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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/03/03 (Tue) 22:06
美童くんのそれなりに幸せなクリスマス。カップルじゃないけど、たぶん。

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 男のロマンはいろいろある。
 冒険だったり、社会的な成功だったり、マニアックな趣味の世界だったり。
 光源氏のように若紫を育てることもロマンなら、新妻が裸エプロンで迎えてくれることもまたささやかなロマン。

 そして世の男が憧れるロマンの一つに、「山小屋で美女と二人きり」という状況もかなりの確率で含まれるという。



 そういうことにロマンティシズムを感じる男からすると今の状況はとびきり嬉しいに違いない。
 さらに言えば東洋の幼女に憧憬を感じる男にはまさに垂涎ともいえる状況であろう。

 美童・グランマニエはため息をひとつついた。
 ちっともロマンチックじゃないけれど。と。
「あとどれくらいかかりますかしらね?清四郎たち」
 かわいらしい声が彼のため息に続いて、そして小さなため息が続いた。
「どうだろうねえ。まだ2時間しか経ってないしね」
 彼は自身のため息の理由を勘違いさせてしまったことに気づいて、つけくわえた。勘違いしていてくれたほうが穏便だからだ。
 彼らの目の前には薪ストーブが赤々と暖かな光を撒き散らしている。

「お腹はすいてない?野梨子」
「ええ、大丈夫ですわ」
 黒髪の少女はほほ笑んだ。小柄な日本人形のような美少女。
 美童はいままさに、ある種の男たちが強くあこがれてやまない状況にいる。冬の山中、山小屋に野梨子と二人きりなのだ。
 美童という男の人間性を知る人間がこれを聞いたら、彼女の貞操を心から心配するに違いない。

 だが、まったくもってそんな心配は不要のものだった。
 彼には「親友たちは恋愛対象外」という不文律があるのだ。得難い女性の親友たちだからこそ、とてもチャーミングな女性たちと分かっていても、無意識に彼女たちは彼の恋愛対象からはずされていた。
 そのうちの一人と山小屋で二人きり。

 もちろん親友同士だし、これまでの2時間はこの山小屋に避難する羽目になった経緯も絡んだ事件の話題であっという間に過ごすことはできた。
 けれどもともと趣味の範囲がかけ離れている二人なので、その話題が尽きてしまうと、とたんに会話が途切れがちになったのだった。

「暇、ですわね」
「暇、だね。しりとりでもする?」
「いよいよとなったらそれもいいですわね」
と、二人は顔を見合わせて苦笑した。
「クリスマスイブなのになあ。今頃はライラとぬくぬくデートのはずだったのにぃ」
と、彼はネイビーブルーのタートルネックの肩をすくめてちょっと情けない声を出してみる。暖かくなったので、毛皮のコートは脱いでいる。
「可憐の危機でしたもの。こちらのほうが重要ですわ」
と、黒いアンゴラのセーターの上に白いコートを着た彼女はちっとも同情してないような声で返す。冬山での捕り物であるため、珍しく下はグレーのパンツスタイルである。
 予想通り期待通り、彼女の声にモノトーンの服と同様、妙な色など微塵も含まれないことに美童はほっとする。
「それはもちろんそうだよ。それに僕らはこうして安全なところに避難させてもらってるわけだし」

 そう、例によって倶楽部の連中は事件に巻き込まれていたのだ。
 今は戦力にならない野梨子と美童をここに避難させておいて、実戦部隊の3人が囚われの可憐を救いに向かっていた。派手な爆発音は30分ほど前にやんだし、そろそろ片が付いていると思うのだが。
 もちろん万が一の場合もある。もし敵がここへやってくるものなら、手元の火掻き棒を使って美童は野梨子を守るつもりではいた。「つもり」では。
 しかし野梨子はすぐに逃げ出せるように警戒してコートを着たままでいるのに対して、さっさとコートを脱いで黒いコーデュロイのパンツを穿いた長い足を投げ出している美童がいつものようにあまり役に立たなさそうなことは明白である。

