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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 12:46
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2015/03/04 (Wed) 22:41
こうして出会い、ここにいる。

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 悠理は自分の部屋に入って鞄を置くと、パソコンの電源ボタンを押した。
 起動動作の間に服を着替えてしまうのがいつもの習慣だった。
 本当は彼女はやりたいネットゲームがある時以外は大してネットにもメールにも興味はない。
 普段の友人とのやり取りは携帯のメールで済んでいるからである。
 それに顔をあわせない、声を交わすこともない繋がりなど、彼女は気持ち悪くて仕方がないのだ。

「悠理。僕宛に雅央君からメールが来てましたよ。」
 彼女にうるさく言って、メールチェックを日課にさせることに成功した男が言った。
「へ?あたいんとこには昨日は来てなかったけど。」
「どうせ夕方しかメールチェックしてないんでしょ。こっちの夜中に来てたから彼のいる西海岸では昼くらいに出したんでしょう。」
「ふーん。じゃ、来てないか見てよ。」
 こうして彼女の部屋に当然のように上がりこんでいる彼女の恋人(この単語を使うと、当の悠理は照れまくって怒り出す)である清四郎。さすがに彼女の許可がなければ彼女のパソコンに触れることはしない。彼女のプライバシーは大事にしてやっている。
 彼は彼女の許可を受けてメールソフトを手馴れた動作で起動させた。
「あ、こっちにも来てますね。あれ、僕宛より容量が大きいな。」
「雅央、なんだって?」

 雅央。悠理に瓜二つの容貌を持つ青年。二人が並ぶとまるで双子のようだった。
 彼は現在、病気の母親の治療も順調に済み、恋人とともにアメリカ西海岸で生活している。

「自分で確かめなさいよ。彼、幸せそうな顔でしたよ。」
「写真付かあ?」
と言いながらようやく彼女はクローゼットから出てきた。深い緑色の地に黄色い文字でとってつけたような英文が書いてある長袖Tシャツに、ベージュの膝丈パンツ。相変わらず少年のような格好だ。
 制服の学ランを脱いで胸元の蝶ネクタイもはずして、彼にしてはラフな格好となっていた清四郎は苦笑した。制服以外のスカート姿ももう少し頻度をあげてくれませんかね?
 悠理は清四郎が立ち上がってどいた机の前の椅子に座ると、マウスを握った。
 清四郎がうるさく悠理自身にパソコンを扱わせる理由が彼女だってわかってないわけじゃない。将来どんな形にしろ、この手のものに触らずに生活することはできないだろうからだ。

「うわあ、結婚?男同士でできるのか?」
 悠理がディスプレイに映った彼のメールの件名を見て、目を丸くしたのが清四郎にも画面に反射して見えた。
 雅央は同性愛者である。アメリカには同性の恋人と渡っていたのだった。
「ええ。入籍はまだ問題が多いようですけど、式だけは許してくれる教会があのあたりにはいくつもあるんですよ。」
「へえ。おふくろさん、許してくれたのか。」
 メールには結婚したこと。ずっと反対していた雅央の母親がやっと許してくれたこと。元気になった母親がアメリカまでの招待に応じてくれたこと。そんなことが書かれていた。
 添付ファイルとして、結婚式とそれに続くパーティーの様子が写された写真がついてきていた。
 清四郎宛のものより写真の枚数が多い。日常のスナップも混ざってるようだった。
「やっぱり彼も同じ顔の人間には親近感を感じてるんでしょうね。」
 そんなところに雅央の悠理への想いが見えるようで、清四郎は微笑んだ。
「“60億分の1の奇跡に感謝します”だってさ。」

 伴侶となった彼と出会えた奇跡。
 彼と愛し合うことが出来た奇跡。
 自分と同じ顔をした悠理と出会い、助けてもらった奇跡。

 すべてに感謝します。

 雅央のメールはそう締めくくられていた。
 清四郎へのメールにはなかった文言。

「確かに、不思議だよな。」
と珍しく悠理も神妙にディスプレイを見つめたままで言う。
「もしもあたいと雅央が逆の立場に生まれてたら、とうちゃんもかあちゃんもいい跡取りだって大喜びしてただろうなあ。」
 雅央は男で、しかもとても頭がいい。剣菱の次男として生まれていたら、長男である豊作のよい片腕となるか、彼を押し退けて跡取りになるかしていただろう。
「僕は嫌ですよ。そしたら悠理と会えなかったじゃないですか。」
 さらり、とそう言った清四郎に、悠理は少し頬を赤らめる。
 くう。情緒障害者だったくせに、なんでこいつこんなに恥じらいがないんだ?と彼女はディスプレイに映りこんだ恋人の顔を睨んだ。
「でもまあ、もしかしたらやっぱり事件を起こしたお前さんと、雅央くんの友達として出会っていたかもしれませんが。」
 トラブルメーカーの悠理。きっと何かしら事件に巻き込まれていたはずだ。

