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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/03/03 (Tue) 22:28

お題「夏休みの宿題」。
夏休みに南国へ連れてこられた悠理を待っていたのは。


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 抜けるような青い空。どこまでも青い青い、空。
 深い深いコバルトブルーの海。どこまでも碧い碧い、海。
 陸にはエメラルドグリーンの木々が生い茂り、白い砂浜には波に乗ってやってくる貝や海草がまばらに散らばっているだけ。
 赤や黄色や青などの色とりどりの鳥や虫たちが緑の周囲を彩っている。

 麗しの熱帯の楽園。

 ここで剣菱悠理は一人、波に身体を浸しながら溜息をついていた。



 ことの起こりは夏休み初日の朝の食卓。
「悠理。新しく買った南国リゾートの長期視察に行くから、あなたも一緒なさい。夏休みでしょう?」
と、珍しくも同じ食卓についた母、百合子から提案されたのだ。
 否。彼女の“提案”はほぼ“命令”に等しい。
 もとよりアウトドアが好きな悠理である。その“命令”に素直に従うことにした。

 友人たちと夏を過ごす約束は8月に入ってからのはずだったし、視察が長引いたところで友人たちを強引に呼び寄せればいいだけの話。
 大和撫子である少女の親戚筋の九州の高原にある別荘が南国になったからと文句を言いそうなのも、当の少女と、日焼けが嫌いな美容命の少女に北国の青年。少なくともピンク頭のアウトドア小僧と実は冒険好きな黒髪の男は、やや眉根を寄せながらもにやりと笑みを交し合うのだろう。
 文句を言いそうな3人とても、健康な10代の少年少女。結局は一緒に南国を楽しんでくれるのに違いない。

 そうして半月は悠に過ごせる荷物とともに、タンクトップに短パンに麦藁帽子と言ういでたちでリゾートに降り立った悠理は、そこで意外な人物と顔を合わせることとなる。
「美由紀おばちゃん?」
「お久しぶり、悠理ちゃん。すっかり百合子ねえさんそっくりの美人さんに育ったのね。」
 黒髪を耳の上でベリーショートに切りそろえてはいるものの百合子そっくりの美貌を持つこの女性、王松美由紀は、百合子の従妹である。

 若かりし日の百合子が剣菱のメイドに出るほどに困窮している家だったので、その当時百合子の実家と親しく行き来している親類はなかったのだが、美由紀の一家だけは別だった。百合子の母、すなわち悠理の祖母と美由紀の母は仲のよい姉妹だったのだ。
 そして美由紀の両親は早くに亡くなったので百合子の母が手を差し伸べて、二人は姉妹同然に育ったのだった。
 後に百合子が万作に全財産を譲られて結婚したことで百合子の実家も物持ちになった。
 一気に親戚と称する人間が増えたが、百合子が真実自分の血縁のものとして扱っているのはこの美由紀だけである。

「おばちゃんも一緒に視察?珍しいね。」
 なんの疑いもなくにこにこと話しかける悠理に、百合子と美由紀は目配せをしあった。
「悠理。この島は剣菱リゾートの所有で、このホテルと空港以外には、もとからこの島に住んでいる現地の人の家しかありません。」
 百合子が説明を始める。
「もとはイギリス領だったので島の人は英語しか話しませんし、スタッフにもオープンまでは英語のみで過ごしてよろしいと言ってあります。」
 悠理の胸をいやーな予感がよぎる。まさか・・・。
「ってことは母ちゃんかおばちゃんが通訳してくれるの?」
「私は万作さんが滞在してるマイタイ王国のほうに招待されてるのですぐに発ちます。」
 百合子が平然と言い放った言葉に、悠理は冷や汗がにじみ出てくるような気がした。
「おばちゃんは・・・?」
「ここにいますけど、通訳はしてあげない。」
 にこにこと百合子そっくりの優しげな笑顔とともに、美由紀はきっぱりと言った。

 つまり・・・。
「悠理。日本語しか話さないところにいるからあなたはいつまでたっても英語ができるようにならないんです。学校の机上の英語はできなくていいから、生きた英会話をここで実践なさい。」
「うそーーーーー!!」



 さすがに悠理に用意された部屋はスイートルーム。
 しかし彼女のノートパソコンも携帯電話も取り上げられた。
「代わりに夕食後に私がノートパソコンを貸してあげるから、お友達や豊作さんにメールしてもいいわよ。」
「ほんと!?」
 悠理の顔が輝く。
「ただし、英語しか打てないし読めないパソコンだけどね。」
 あっさり返されて、悠理はかっくんと項垂れた。
「送信する前に添削してあげるから、ローマ字で打とうなんて真似もできませんからね。」
 ものすごく逆らいたい。日本に逃げ帰りたい。父や兄や、他の人が相手だったらとっくに逆らってる。
 だけど、美由紀叔母には逆らえない。
 何しろ鬼より怖い百合子と同じ血筋なのだ。
 百合子の血を直接継いでいる悠理ではあるが、やはりこの人の迫力には勝てないのである。



