となった。

 後始末のある野梨子を除き、なんとなく暇になった三人は清四郎の部屋に集まっていた。
「俺、もう帰るわ。やりかけの改造残ってっから。」
と魅録が言い出したのが1時間前。
 悠理はどうする?と言われて、彼女は首を左右に振った。
「もうちょい雨が弱くなってから車呼ぶわ。」
と、そこらにあった美術書などを眺めながら答えた。
「しかしお前が美術書って似合わねえな。」
 魅録が苦笑する。
「意味はわかんないけど、絵を眺めてる分には面白いぞ。」
 それはエッシャーの画集だった。2次元の絵画ならではのトリックで、不可思議な空間がつむぎだされていた。
 難しい書物ばかり並ぶ清四郎の部屋で、唯一彼女のお気に入りの本になりそうだ。今日初めてこの本の存在に気づいたのだった。
「剣菱ならエッシャーの本物を買うくらい朝飯前でしょうね。」
「うーん、父ちゃん好きかも。」
 悠理は剣菱邸にこの世界を無理やり再現しようと庭師などに頑張らせる万作を想像してげんなりした。
 これは剣菱邸に持ち込まないのが吉だろう。

 清四郎がふと本を一冊読み終わって悠理のほうを見ると、彼女はまだ目をキラキラさせてエッシャーの世界に見入っていた。
「そんなに気に入りましたか?」
「うん。面白い。」
 心理学の教科書にもしばしば登場する騙し絵の群れ。悠理にはその理屈などどうでもいいのだろう。
 絵から抜け出たワニがまた絵の中へと帰って行く。
 魚が模様になり、模様が鳥になって飛んで行く。
 どこまでもどこまでも落ちて行く滝。
 窓の中では全く重力の方向が狂っている部屋。
 そんな不思議な空間にただ訳もなくとりつかれているのだった。

「ちょっと清四郎みたいかも。」
とぼそっと悠理が呟いた。
「僕みたい・・・ですか?」
 それはどういう意味です?と清四郎は首をかしげた。
 悠理はページから眼を上げると清四郎のほうをじっと見た。
「何を考えてるかあたいにはよくわかんないことが多いってとこが。」
 実にあっけらかんと言ってくれるものだ。
「僕だって悠理が何をどう考えてるのかわからなくなる時がありますけどね。」
「なんだよ、いつだって単純バカってあたいのこと苛めるくせに。」
と悠理が口を尖らせたので、清四郎は含み笑いをした。
「でも単純すぎて僕には思いもよらなかったりして、目から鱗が落ちることもしばしばですよ。」
「・・・それって褒めてる?けなしてる?」
「両方ですよ。よく気づきましたね。」

 おい!と憤慨する悠理に清四郎は笑いながら「わるいわるい。」と謝る。
 まったくもっていつもの風景だった。

 窓の外ではまだ雨がやまずに降り続けている。
 ふと会話が続かなくなり、二人は同時に外を眺めた。
「雨、いつになったらやむのかな?」
「悠理は晴れが好きそうですよね。外で遊びたいんでしょ?」
 今日だって魅録とツーリングに行きたかったんでしょ?と清四郎は悠理の頭を撫でる。残念でしたね、と言いながら。
「お前こそ、優雅にお茶会のはずがつぶれちまって残念だったんじゃないの?」
「僕は堅苦しいお茶会は苦手なんでね。野梨子たちや、ツーリングが延期になった悠理たちには悪いんですけど、ほっとしてますよ。」
 そう言って悠理に微笑む清四郎は、いつもどおりの顔で。何一つおかしなところなんかなくて。
 悠理は一つ、ぽつりとこぼす。
「あたいもホントはちょっとほっとしてるんだけど。」
「え?」
「なんでかな?お前に野梨子のとこに行って欲しくなかったんだ。いつものことなのにな。」
 悠理は清四郎から顔をそらして、抱え込んだ膝に顎を乗せて遠くを見ていた。
 その視線が向いているのは窓の外。恐らくは塀の向こうの隣家。
 清四郎は一瞬虚をつかれたように目を見開いたが、次の瞬間には微笑んでいた。
「なんだ。悠理も僕と同じことを考えてたんじゃないですか。」
 今度は悠理が顔を上げて「え?」と問い返す番だった。

「僕は悠理に、魅録のところに行って欲しくなかったんですよ。」

 しばし互いに見詰め合う。
 悠理は清四郎の瞳に落ち着かない気分になる。
「頬が真っ赤ですよ、悠理。」
 清四郎がおかしそうに、だけど彼自身も少しばかり頬を赤らめて言う。
「お前こそ・・・」
と言う悠理の声は情けないくらいに掠れていた。

 30分後、自然に二人は隣同士に並んで座っていた。床に座ってソファーを背もたれ代わりにしている。
 そして二人の手はきゅっと繋がれていた。
「なんでお前なんだろ?」
 悠理が言うから、清四郎はぷっと笑う。
「僕だってわかりませんよ。こんなに僕たちは共通点がない二人なのに。」
 格闘くらいですよね。共通して楽しめるのなんて、と清四郎はくすくす言いながら付け加えた。
「ずっと東村寺で一緒に遊ぶか?」
「それは遠慮します。」
 いくらなんでも色気がない。いや、もともと悠理に色気を期待するほうが間違っているのだ。
 わからないのは僕のほうだな、と清四郎は溜息をつく。
 その時、清四郎の目に飛び込んできたのは、先ほどまで悠理が熱心に眺めていたエッシャーの画集だった。
「ああ、これだ。」
と彼が急に言うので、悠理は彼の顔を見上げる。
「なにが?」
「僕たちの関係ですよ。」
と、清四郎は彼女と繋いでいないほうの手を画集に伸ばす。
 開いたページは「Metamorphosis III」。

「僕はこの絵の途中の魚と鳥みたいに全然違うものです。お互いに全然違うものだけれど、でもこうして移ろってしまえば初めも終わりも同じものなんですよ。」
 METAMORPHOSE。文字が市松模様になり、様々なものへと変化して行く。
 トカゲから蜂の巣になり蜂になり、魚になって鳥になる。
 鳥が船を経てまた魚になり、馬になり鳥になる。
 鳥が街になり、街はチェス盤になる。
 そして最後はまたMETAMORPHOSEの文字に戻る。
「わけわかんないんだけど・・・」
 悠理が困ったように首をかしげる。
「要するに全然違うものに見えても僕たちはどこかで繋がってるんだから気にしなくてもいいですよってことです。」
 清四郎は悠理の顔を覗き込むと微笑んだ。
「いますげえ端折らなかったか?」
 馬鹿にするなよ、と続けようとする悠理の唇を清四郎は素早く口で塞いだ。
「じゃあ理屈ぬきで行きましょう。ただ僕はこうして悠理に触れたい。誰にも渡したくない。それだけです。」
 真っ赤になってあわあわする彼女に「悠理は?」と問う。
 その答えは────
(2004.11.29)
(2004.12.1公開)
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