2015/03/03 (Tue) 22:55
「やーい、金魚のフン、は~ずかし。ひとりでしっこもできないんだろう。」
不意に一人の女の子が僕の後ろに隠れる大事な野梨子ちゃんに言いがかりをつけてきた。
そのあんまりなはやし声に野梨子ちゃんは泣きそうになっている。
「野梨子ちゃんにあやまれ!」
と僕は彼女に毅然と言った。
・・・つもりだった。
僕は次の瞬間、あっさりと蹴り倒されていた。
そして僕は自分が守るべき存在なのだと教えられてきた野梨子ちゃんが僕を守って彼女と戦う姿を見てしまったのだった。
なんてこったい。
お勉強が出来ればなんとかなると言われてきた僕は甚だ落ち込んでしまった。
家に帰ると小学校4年生になった“おねえちゃん”が大笑いした。
「あっはっは、そりゃその“剣菱さん”の言う通りよ。」
男のくせに女にかばってもらってやんの。
僕の耳に彼女の声が聞こえる。
「僕はつよくなるよ。“姉貴”。」
と、僕は唇を引き結んで武道を習いに行く許可を両親のもとにもらいに行った。
男は知性だけじゃだめなんだ。
教えてくれてありがとう。剣菱さん。
あれはそれから数ヵ月後のことだったか。
道端で小学生(姉貴よりは年下みたいだ)が聖プレジデント幼稚舎の小さな子をいじめてる現場を目にした。
大変だ、助けなくちゃ。
僕がそう思う間もなく、薄い茶色のもこもこした奴がそこに飛び出した。
「あたしも混ぜろ!」
混ぜろって、混ぜろって剣菱さん!?まさかいじめっこに加勢する気か?と僕はどきりとした。
だが僕が驚いて動けないでいるうちにいじめられていた子は逃げて行ってしまったようだ。
あとに残されたのは剣菱さんといじめっこの小学生。
どういう流れでそうなったのかはわからないが、その二人が取っ組み合いの喧嘩になってるようだった。
彼女は確かに強かった。
でも相手が悪かった。
まだ幼稚舎にいる僕たちと違って相手は小学生だ。体格差がありすぎた。
なんとか相手の小学生が泣き出して負けを認めた頃には、彼女もずたぼろになっていた。
でも彼女は「いてえじゃねえか」と少し半べそをかいていただけで、本格的に泣いてるわけじゃなかった。
まだ武道を習い立てで見ていることしかできなかった僕は、自分の腕についた傷をぺろりと自分で舐める彼女を見てまたも愕然とした。
いつか彼女をこの手で守りたい。
彼女を守るのは僕の仕事だ。
理由はわからないが、そんな確信が湧き上がってきたのだった。
あとでどれだけ考えても、僕の仕事だとなぜそのとき思ったのかはわからなかったけれど。
10年たって僕が彼女を守れるくらい強くなった頃には、彼女もやっぱり強くなっていた。
楽しそうに喧嘩をする彼女は本当に気持ちよいくらいで、僕も余計な手出しはなるべくしなかった。
生き生きしている彼女を見るのが楽しかったからだった。
だけどね、いざとなったら必ず君を守るからね。悠理。
僕がそう思っていたのは独りよがりなんかじゃない。
「ハンディもらった!」
僕は彼女を蹴りつけようとする不良学生の醜い顔に向かって飛んだ。
僕がいつの間にか彼女を守れるだけ強くなっていたことに彼女は釈然としない顔をしていた。
自分より強いものを負かしたいという負けん気が燃えるのを見たような気がした。
でもね、悠理。
これからは僕たちがお前を守るよ。
僕と魅録でお前たちを守るよ。
もちろん最高に楽しそうなお前を止めるつもりもないけどね。
素晴らしい友人を得て楽しそうな野梨子。
でも僕も、手に入れた。
悠理の友人の位置。
そして助け合える友人たち。
僕たちはそうして10年の時間を経て、やっとであった。
(2004.7.16)
(2004.8.20公開)
(2004.8.20公開)
PR
Comment
カテゴリー
最新記事
(08/22)
(08/22)
(03/23)
(03/23)
(03/23)
メールフォーム