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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 15:37
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2015/03/03 (Tue) 21:59
春の色はなんですか?頑張れワカゾー。

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「もう花も終わりだな」
 雪のように降りつんだ花びらを踏みしめながら、彼女は言う。
「なに言ってるんですか。まだまだ八重桜はこれからですし、躑躅だって木瓜だってしばらくは盛りですよ」
 花は染井吉野だけじゃない。春はまだ終わりじゃない。彼は言う。

 道のいたるところに花びらだけでなく文字通りのビラが落ちている。
 四月。大学の構内は各種サークルや部活の新入生勧誘のためににぎにぎしさで溢れている。
 さすがにどれだけ勧誘しても経費の無駄(言うまでもなく悠理の腹に消えていく)だと悟ったのか、学園の名物6人衆に群がっていた勧誘はわずか1週間足らずで一落ち着きを見せていた。
 今は新しい生活を始めようとしているらしいが、彼らはやっぱり6人で新たな部室を確保するに決まっているのだ。

 そう。ようやく有閑倶楽部の面々も聖プレジデント学園大学に入学したのである。

 悠理は葉が伸び始めた桜の枝を見上げ、その向こうの青空を見晴るかしながら口を開く。
「あーあ、こんなに空は綺麗でいい天気なのに、なんであたいはこの嫌味大王と二人きりなんだよ」
 ふう、と大げさにため息をついてみせる。
 ある程度は覚悟していても、彼女のあまりの食欲に大方のサークルは勧誘を諦めてしまっていた。
 他の皆はせっかくの新しい生活なのだから、と各自興味を引かれたいろいろなサークルに顔を出している。
 なのに多趣味を絵に描いたような清四郎だけはなぜか、マネージャーよろしく悠理と行動を共にしていたのだ。
「僕もこのあと東村寺に行くまでは暇なんですよ。付き合ってください」
と、清四郎はくすくすと笑いながら言った。
「なー、おまえ、あたいに付き合って運動系のサークルにしか顔出してないだろ?いいの?」
「別に構いませんよ。聖プレジデントの興味あるサークルには高校生のときから顔を出してますからね。一般の学生への勧誘がもう少し落ち着いた頃にでも顔を出しますよ」
 立ち止まり、けれど上を見上げたままで話しかける悠理の一歩後ろに立ち止まったままで、清四郎は答える。
「それに、春ですから」
と付け加えられて、悠理は思わず首をかしげて振り返った。

 けれど彼女をじっと見つめているのかと思った黒い瞳は、先ほどまで彼女が見ていた桜の枝先を見つめている。
「新緑が眩しいくらいですね」
 目を細める男の表情は、見慣れているようで初めて見るようで。
 ああ、そうだ、いつの頃からか、彼は彼女のことをあんなふうに眩しいものを見るような目で見ることが多いことに気づいてしまった。
 その目が、今は芽吹き始めた緑をじっと捉えている。
「悠理。春を表す色がなんだか知っていますか?」
「春の色?ピンクじゃなくて?」
「それは桜の色でしょう?」
 彼女がすぐに正答を出せないことなど予想の範疇という感じで、彼は悪戯っぽく眉を上げて視線を彼女にようやく向けた。
「じゃあ、なんだよ」
 憮然と悠理は問い返す。
「青、です。青春というでしょう?」

 夏は赤。朱夏。
 秋は白。白秋。
 冬は黒。玄冬。

「青々とした芝生なんて言うように、昔は緑色のことを青と言ったんです」
 だから、春は青。
 草木が芽吹く、緑の季節。
「へー」
 で?という感じで少しく悠理は苛立たしげな気分になる。
 別に自分はそんなことにまるで興味はないし、知らなくてもご飯は美味しい。
 なにより清四郎の視線が、傍にいると感じる体温が、彼女を落ち着かなくさせる。少し前からずっとこんな感じだ。
 逃げ出したい。でもそんなの悔しいし、大事な友人だと思えばこそ逃げない。
 なのですうっと清四郎が彼女の頭に手を伸ばしてきても、一瞬の逡巡があった。そして逃げる間もなく、彼の指先を髪先に迎え入れた。
「だから、春だから、僕も青臭く行こうかなと」
 ふわふわと彼の指が彼女の髪に触れる。
 ざわざわと彼女は首筋がむず痒くなる。
「は、話のつながりが見えないんだけど?」
 肩をすくめるような形になりながら彼女は彼を見上げた。
 そのやや怯えたような光に、清四郎は「おや?」という感じでまた眉を上げた。
「つまり」
と、彼女の髪に触れていた手を下ろし、彼女の顎のラインをつ、と辿る。
 びくん、と思わず目をつぶった彼女の耳元に口を寄せた。
「なるべく悠理の傍にいます。そういうことです」

 悠理はそのまま腰が砕けて座り込んでしまった。
「意味わかんねー」
と、べそまでかいている。
「じゃあもっとはっきり言いましょうか?」
 にこにこと彼女の目の前にしゃがんだ清四郎に、
「言わんでいい!」
と、悠理は拳を繰り出した。



「春、だねえ」
 金髪の男がにこやかに言う。
「春ねえ」
 ウェーブヘアの女も頬に手を当てて嬉しそうだ。
「やっぱ青ってよりピンクだろ」
 自身も年中ピンク色の頭をした青年が、頬を赤く染める。
「色もそうですけど、あれじゃ春というより『木の芽どき』ですわ」
 黒髪の少女が呆れたようにため息をついた。

 新しい季節。新しい毎日。

 明日から何かが変わるかもしれない。
(2007.4.5)
(2007.4.14サイト公開)
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