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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/18 (Wed) 23:56
「だから僕たちは」第1章第4回。

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 剣菱邸の住人となってから初めて彼が邸内の自室のベッドで熟睡し、これまでになくすっきりと目覚めた時、そこには彼の妻となるべき女性の姿はなくなっていた。
 ただ、乱れたシーツと、そこに散る赤い花びらが、あの出来事が夢でなかったのだという証拠となった。
 呆けたように自室を見渡しそこに他に彼女の名残がないか探す自分に、清四郎は気づいて苦笑した。



「僕は悠理を手に入れて、剣菱も世界も自分のものにした気になっていました。」



 だから雲海和尚が悠理に件の決闘の手ほどきをし、今また悠理の救援要請を受けて自分の前に立ちはだかったのも、簡単に打ち崩せるような気がしていた。
 何より、悠理が自分を拒絶して和尚に助けを求めたのにショックを受けた。
 あのときの彼女の声は、幻に過ぎなかったのか。

 そして、僕は。
 和尚の喝で、目が覚めた。



 僕はまだまだちっぽけな高校生だ。
 悠理のことを思いやることすらできなかった子供だ。
 何でも自分の思うとおりになると、小さな子供のように思い込んでいた。

 悠理を、剣菱と同一のものとしか考えていなかった、人でなしだ。



 数日後に東村寺に行くと、悠理が和尚へのお礼として道場の掃除や、鶏の世話などの手伝いにこきつかわれていた。
 清四郎は彼女が一人で床を拭く道場へ、一礼してから体を滑り込ませた。
 悠理はこちらに背を向けて雑巾を洗っている。
「悠理。そのままで聞いてください。」
 清四郎は正座をして彼女に話しかけた。
 悠理は彼が入ってきたときから気づいていたのか、身じろぎ一つせず、雑巾を洗い続けた。
「悠理。あのときのことは・・・」
「あれは事故だったんだ。」
 清四郎の声をさえぎって彼女が言うので、彼はひとまず声を止めた。
「お前はさ、嫌味だし自信家だし、今回だってジコチューだったいけすかない奴だけど、でも大事なダチだから。だから今までどおりがいい。」
「悠理・・・」
「何もなかったんだ。」
 まったく振り返らずにそう言うから、清四郎には悠理の顔が見えなかった。
 そんな彼にとって都合のいいことを言う、彼女の表情が、心が、見えなかった。
「悠理。本当にそれでいいんですか?なかったことにできるんですか?」
「・・・そんなに気にしなくても、いま生理中だから。ホントは道場入っちゃいけないんだろ?じっちゃんには内緒だぞ。」
 清四郎が言ったのはそういう意味だけでもなかったのだが、その言葉にほんの少し安心したのも事実だった。
 もちろん彼としては、もしも彼女が妊娠などという事態になったらその時は、彼女の両親に殺されてでも責任を取るつもりだった。
 だが、なかったことに、という悠理は頑なだった。
「ただ驚いただけなんだ。あれくらいのこと、あたいが気にすると思ってるのか?」
 そうして振り向いてくれてやっと見えた悠理の顔は、からりとした真夏の太陽のような笑顔だった。
 腕に刻まれた爪あとが、ぴりり、と沁みた。



「だから、僕は勘違いしていた。今までどおりに僕や皆と笑いあう悠理の姿に、ごまかされたんだ。」
 そういって清四郎は片手で口元を覆った。嗚咽がこみ上げそうだった。
「僕と試験勉強のために二人きりになるのも、事件がおきて一緒に行動するときに体が近づくのも、僕があいつの髪に触れるのも、あいつは全く無意識にすら拒まなかったから!」

 魅録も思い出していた。
 悠理が頭を打って嫌な予知夢を見るようになった時。
 彼女と可憐が死んでしまう夢を見たといって取り乱す悠理の頭をふわりと包んで鎮めたのは清四郎だった。
 それはまるで恋人同士の抱擁かと見まごうような、二人の様子だった。

「まあなあ、悠理も本当に嫌がってたんなら、あのときに体が逃げるなりなんなりしてただろうな。」
とつい口をついて出る。
「だから、本当に悠理にとってあの出来事は些細なことだったんだと、勘違いしたんです。辛くないはずはなかったのに!」
 そういう清四郎の顔は死人より真っ青だった。
 可憐に「突然男女関係の知識が必要になることもある。」と言われて青ざめたという悠理の顔色もこんなふうだったのだろうか?
 その言葉で、清四郎との突然の出来事を思い出したのだろうか?
 悠理はなぜそこまで頑なになかったことにしようとしたのだろう?
 清四郎は本当にその出来事をなかったことにしたままでいるつもりだったのか?
「清四郎、お前、悠理を従わせたくて、それだけであいつを抱いたのか?」
 その魅録の声は一切の妥協を許さない鋭さを持っていた。
「あの時はそう思ってました。でも正直わからないんです。」
 清四郎は逃げるつもりはもとよりなかった。
 青白い頬をして眉根を寄せる親友に、魅録はなおも追及の手を緩めない。
「お前、今度のことがなかったら、本当になかったことにするつもりだったのか?」
「悠理がそうあることを望むのであれば、そうするつもりでした。」
 即答するその清四郎の言葉に迷いはなかった。
 しっかりと正座の体勢を崩さず、魅録の目を正面から見据えていた。
「悠理が望むままに。それが僕の取るべき道だと、そうして悠理を見守るのが僕の役目だと、そう思っていました。」
 そこで、一瞬の沈黙が流れた。