 だが、と思う。
 この家に生まれたからこそ、こいつのこの精神は育まれたのだ、と清四郎は思う。
 天真爛漫。好悪をはっきりと表現し、美味しいものをもりもりと食べては、自ら光を放ちながら飛び跳ねている。
 一般家庭に生まれていたら食費だけで破産してたな、きっと。

「そしたら、やっぱりお前とこういう関係になってたかな?」
 蚊の鳴くような声で悠理が呟いた。椅子の後ろに立っていた彼には俯いてしまった彼女の表情は見えなかったが、その髪からちらりと覗く耳が赤くなっているのは見えた。
 思わず口元が綻ぶ。
「ええ。きっと。悠理が僕に応えてくれなくても、僕は悠理を愛してましたよ。」

 ずるい。と悠理は思った。
 こういう風に話を進められたら、悠理は降参するしかないって、清四郎は知ってるんだろう。

「確かに、すごい確率の奇跡なんですよね。」
 頭上から清四郎の声が降ってくる。彼女が大好きな落ち着いた低い声。
「いまこの地球上には60億の人がいる。200以上の国がある。」
 勉強は苦手な悠理だが、その数字くらいは耳に覚えがある。
「その中で、僕たちはこの日本の、東京に生まれて育った。」
 日本だけで人口は1億3千万。その中の、二人。
「そうだ。同じ時代に、同じ年に生まれたのも、思えば奇跡に近いことです。」
 連綿と続く人類の歴史。
 そこで同じ時代に生まれた。同じ年に生まれた。
「そうして僕たちは聖プレジデントに入学した。学区の学校ではなく、ね。」
 上流階級の子弟が通う名門学園。
 そこに入学するような家庭環境にお互い生まれついた。

「そして、出会ったんです。」

 桜舞い散る校庭で、彼女はあかんべーをしてみせた。
 彼女に蹴り倒されて、彼は恋に落ちた。

「どこかで何かの糸が掛け違っていたら、僕たちは一生赤の他人だったのに。」

 それがこうして当然の風景として、一緒のフレームに収まっている、二人。

 なんとすばらしい奇跡だろう。
 なんと僕は幸運な男だろう。

 いつしか清四郎は目を閉じて感慨にふけっていた。

「あたいたちはこうしてるのがあたりまえなんだ。だから奇跡でもなんでもないやい。」

 清四郎が目を開けると、いつの間にか悠理が椅子をくるりと反転させて、向かい合う清四郎を上目遣いに見上げていた。
 その顔は少しも照れていなかった。
 なにをわかりきったことを、と彼女の目が語っている。
 まるで日常の会話であるかのように。
 いつも仲間たちとしゃべっている他愛のない会話であるかのように。
 ぽい、と彼女はその事実を彼に投げてよこした。

 その内容は難しく考えるのが嫌いな彼女らしい単純明快な考え方だった。

 清四郎は「ぷ」と吹きだした。悠理がむっと口を歪める。
「なんだよ。」
 この男のいつも彼女を小ばかにしているようなところはあまり好きじゃない。
 親友になってからの年月、ずっとバカにされ、意地悪をされてきたからにほかならない。
「いえ。悠理らしいな、と。」

 いつも、こうだ。
 色々と考えすぎて思考の糸が複雑に絡んでしまう清四郎。
 それを彼女はやすやすと解く。
 がんじがらめになった縄を、剣で一刀のもとに斬って解いてしまった、アレクサンダー大王のように。

 清四郎は思わず悠理の頭を自分の胸に抱きしめた。
「ぶっ。苦しいぞ、清四郎。」
 くぐもった抗議の声が上がったが、清四郎は敢えて無視した。
「愛してますよ。悠理。」
 胸にあたった彼女の額から彼女の頭一杯に響くように、その声が彼女を包み込むように、優しく彼は愛を告げた。
 すると彼女は、抵抗をやめた。

 奇跡でも何でも、すべては、必然。
 どんなに確率が低いことでも、起こってしまえば100%。
 彼らが出会ったことも。
 出会うための前提も。
 そして愛し合ったことすら、すべては必然。

 二人にとっては100%。

 二人でいるのがあたりまえ。
 すばらしい仲間とともに過ごすのもあたりまえ。
 この日常があたりまえ。

 そのすべての“あたりまえ”にたどり着くためのすべての奇跡も、やっぱり“あたりまえ”の出来事だった。

 清四郎はそのすべてを“あたりまえ”と言える奇跡に感謝した。
(2004.10.6)
(2004.10.11公開)
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