「まだ晴天は続きそうですし、非常食も少しはありそうですわね」
 冬山とは言っても、人里に近く暖冬の影響もあり、この付近に積雪はない。
 冬至が過ぎたばかりの午後3時の太陽はかなり傾いて薄暗いカーテンが下りてきてはいるが、クリスマスイブというわりにはそこそこに暖かい。
 とはいえ、閉じられた窓や壁のほうからはひんやりとした冷気がじわじわとしみ込んできている。
「薪の量はこれくらいのストーブだったら2-3日はもちそうだよ。外にある分で」
 小屋の入口脇に積まれていた薪の量を思い出しながら、美童が言った。
 登山者の避難小屋でもあるのか、ここにはマッチと着火用の古新聞、缶詰などの非常食も準備されていた。後日、使わせてもらった分以上に返却しておくように手配しよう。
「美童が手際良く火を起こしたのには驚きましたのよ、こういってはなんですけど」
 アウトドアが得意な魅録や、なんでもそつなくこなす清四郎なら薪ストーブの火を起こすくらい難なくやってしまうだろう。
 美童にはそういうイメージはない。
 もちろん野梨子にはうまくできる自信がなかったので、最初に薪ストーブしかここにはないと気付いた時には戸惑ってしまった。
 だが、美童は細かい木切れと薄く割られた薪を組み合わせた下に火のついた新聞紙を入れて難なく火を起こすと、次々に放り込む薪を太くしていって火を大きくしてみせた。
「そりゃ北国の人間だし。日本じゃキャンプとかでやらない?」
「やったと思いますけど、自分ではやらせてもらったことがなくて」
 野梨子は頬を少し赤らめて目をそらした。
 そういえば小学部のころのキャンプでは野梨子は料理班に回され、清四郎を含めた他の生徒たちが火を起こしている間に包丁を動かしていた気がする。
 倶楽部のみんなで行動するようになってからも、アウトドアでそういう作業が必要な時は主に魅録や清四郎が、時に悠理がやってくれていた。自分と可憐はやっぱりはたから見ていただけだった。
「でも、今日じっくりと学ばせてもらいましたし、材料さえ揃っていれば次回から私もできますわ」
 ただ薪をきちんと組みさえすればいい。運動神経は必要なさそうだ。
「まあね。要するに空気の通り道をうまく作ってやればいいだけさ」
 あとはストーブの調節口で空気の量を調節して火力を調節すればよい。
「まあ、でもこれで野梨子に見直してもらえたんだったら、光栄だね」
 そう言われて、あら、と野梨子が美童のほうを見ると、彼は目を細めて面映そうに笑っていた。
 そして彼女は、それだけいつも美童の情けない姿ばかりを見ているのだわ、と思い返して、くすっと笑った。こんなことで喜ぶなんて、ね。

「あとは七面鳥でもあればそれはそれで結構いいクリスマスだね」
と、美童は天井を見上げた。
「あらあら、お腹がすいてるのは美童のほうですの?」
「そりゃ、育ち盛りの10代だから」
 ここはそれなりに安全が確保されているので、さほど緊張感はない。空腹感だって覚えるというものだ。
「みんなはどうやって迎えに来てくれますかしら?」
「それより忘れられてないかも問題だよ」
「・・・ですわね」
 危機にあるときには仲間の助けがあることは疑いようがない。だが、ひとたび安全だとなると、存在を忘れられてしまうことがある。過去の例から言っても意外と信用がならない。
 山小屋にカップ麺とともに放置されたり、南の島で海岸に放置されたり。
 もちろん今夜は6人そろって聖夜の晩餐と称した打ち上げ会ができると信じたいのだけども、はてさて。
「そりゃここにはモルダビアはいないけどさ」
 でもKGBの女闘士の代わりに、怒ると鬼より怖い野梨子がいる。

 今は可愛らしい少女の姿をしている野梨子がふうっとまた長く息を吐いた。
「まあ、なるようにしかなりませんわね」
「だね」
と、美童も肩をすくめた。
 どうせ今は待つしかできない。

「で?しりとりでもする?」
「ですわね。では、“クリスマス”」
「あ、先に始めたな」
「ほら、美童、“す”ですわよ」
「す、“スリップドレス”!」
「なんでいきなりそうなりますの?」

 二人が腰掛ける椅子の距離は1メートル。
 ストーブからはそれぞれ1.5メートルほど。
 恋人ではなく友達距離で、それぞれの目線の先は薪ストーブ。
 それでもそれなりに暖かい。

 たまにはこういうクリスマスの過ごし方も、ありか。
(2010.11.8)(11.22加筆修正)
(2011.1.20サイト公開)
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