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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/03 (Tue) 23:30
「プレゼント」後編。前編はこちら

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 清四郎はたった一つ、赤い紙袋だけを受け取って帰宅した。
「あら、清四郎。今年はそれ一つ?」
 たまたま廊下に出てきていた和子がそれに目を留めた。少し彼女がにやけているように見えるのは気のせいだろうか?
 いつもは山とチョコレートを受け取ってくる(でも半分は学校で悠理に消費させていた)弟が、高校生活最後のバレンタインデーに一つしか贈り物を持ち帰らなかったのである。
「ええ。しかも倶楽部の女性陣からの連名の義理チョコですよ。」
と、清四郎は苦笑しながらそれを掲げてみせる。
「あら、それ悠理ちゃんからじゃなかったの?」
 心底意外そうな顔をする和子に清四郎は一瞬顔が凍ったが、すぐになんでもない様子で続けた。
「ああ、渡してくれたのは悠理ですよ。彼女、合格しましたのでね。お礼だそうです。」
「・・・っそ。よかったわ。悠理ちゃん、頑張ってたものね。」
 ってことは皆からの連名じゃなくて悠理ちゃんからの本命チョコか、と思いながら和子は紅茶の入ったポットを抱えて自室へと入っていった。(それは和子の一人合点で表向きはやっぱり3人の連名だったのだが。)

 清四郎にしても「やはりばれていたか。」と思わないではなかったが、今日のところはこれでやりすごせるか、とやはり自室へと入った。
 制服を脱いでから、大事に大事にその紙袋を開封した。
 中には綺麗にラッピングされた箱。
 そして、小さな封筒。
 汚い字で「清四郎へ」と書かれている。
 見慣れた悠理の字に清四郎はほっこりと笑った。

 正直、悠理から義理チョコと公明正大に言われて他の二人と同じ扱いで手渡されたことで軽い失望を感じないではなかった。この行事にそんな風に期待している自分に驚きもした。
 だがあの時、悠理の目がちらちらとこの紙袋を見ていたのだ。
 なにか他の二人宛のものとは違うものがあるに違いないと、そう清四郎は勘付いたのだ。
 案の定、そこに入っていたメッセージカード。清四郎は丁寧にそれを開いた。



 十日後。2月24日と25日の二日にわたって、清四郎の志望大学の入試が行われた。
 特に緊張するでもなく淡々とその二日間の日程を終えた清四郎は、暖房で生ぬるいくせに奇妙に張り詰めた空気の漂う受験会場を後にして正門へと向かった。
 ふと、あと少しで門だというところで、清四郎の目に白いウサギが飛び込んできた。
「お出迎えですか?嬉しいですね。」
 門柱にもたれるようにして立っていたのは悠理だった。白い毛皮のコートを着て、頭にもウサギ耳のついた白い毛糸の帽子を被っている。
 黒いコートの清四郎と並ぶと対照的で、嫌でも人目を引いた。
「ん。お疲れ様。」
 悠理はにっこり笑った。
「ちょっと頬が赤くなってますけど、長いことここに立ってたんじゃないんですか?」
 ちょっと眉をしかめかける清四郎に、悠理はぶんぶんと首を振った。
「んーん。すれ違うかと思って走ってきたんだ。だって駅からここまで何人か受験生っぽいのとすれ違ったし。お前ってばさっさと解き終わって出てくるかなと思ったし。」
 結局は今はちょうど試験終了時刻。清四郎はコンパスの長さの都合で歩くのが早いので人ごみより一歩先にここに辿りついただけだった。
 もちろん清四郎は余裕をもって解き終えていた。一応念には念を入れて3回見直して出てきたのが今だ。
「車じゃないんですか。」
「だってすぐばれちゃうじゃん。」
 悠理は口を尖らせた。
 それは確かに、いまだに二人の仲は互いの家族にも内緒にしているのだが。
「もう、ばらしてもいいと思うんですけどねえ。」
 清四郎は苦笑した。
「そ、それはそうなんだけど・・・」
「それと悠理、例の件なんですけど。」
 そっと清四郎は悠理の赤い手袋を嵌めた手を握って歩き出した。
 悠理の頬は、今度は寒さのためでも運動のせいでもなく、赤くなった。
「決めたか?」
 わざとぶっきらぼうに言う。
「ええ。もうこれしか僕には思い浮かびませんでした。」



 バレンタインデー。
 メッセージカードに書かれた悠理の言葉は、自分の志望学科合格のお礼。
 これから受験である清四郎への優しい励まし。
 そして───

───お礼とお祝いを兼ねてプレゼントをやる。何がいい?

 とても可愛らしいとはいえない言葉遣いではあったけれど、そこに滲む悠理の気持ちが嬉しかった。(余談ではあるが、誤字が一箇所もなかったことも清四郎が感動した内容の一つである。)



 清四郎はきゅっと悠理と繋いだ手に力を籠めて、半ば彼女を抱き寄せるようにすると、耳元に囁いた。

「悠理を・・・ください。」

 ぴたりと悠理の足が止まった。
 清四郎も足を止める。
 二人は道端で無言で見詰め合った。
 周りを他の受験生たちが邪魔だ、とでも言うように、あるいは好奇の目で見ながら、二人を避けて通り過ぎていった。
 だが、二人ともそんな視線など気がついていても、気にする余裕はなかった。

 悠理の唇が一瞬震えたように見えて、そして開かれた。

「・・・わかった。」

 そしてほんのり微笑みあうと、また手を繋いで歩き出した。
「じゃ、プレゼントはお前の発表の後な。」
「そうですね。僕からもご褒美とお祝いを兼ねてプレゼントを用意しますよ。」
「ん。ありがと。」

 二人で駅までの道を辿る。ぽつりぽつりととりとめのない話をする。
 大事な時間。二人の時間。
 でも倶楽部の連中と過ごす時間も彼らの人生にもたらされた素晴らしいギフト。
「卒業式まで、もう少しですね。」
 答辞の原稿をそろそろ校長と詰めないといけませんよ、と清四郎が笑う。
「そうだな。」
と言いながら笑む悠理の顔は、静かだった。
 今までのように一緒に過ごすことは出来なくなるかもしれないが、悠理には清四郎がいる。魅録だってきっと可憐に会うために顔をだすに決まってるし、彼はもともと悠理の親友だ。
 だから、悠理は悲しまない。嘆かない。
 だからむしろ・・・。
「清四郎。卒業式で泣くなよ。」
「僕が泣くんですか?ありえませんよ。」
 清四郎が心底驚いたように眉をあげる。確かに、そうだろう。涙は流さないだろう。
「でも、さ。お前は聖プレジデントを離れるの、初めてだから。」
 清四郎と悠理と野梨子。幼稚舎からずっと聖プレジデントの学び舎で過ごしてきた。
 まあ、清四郎はさまざまな趣味の集まりで学外にも知り合いは多いのだが。
「多少は寂しいでしょうけど、ちょくちょく顔は出しますよ。」
 大学のサークルはメンバーを単一の大学の学生に限る必要はない。有閑倶楽部の部室こそ聖プレジデントに確保されていれば自分も魅録も必ず顔をだすだろう。
 いや、倶楽部にこだわらずとも、もうメンバーの皆とは家族同然なのだから。
「清四郎も魅録もいないんじゃ有閑倶楽部じゃないんだからな。絶対だぞ。」
「約束します。」

 結局、悠理が一番大泣きしそうですよね、と思ったが口には出さない清四郎なのだった。
(2004.11.15)(2005.1.14加筆修正)
(2005.1.19公開)
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