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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/19 (Thu) 00:11
「だから僕たちは」第2章最終回。

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「悠理、本当は豊作さんの用事なんかないんでしょ?」
 魅録の車が門を出るのを確かめて清四郎は言った。
 悠理の顔はまだ青ざめている。人外の気配をまた感じているに違いない。
「この気配、あいつに、似てる・・・」
 ぽつんと呟いて清四郎の袖をきゅっと握るから、彼はその手をぽんぽんと叩いた。
「悠理の部屋に行きましょう。」
 お浄めの塩でいったん寒気が治まった隙に邸内へと向かった。

 部屋に入ったとたんに、またも彼女が総毛立つのがわかった。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃ、いやだよ~。せいしろ~。」
 半泣きの様相で彼の喪服の胸元を掴む。
「どこにいますか?」
「わ、わか・・・」
『悠理。』
 急に名前を呼ばれて彼女は飛び上がって驚いた。
 顔を上げると、今日見送ったはずの顔が清四郎の肩越しに見えた。
「ま、将・・・」
と悠理が呟いたので、清四郎が彼女の肩に置いた手に力が入った。
 将は健康だったころ、悠理とたった一度キスを交わした最後のデートのときに来ていたパーカーを着ていた。
 その顔は最後に会ったときよりもまだ白く、寂しそうに歪んでいた。
『悠理、聞いて欲しいことがあるんだ。』
 その声は清四郎の耳には届かない。悠理がびくりと顔を引きつらせて身を引くことで、将が清四郎の傍にいることがわかる。
「聞かない!聞かないぞ!お前はもう死んでるんだぞ!」
と悠理は耳を塞いで目を瞑った。これで彼の姿は見えなくなったが、声は直接頭の中に響いてくる。
『話を聞いて欲しいだけなんだ。怖がらないでくれ。』
 将が近づくとその気配がわかって、ますます悠理は清四郎の胸元に顔を寄せる。
「悠理、九耀くんがいるんですか?」
 耳を塞いでいても押し当てた額から清四郎の声が響いてくる。それは落ち着いていた。悠理の肩に置かれた手は温かかった。
「あ、お前の後ろにいる・・・」
 清四郎の温もりにすがりながらがたがたと震える悠理は、顔を上げもしないで言う。
 清四郎は悠理の様子から当たりをつけて左肩越しに後ろを振り返った。
「九耀くん、悠理をどうする気です?」
 その声には彼女に対したものと正反対に温度がなかった。ぐっと悠理の肩を掴む。
 そのまま彼女を掻き抱いてしまいたかった。でもできなかった。
『菊正宗・・・』
と言った将の声が震えたような気がした。
 だから悠理は顔を上げた。
「将?」

 将の目が、清四郎を見ていた。
 その手が、清四郎の首元へと伸ばされた。

「待て!清四郎に何しやがる!こいつに手え出すな!」
 悠理は渾身の力を籠めて清四郎を横へとどかし、清四郎と将の間に割り込んだ。
 将を押し退けようとした反対側の手はすかっと空を切った。
 彼女の目がそれでもぎらり、と光った。

 さすがに転ぶことはせずに態勢を立て直した清四郎は、悠理のその目に、見蕩れた。

『違うよ、悠理。ただ彼の体を借りて話をしようとしただけだ。』
 眉をしかめてそういう将の口元は微笑んでいた。
『お前に伝えたいことがあった。本当にそれだけなんだ。』
「あたいに伝えたいこと?」
と悠理は首をかしげた。
『お前の霊感が強くて伝えることが出来るのは嬉しいけど、怖がらせちまったな。わりい。』
 将が苦笑した。
「なんだよ。言いたいことがあるならさっさと言えよ。」
 悠理が震えながら言う。自分に言いたいことがあるだけと言われてまたも恐怖が勝ったのだ。
『本当は伝えるつもりはなかったんだが・・・』
と一瞬言いよどんだ。

 あの時、言えなかった言葉。
 わざわざ発熱を押して大学に行ってまで本当は伝えたかった言葉。

 永遠に言うはずがなかった言葉。

『お前が好きだ。俺に未来があるのなら、次こそお前を落としたかった。』

「・・・へ?」
 悠理がぽかんと口を開いた。
 将は優しい目で悠理を見ている。
「あの・・・それ・・・だけ?」
『それだけ。』
 清四郎にはなんとなく将が言ったセリフがわかったような気がした。
 あの時、せっかく二人きりにしてやったのに、とうとう彼が言い出すことが出来なかったセリフ。
「ば、かやろ・・・!それだけのために悪霊になるかもしれない危険を冒して化けて出たのか?!」
 悠理は真っ赤になって怒鳴った。
 幽霊をしかりとばすとは彼女らしいと言うかなんというか。
「そんな言葉、生きてる間に言え!」
 ぼろり、と大粒の涙が零れる。
 死んでから言われても何もしてやれない。
 あたいなんかのために迷ってしまったなんて。
『言うつもりはなかったよ。お前には菊正宗がいるから。そして俺には未来がなかったから。』
 悠理は唇をかみ締めた。
 お見通しだった。
 あたいの気持ちはお見通しだった。
 たとえ生きているうちに彼にそれを告げられていたとしても、応えることは出来なかった。
『自分でもそれで納得してたはずなんだがな、こうして迷っちまったってことは、言うべきだったんだろうな。』
 ゆらり、と彼の姿が陽炎のように揺れた。
「将・・・体が消え始めてる・・・」
 悠理の声は掠れていた。
 だが彼はそれには応えずに、とびきりの笑顔で微笑んだ。
 あの遺影の笑顔みたいだ、と悠理は思った。
『幸せになれよ。』

