2015/03/04 (Wed) 22:45
あ、空が高い。
聖プレジデント学園きっての元気者、剣菱悠理は空を大きく振り仰いだ。
今は昼休み。束の間の休息時間。
常人の5倍近い量の弁当を平らげ、心地よい時間を過ごしているのだった。
中庭の片隅。
彼女の傍らでは切れ者と噂の生徒会長・菊正宗清四郎が穏やかな寝息を立てていた。
そこにいるのは二人だけではない。他の有閑倶楽部のメンバーも思い思いの日向ぼっこを楽しんでいた。
しばらくぶりに涼しい風が吹く、昼。
日陰にいると、半袖から出た腕に寒気を感じた。
「そろそろ清四郎を起こしませんと、風邪をひきますわ。」
とたおやかな日本人形のようなかんばせを曇らせて野梨子が言う。
彼女の幼馴染が、悠理の傍で寝息を立てているのを見るのは初めてではない。見慣れた光景だ。
「清四郎もこうやって寝顔を見ると可愛いわよね。」
可憐がくすくすと忍び笑いをもらしながら悠理の顔を盗み見る。
彼女のセリフにちょっと口を曲げて清四郎の顔を覗き込む悠理が見えた。
「しかし疲れてるみたいだな。医大の受験勉強くらいで今更こいつが疲れるとは思えんが。」
魅録は立ち上がり、自らの制服についた芝生のクズを清四郎にかからないように払いながら言う。
悠理が清四郎に顔を近づけるのを見るともなく目の端で捉えた。
「まあ悠理が声かけたら起きるんじゃない?」
美童は少し口の端を上げる。
本当は悠理に膝枕でもしてやったら?と言いたいところだ。でも確かにそろそろ起こさないとな。
「なあ、清四郎。起きろよ。風邪ひくぞ。」
悠理が清四郎の肩にちょっと触れた。
彼の瞼が少し震えてからうっすらと開いた。
「悠理?」
ぼーっとしたような声。
すっと彼の手が動く。
あっと止める間もなかった。
そのまま清四郎の指が覗き込む悠理の髪の中に滑り込む。
清四郎の肩が地面から浮き上がる。
二人の顔が近づく。
「ちちち・・・ちょっとまったあ!!」
悠理の手が清四郎の顔を押しとどめた。
彼女の顔が真っ赤になっている。
「なにすんだ!いきなり!」
ぼすっ。
一度浮き上がって離れたはずの大地に清四郎の頭が打ち付けられた。
まだ状況がわかってないのか、清四郎は目を白黒させている。
「お、やっぱ夏の間にそういうことになってたの?お二人さん。」
と美童がにやにやしながら言う声が聞こえた。
「ばあたれえ!そんなわけないだろうがあ!」
悠理は立ち上がって今にも美童に掴みかからんばかりだ。
「まあ、まだでしたの?」
しれっと野梨子が言う。
「まさか。そういうことでしょ?」
と可憐はお腹を抱えている。
「いや~、清四郎ってやっぱりこういう方面でも積極的なんだな。」
魅録は少し頬を赤らめつつも腕組みをして感心している。
清四郎はそれらの言葉を聞きながらだんだん現実へと意識が戻ってきた。
どうやらとんでもないことをしてしまった気がする・・・
ああ、空が高い。
夏ももう終わりなんですねえ。
と、地面に大の字になったまま空を見上げた。
頭の中を占めているのは、恋人のそこねてしまった御機嫌をとる方法。
さて、どうしましょうか。
(2004.8.23)
(2004.9.28公開)
(2004.9.28公開)
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