2015/03/23 (Mon) 01:20
キーンコーンカーンコーン・・・
チャイムが鳴っている。ああ、終礼だ。
と思って数分後、部室のドアが開いた。
「悠理、もう放課後よ。起きなさい」
「またサボって昼寝?大丈夫?」
可憐と美童だ。この二人が一番乗りとは珍しい。
「あれ?さっきの夢?」
と、テーブルから顔を上げた悠理に訊かれて、可憐が呆れて肩をすくめた。
「あたしにわかるわけないでしょ?寝ぼけてんの?」
言われてもぼんやりしていた悠理は、
「変な夢だった」
とだけ言うと、ほおおっとため息をついて再び机に突っ伏した。
「また予知夢とか勘弁してよ」
と、美童が苦笑しながら隣に座る。
予知夢?あれが本当になるってこと?
「マジ勘弁!!」
どんっと机に拳を叩きつけて悠理は叫んだ。
そこへ、
「なんだあ?何をエキサイトしてんだ?」
と、のんびり魅録がやってきた。
続いて清四郎と野梨子も入ってきた。
場の雰囲気がおかしいのに気づいて顔を見合わせている。
悠理の胸がどくん、と音を立てる。
「なんか変な夢みたみたい」
と、可憐が小さな声で三人に教えてやる。
「そんなに嫌な夢だったんだ?」
と、美童が悠理の頭をよしよしと撫でてくれた。
だが悠理はなかなか顔を上げることができないでいた。
魅録があたいに惚れる?
んで、あたいが清四郎に惚れる?
それからそれから、そのどっちかと付き合って、結婚して・・・
魅録の熱い瞳。
清四郎の温かい胸。
熱い。熱すぎる。煮えたぎる。
「悠理?真っ赤でしてよ。熱があるんじゃ?」
野梨子が気遣わしげに言うと、清四郎が、
「おや、悠理も季節の変わり目という人並な時期に風邪をひきますか?」
とさりげに失礼なことを言う。
だが悠理は三人の顔を見ることができない。
どうしてもさっきの夢を思い出してしまうのだ。
「ちょっと、悠理。本当に大丈夫なの?」
と、可憐が心配してくれる。
可憐はやさしい。本当に、いつだって。
夢の中で彼女は、恋に悩む悠理に優しく色んな事を話してくれた。
時にはずっと彼女の話を聞いていてくれた。頭が悪い悠理の話はとても遠回りでわかりにくかっただろうに、文句も言わなかった。
ほろり、と涙が出た。
「怖かったんだ。本当に、怖かったんだ」
突然涙を流しながら顔を上げた悠理に一同はびっくりした。
顔色が赤くなったり青くなったり、ありえないほどにめまぐるしかったので。
さすがにそんな様子の悠理に仲間たちも詳しく話を聞くこともできず、総出でとにかく慰めた。
よしよしと撫でてやり、可憐や野梨子が抱きしめてやり、お菓子や温かいお茶なんかを出してやり、ようやく少し落ち着いたところで帰宅の車に乗せてやった。
「本当に怖い夢なら誰かに言って吐きだしたほうが楽になれるかもよ」
という可憐の優しい言葉を手土産に。
車窓を流れる景色はいつも通りだった。
「みんな、ありがと」
と、悠理は小さく呟いた。
最初は生々しい記憶に戸惑った。
恥ずかしく、照れも感じた。
それから怖くなった。
二つの人生。二つの記憶。
そして、赤ちゃん。
お腹の中に自分とは違う命がいる、その感触。
それが空っぽになった時の喪失感。
そこから湧き上がった野梨子への怒り。
苦しくて苦しくて、怖かった。
あれは夢?
それともあの時、強く強く悠理が願ったから、高校時代まで時間が戻ってしまった?
違う。あれは夢。きっと夢。
それに大丈夫。あたいはバカだ。
明日にはあんな夢、忘れちゃってる。
明日は無理でも、きっと、大学生になるころには忘れちゃってる。
きっとあの夢の通りになんかならない。
あたいは選ばない。
あれ?それって覚えてないとできない?
いや、きっと覚えてなくても、選ばない。
だから、
「お願い。野梨子」
と願う。
どうか同じ記憶があるなんて言わないで。
あの未来を覚えてるなんて言わないで。
魅録も!清四郎も!可憐だって!美童だって!
「お願い。みんな」
このあと、誰も一人であたいを訪ねてくるなんて、しないで。
あたいの部屋のドアを、ノックしないで。
悠理は願っていた。
自室のドアがノックされ、開かれるその時まで、願っていた。
こんこん。
───嬢ちゃま、お友だちがお見えですぞ。
(2014.5.23)
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