 そして、光の中に消えた。

「彼は、行きましたか?」
 いつまでも虚空を見上げている悠理の肩を後ろから抱きながら清四郎は言った。
「ああ。幸せになれよってさ。」
 本当に馬鹿なんだから。
 あたいなんかをあんなに思うなんて、あいつ馬鹿だ。
 彼は、今度は俯いて泣き出した彼女を自分の方に向かせてそっと抱きしめた。
 彼女の手が、彼の背中に回された。

「清四郎、お前は死ぬな。あたいを置いて先に死ぬな。」
 不意に彼女が顔を上げて言うものだから、彼は目がそらせなくなった。
 彼女の涙で濡れた目が、彼の目を射抜いた。
「それは命令ですか?」
「そうだ。」
 その強い光が、彼の胸を鷲掴みにした。
 いいや、結局僕は・・・
「まるでプロポーズですね。」
「自惚れんな、馬鹿。」
 彼はこれ以上彼女の目を見ていられなくなって、ぎゅっと抱きしめた。
 耳元でその言葉を搾り出した。
「僕はお前に従う以外に選択肢はないんですよ。」

 お前が望むから、僕は友人であり続けた。
 お前が望むから、お前が他の男と付き合うのを見ていた。
 お前が望むから、僕は他の女と付き合った。

 すべてはお前が望むから。

「卑怯者。」
 悠理が呟いた。
「確かに、そうだな。」
 清四郎は自嘲する。

「でもあたいも卑怯者だ。」

 悠理が体を離して清四郎の顔を見つめる。
 その細い両手を彼の両頬へと添える。

 どちらからともなく、瞼を閉じた。

 2年ぶりに、そして今度は彼女から優しく与えられたキスは、涙の味がした。
 それは彼女がずっと欲しかったキス。
 そして彼女が望んでいたよりも、ずっと苦いキス。

「お前をあの世になんか連れて行かせない。」
 そう言ったのはどちらだったのだろう?



 友人に戻ったはずだった。
 だけど、どうしても捨てることが出来ない恋心だった。

 今が大事。今が愛しい。
 誰しもがいつ時が止まるかわからないから。
 だからこの気持ちはいま伝えないといけない。



「どうしたの?魅録。」
 魅録は喪服を脱ぐのもそこそこに、経済学部の可憐のクラスメイトである自分の彼女のもとに来ていた。
 彼女から告白され断る理由もなかったので付き合い始めて、半年になろうとしている。
「いや、あいつらの回り道もようやく終わるかな、と思ってさ。」
「あいつら?」
 だが魅録が何も答えなかったので、彼女はほおっとため息をついた。
「ねえ、魅録。ずっと聞きたいことがあったんだけど。」
「なんだ?」
「有閑倶楽部の皆様と私とどっちが大事なの?」
 魅録は一瞬びっくりして彼女の顔をしげしげと見つめた。
 なんだ、とうとう俺も言われたか、この質問。
 美童や清四郎が女と別れるときもこの理由が一番多いらしい。
「馬鹿。比較する対象じゃねえよ。」
 美童がいつも使っていると言うセリフを、言葉遣いを変えて彼もまた使った。

 しかし本当に別次元なのだ。
 彼女のことはそれなりに愛しいと思う。
 倶楽部の連中も大事だ。
 そして、それは矛盾なく並び立っているものであって、比較するべきものではないのだ。

 対立すること自体、彼の中ではありえないこと。

「でも私は不安なの。」
と、彼女のほうから別れを告げられた。

 付き合い始めも彼女から。
 別れたのも彼女から。

 魅録は甘んじて流される自分に舌打ちをした。



 悠理が清四郎と付き合うことにした、と言ったときに、魅録は皆と同じように祝福した。
 二人は幸せになるべきだと、常々思っていた想いは嘘じゃなかったから。

 そして魅録は、別れた彼女が可憐にひどく似ていることに気づいた。

 夏は眩しく儚く切ない。
 あの南の島でそう感じてから何年たったろう?
 いま、この東京で、同じ想いを感じていた。

 夏は儚く、どこまでも切なかった。
(2004.8.9)(2004.8.20加筆修正)
(2004.9.13公開)
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