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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/03/03 (Tue) 22:12
からかいながらもやっぱりそういう可愛いトコロが好きなんですよ。
クリスマス企画参加作品。

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ああベツレヘムよ などかひとり
星のみ匂いて ふかくねむる
知らずや、今宵 暗き空に
とこよの光の 照りわたるを(賛美歌115番)



 師ですら走り回るという師走。12月。最初の週末には期末テストも終わり、あとは一気に年越しムードとなった。
 何とか鬼家庭教師(=清四郎)による特訓で赤点なしで乗り切った悠理は特にはしゃいでいる。
「ほら、悠理。磨くくらい手伝いなさいよ。」
 期末試験終了後(自己採点終了後)の生徒会室では、一昨年購入したささやかなクリスマスツリーを飾り付けていた。
 ツリーの天辺の星は自分が飾るのだと握り締めた悠理に、可憐が片眉を上げて磨くための布を手渡したのだった。
 野梨子は他のオーナメントを美童と一緒に数えつつ、飾り付けるバランスを可憐とともに考えていた。
 魅録と清四郎は、悠理の身長ほどもあるツリー(市販の人工ツリーであるのでさほど重くもないのだが)を生徒会室の奥に仕切ってある物置から出してきて形を整えてやると、オーナメントを磨くのを手伝いながらそんな4人の様子を目を細めて見ている。
 生徒会室自慢のオーナメントは美童と可憐と野梨子が相談して選んだもので、金色のリボンと陶器の天使像をメインにしたシンプルかつ上品なものであった。
 派手好きの悠理には少しばかり寂しくもあったが、剣菱邸のツリーが今年は悠理の好みで飾り付けられる年なので我慢した。各人の好みがバラバラであり、なおかつ豊作氏を除いてみな自己主張が強い一家である。正面玄関ホールの巨大ツリーは毎年交代で各人の好みの飾り付けをすることになっているのだった。
(余談ではあるが、万作氏は万作ランドができたことで剣菱邸のツリーのローテーションからははずれることとなった。更に言うと、万作氏と百合子氏の年には結局二人の合作になってしまう。)

「これで最後っと。」
と悠理が満面の笑顔で星を自分の頭とほとんど同じ高さのツリーの天辺に乗せた。
「お、悠理もやっと学習したね。」
と、唐突に美童が言ったので悠理は首をかしげた。
「何がだ?美童。」
「今年は“短冊は?”って言い出さなかったね。」
 笑いをこらえるように言う美童に悠理は顔を真っ赤にさせた。
「なんだよ!ちょっとした勘違いだろうが!」
「去年までは毎年言ってましたけれどね。」
 野梨子もくっくっと眉をしかめながらも笑っている。
「わ、笑うな!お前と清四郎も悪いんだぞ!」
「あら、ま。」
「なんで僕たちのせいなんですか。」
 むっと唇を尖らせた清四郎のほうへ、悠理はくるりと振り向いた。
「誰も注意してくれなかったからずっと間違ってたんだぞ!」
 そりゃあ、誰も高校生になっても素で間違ってたなんて思いませんよ、と清四郎は心の中でツッコんだ。

 悠理は幼い頃からずっと剣菱邸のクリスマスツリーにも願い事を書いた短冊をぶらさげていた。
 小学部の児童玄関前のツリーにも、小学生の頃の悠理は短冊を下げていた。しかし悠理は学園のアイドルだった。誰もそれに注意することはできず、むしろ微笑ましく見守っていたのだった。
 いくらなんでもそのうち自分で気づくだろうと思われていたのだ。他の誰も短冊を下げていないのだから。
 しかし結局、中学3年生の時にこの6人で初めて剣菱邸でクリスマスパーティーを行ったときに美童にツッコまれるまで悠理は己の間違いに気づかなかったのだった。

 それでも昨年まではやっぱりいつもの癖で短冊を飾らないのかと、ツリーを飾るたびに訊ねる悠理だった。
「さすがに途中からは引っ込みがつかなくなってわざとやってるんだと思ってたんですよ。」
 肩をすくめて言う清四郎を悠理はむうっと睨む。
「毎年毎年バカにする奴のセリフかよ。」
 つい昨日まで期末試験の勉強で、目の前の鬼に散々バカだアホだと罵倒されていた悠理である。その恨みも重なってつい声に怨念がこもってしまう。
「はいはい。今年は一つ賢くなりましたね。偉い偉い。」
「その口調がすでにバカにしてるって言うんだ!」
「まあまあ、いまコーヒー淹れたから、一息つきましょ。」
 このまま放っておくと延々と言い争いが続くと思ったのか、可憐がすかさずとりなした。
 この空気の読み方は可憐ならではである。