「清四郎、俺はここ最近、今回のことが発覚する前に一つ気づいていたことがあったんだ。」
 急に魅録の殺気が薄れ声が穏やかになった。
 清四郎はその変化に怪訝な色を浮かべた。
「お前の悠理を見る目の色、だ。」
「僕の・・・?」
「驚くほど温かい目だった。いつもあいつを目で追っていた。あいつと一緒にいる俺がその視線に気づくほどに。」
 清四郎は目を見はった。
 魅録は清四郎のそんな顔を見て、ふ、と笑みを浮かべた。
「自覚がなかったのか?俺はそれで文句なくお前は悠理に惚れてるんだと思っていたよ。」
「・・・彼女を見守るのが僕の役目だと言ったでしょう?」
「まあ今の話を聞いて、お前の想いが恋なのか贖罪なのかはわからなくなったさ。でも、お前がそんなにも悠理のことを手に入れたいと思ったその想いは信じていいんじゃないか?」

 他の男に身を任せる悠理を想像して嫉妬した。
 だから、抱いた。

「確かにお前さんの行為は許されるもんじゃない。悠理が何を考えてるのかも推測の域を出ない。この先は俺の出る幕じゃない。お前を殴るにしろ殺すにしろ、それは悠理自身が決めることだ。」
「魅録・・・」
「もう逃げるな。悠理と向き合え。」

 びしっと魅録の指が、清四郎の心臓の真上を指した。
 清四郎は、知らず拳を握り締めていた。

「あとな、これは一つだけ好奇心で訊かせて欲しいんだが・・・」
「好奇心?」
 清四郎の眉がぴくりと動いたが魅録は見なかったことにして続けた。
「お前、今でもあいつを抱きたいと思うのか?」
 すると、清四郎の顔が見る間に歪んだ。
「僕にそんな資格があるわけないでしょう?悠理が僕が友人でい続けることを許してくれているだけで申し訳ないのに。」
「資格だなんだ逃げ口上はいらねえよ。」
と言う魅録の瞳に再び鋭い光が宿ったので、清四郎は観念せざるを得なかった。
 一つ溜息をつき、大きく息を吸ってから白状した。
「たぶん色んな意味で、僕はもう他の女性を抱けないと思いますよ。そしてもし・・・」
 そこでいったん言いよどむ。
 瞬きの間の逡巡。
「そしてもしも許されるのなら、あいつを抱きしめたい。」
 熱に浮かされたような表情とはこれを言うのか、と魅録が感心するほどの清四郎の顔だった。
 悠理はこいつのこんな顔を知っているのだろうか?
 だから、こいつを完全には拒絶できないのか?



 それからの悠理はまったくもって普段と代わり映えしなかった。
 貢がれた弁当をほくほく顔でほおばり。
 校内を縦横無尽に暴れまわる。
 運動部の助っ人要請から今日も逃げ回っている。

 制服姿で地面にあぐらをかいて貢物のケーキを大口開けて食べるさまに、可憐も野梨子も先日見た彼女の様子は幻だったのかと疑わしく思った。

 男性陣にしてもそれは同じで、今日も今日とて彼女と冗談を言い合っている。
「美童、また振られたんだって?」
「うるさいな、悠理。円満に関係解消したんだよ。お互い他に好きな人が出来たんだ!」
「その割りに今フリーみたいじゃん、お前。」
「悠理、図星をさされると人はみな立腹するんですよ。下手に図星をさすと美童でも油断なりません。」
「清四郎!図星ってなんだよ。」
 真っ赤になって悠理と清四郎に怒鳴り返す美童の肩をぽんと叩いて魅録が苦笑する。
「まあまあ、そんなことしてる間に新しい彼女候補に電話でもかけたらどうだ?」
「美童がキレたって怖くないわよお。」
と、可憐は携帯片手にぶつぶつ言っている美童の背中に追い討ちをかけるように言った。
「そうですわね。怒ったところで涙を流しながら怒鳴るか、女装するかしか私たちは知りませんわね。」
と、野梨子は湯呑みを口に近づけながら平然と言う。
「聞こえてるよ!」
と電話の通話口に手を当てて振り返る美童の背中に哀愁が漂っていた。

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