 日本に残る倶楽部の5人へはすぐに剣菱家の執事・五代から仔細が伝えられた。
「気の毒~。」
と顔を曇らせたのは可憐一人で、あとの4人は「あの悠理に英語を教え込むなんて本当にできるのか?」と首をかしげていた。

 ともあれ、なんとか最初に届いたメールの中身に一同は笑い転げ、彼女の健闘を祈った。

『I am very hungry! Give me chocolate!!(ハラ減った!チョコくれ!)』



 とにかく悠理は頑張った。
 まず最初に食事のオーダーをマスターした。オーダーできねば飢えるのである(もちろんそこらじゅうに南国フルーツが実っているのだが、「毒の実も混ざってるわよ」と言われ、事実一個だけ食べた果実で腹を下してしまった)。
 そして島中を探検して回った。なので食事に関することの次に、危険への警告を聞くことを覚えた。

 だがそこで壁にぶち当たった。
 いつもは強引に日本語が通じない相手にでも日本語でコミュニケーションをとる彼女であるが、片言の英語までではそれ以上の意思の疎通は望めなかった。
 島も、あっという間に探検しつくしてしまった。
 つまりは退屈に襲われたのである。
 日本語が通じるはずの美由紀までもが日本語での呼びかけを無視するのだ。
 喩えようもないほどの疎外感を、悠理は感じた。

 いつ日本に帰れるのだろう?(もちろん2学期が始まるまでには帰してくれるだろうがあと1ヶ月もあるのだ。)
「みんな・・・来てくれないかなあ。」
 もちろんメールは皆から毎日届いていた。
 英語が苦手な可憐からはあまり長いメールは来なかったが、「今日はこんな料理に挑戦しました」「今日のネイルはちょっと失敗しちゃった」などと写真つきで送ってくれた。
 美童は世界中を飛び回っているようで、時差の都合であまり他の皆と同じタイミングでのメールにはならなかったが、旅先の美しい景色の写真を添付してくれた。
 清四郎と野梨子は、丁寧に彼女の英語の上達を褒めてくれ、さりげなく簡単かつ実践的な言い回しを織り込んで教えてくれた。
 魅録からは悠理と共通の友人たちとのツーリングの様子などがレポートされた。

 寂しさが最高潮に達している悠理にとっては、皆からのメールだけが心の支えとなっていた。

『ユーリ!』
 美由紀が呼ぶ声に、白い水着を着て波に洗われていた悠理ははっとした。
 通訳をしてくれないとは言っても、ここで彼女が必要以上に危ない目に遭わないように気を配ってくれているのは美由紀叔母である。そしてここと日本とを繋ぐ窓口となってくれているのだ。
『日本から小包が届いてるわよ!』
『小包?』
 誰からだろう?と悠理は首をかしげた。

 部屋に戻ると、届け物は冷蔵庫に入っていた。
 15センチ四方の箱に、見覚えのある包み紙。主に彼女は3学期に馴染みのその箱の中身。
「生チョコ???」
 悠理はリボンに挟まれた封筒を手にとって冷蔵庫の戸を閉めた。

 メッセージカードには几帳面な手書きの文字が並んでいた。

『You can surely do it!! Do your best!(お前ならきっとできる!ベストを尽くせ!)』

 見覚えのある文字。いつもいつも試験前に、彼女の隙間だらけのノートや教科書に書き込まれる文字。
 どんなに頑張ってもある程度以上英語が上達できない悠理にも理解できる、簡単な言い回し。

「せーしろー・・・。」
 カードと一緒に写真がついている。清四郎と野梨子と可憐とで、悠理の部屋でタマとフクと一緒に撮った写真だった。
 二匹とも元気そうだ。
「くそー、こいつらもあたいがいなくても元気だってのかよー。」
 悠理がいなくて愛猫たちが寂しがっていないか心配だったのが払拭されたと同時に、胸がずきん、と痛む。
 ぽろり、と悠理の頬を雫が滑り落ちた。

“おまえならできる。”
 清四郎がときおり言ってくれる、その声が聞こえるような気がした。



 清四郎はシャワーを浴び、己の部屋に戻る。今日も1日忙しかった。
 午前中は東村寺で合同稽古。師範免状を持つ清四郎も小中学生に型の基礎を教える。
 午後はいくつも通っている趣味の会合のうちの一つ。毎夏に発行している会報の最終チェックである。
 そして1日の最後にメールチェック。南の島に行っている怠け者を含め、倶楽部の皆は宿題なんぞ手をつけていないのだろうが、彼はすでに9割がた終わらせていた。残っているのは今夏起こった国際的レベルの事件についてレポートする宿題だけである(こればかりはもう半月ほど待たねばテーマも選べない)。

 メールボックスを確認すると、南の島の少女からメールが届いていた。
 いつものように開いたところで、清四郎は瞠目する。
 ここのところさ寂しがっているのも手伝ってか、英語に慣れてきたのもあってか、メールの文面が長くなってきていた。
 なのに今日のメールはまるで最初の頃に戻ったかのように、2行だけ。

『Thank you for giving me chocolate.(チョコ送ってくれてサンキュ。)
 I miss you.(寂しいよう。)』


「もう限界みたいですね。」
 清四郎はふう、と溜息をついた。
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