 コーヒーとともにチョコレートケーキが出される。
「うわ!龍宮菓子店のケーキだ!」
「千秋さんからテスト終了祝いだってさ。」
 今朝これを崩さないように気をつけながらバイクで持ってくるのに苦労した魅録がちょっと苦笑いを浮かべて言う。
「あら、珍しいですわね。いま帰ってみえてるんですの?」
 野梨子の言うことももっともである。家事も育児もほぼすべて放棄して年中海外を飛び回っている魅録の姉のような母親の顔を全員が思い出しながら、確かに彼女がどういう風の吹き回しだろう、と思った。
「まあな。今は親父が忙しい年末でベタベタされないからな。それに誕生日までにはまた出かけるだろ。」
 夫にベタベタされるのが嫌で、忙しい時期を狙って帰ってくるあたりは大変彼女らしいと言える。
 23日の誕生日にはまるでその夫の愛を試すかのように気まぐれに出かけている先に花束を持ってこさせるのだ。
「これもいつもの気まぐれってことか。」
 美童も「しょうがないな」という表情丸出しで苦笑した。
 その横では悠理がケーキの半分を一人でぺろりとたいらげてご満悦の表情を浮かべていた。



 清四郎は自室にいた。夕食も風呂も済ませ、今日買った小説も1時間ほどで読み上げた(文庫本ならどんなに分厚くても2時間以内には読み上げてしまう)。
 あとは寝るだけ、という時になって、彼はそっと机の中から箱を取り出した。
 そこに入っているのは、彼が子供の頃から知人友人と取り交わした時候の手紙の類。葉書は専用のファイルに整理されているが、形もサイズもまちまちの封書は付き合いのカテゴリー別に袋に入れてこの箱にしまっていた。
 そして清四郎は、箱の底から一枚の紙を取り出した。



「え?クリスマスツリーも短冊飾るもんじゃないのか?」
「七夕の笹だろ、そりゃ。」
と、魅録が苦笑した。
 中学3年生にして衝撃の事実を知って、悠理は愕然としていた。
 悠理のその習慣を知っていた清四郎も野梨子も、中等部から入学して他の小学部から持ち上がりの女の子の噂でそれを知った可憐も、「わざとじゃなかったのか。」と驚いていた。
 そしてこの年になるまで誰も注意しなかった剣菱家の人々にも驚いた。後に家族ぐるみで付き合ううちに、剣菱家の人々が大変におおらかな結果そうなった(豊作氏は多忙で気づいていなかった)ことを彼らは知るのだが。
「“星に願いを”って言うじゃんか!」
「あれはディズニーのピノキオのテーマ曲だよ。」
と美童も苦笑する。
「ついでに言えば、クリスマスの曲でも、ましてや七夕の曲でもありませんよ。」
と清四郎が涼しくツッコむ。
 可憐と野梨子も顔を見合わせて肩をすくめている。
 悠理は皆が一様に呆れ顔なのに気づくと、顔を歪めて玄関ホールのツリーにぶら下げていた短冊を引きちぎるとくしゃくしゃと丸めた。
 そして、
「もっと早くに教えろ!バカたれ!」
と、顔を真っ赤にしながらそれを清四郎と野梨子が並んでいるほうへと放り投げた。
 清四郎はやはり表情を変えないまま、野梨子の眼前に飛んできたそれをひょい、と受け止めると、
「こらこら、ゴミを放り投げるんじゃない。」
と言った。
「うるさい!」
 悠理はくるりと踵を返し、宴席が設けられているダイニングのほうへと大股で歩き出した。今日は6人だけのパーティーなので、大広間ではなく剣菱邸にいくつかあるダイニングのうちの一つを会場としているのだった。
 5人は顔を見合わせて「やれやれ」という表情を浮かべると悠理のあとを追った。
 これからもこうして悠理に振り回されることになるのだろう。



 清四郎は、あの時の悠理の顔を思い出し、ふふ、と軽く笑みをこぼした。
 よく言えば純粋無垢。悪く言えばいつまでも物を知らない幼稚な奴。
 あの時に皆が予感したとおりになった。悠理の無邪気さには皆いつも振り回されている。
 でもそれが悠理なのだ。

 清四郎が手にした紙。くしゃくしゃに皺が入っている。
 そこにはマジックでこう書かれていた。
───この世からテストがなくなりますよーに   ゆうり
 中学生のときも確かに彼女は年末は期末テストでひーひー言っていた。
 実に悠理らしいといえば悠理らしい。

 あの時、清四郎の手に収まった悠理の願い事。もちろんこれが叶うことなどかなりの確率でありえないだろう。
 だが、清四郎は彼女に習ってクリスマスにだって星に願いをかけてもいいかもしれないな、と思う。

 短冊の隅にはこっそりと端正な字が書き足されていた。
───悠理のもっと色々な表情を見れますように。 清四郎
 あれから4年。この願いは叶った。
 表情豊かな彼女であるから、遠目には仲間になる前もたくさんの表情を知っていた。
 しかし、己を頼りに泣きついてくる顔も、親しい人間だけに向ける無償の笑顔も、無防備な寝顔も、この4年で初めて知った。

 そしてさらに願う。
 もっともっと、彼女の色々な表情を見たい。
 願わくは彼女の恋する顔を。
 恋に泣き、恋に笑う、その顔を。
「ま、当分は無理ですかねえ。」
などと言いつつ、清四郎はツリーの天辺に彼女が飾った星を瞼の裏に浮かべた。
(2005.12.3)
(2005.12.11公開)
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