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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/03/03 (Tue) 22:32
「あたいの夏休み」後編。

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 頭上には満天の星。東京ではまず拝むことのできないミルキーウェイが見える。
「おばちゃんはさ、剣菱と関わって世界中を回ってて寂しくないの?」
 生チョコを頬張りながらあまりに泣く悠理を見かねたのか、美由紀叔母は「今夜だけよ」と日本語で語り合うことを許してくれた。
「寂しくなんかないわよ。どこに行っても誰とでも友達になれるもの。」
「でも、家族は?」
 砂浜に座り込んだまま悠理が見つめてくるので、美由紀も悠理の隣に腰掛けた。肩にかけたショールが風になびく。さすがに夜はホルターネックだけでは寒いので。それに毒虫への用心でもある。
「世界中のお友達が家族・・・とは確かに難しいかもね。」
 美由紀は独身だった。そして一人、百合子の手伝いなどしながら剣菱の仕事で世界中を回っている。
「でも悠理ちゃんも豊作さんも、万作さんも百合子ねえさんも、あたしには家族だわ。」
「うん。そうだね。」
 静かに微笑みかけられて悠理も笑みを返す。
「結婚して欲しいとは、何度か言われたわ。」
「彼氏いんの?」
「そのときどきにいた、ってこと。」
 だけれど、美由紀が年頃になった頃にはすでに百合子は剣菱夫人だった。剣菱の資産は百合子の実家のものだった。
「どいつもこいつも剣菱目当てだった?」
 悠理にずばり訊かれて美由紀は苦笑を返す。それははっきりさせぬが花である。
「そういう視線に疲れちゃってたの。本当にあたしを愛してくれた人を、見過ごしちゃったみたい。」
 彼は大人になっていた。よき父になり、家庭的な女性にむかってのんびりとした笑みを浮かべていた。
 一人だけ、結婚しようかと思った人だった。
「そういう人がいたんだ。」
「時々ね、たまらなく会いたくなるわ。」
 でも、会えない。家族じゃないから。恋人でもないから。

「悠理ちゃん、いま一番会いたいのは、誰?」
 美由紀の質問に、悠理は沈黙しか返せなかった。



 待ちに待った機影が見えた。
 悠理は空港の到着ゲートで待ち構えていた(小さな空港なので到着ゲートも出発ゲートも大差なく横に並んでいるのだが)。
「おーい、みんなー!」
「きゃ、悠理。暑いじゃない!」
「荷物が出てくるまでまってくださいな!」
 きゅうに抱きつかれて可憐と野梨子が苦情を言う。
 男性陣は苦笑を交し合い、魅録が悠理の肩をぽんぽんと叩いた。
「ほらほら、野梨子の荷物運んでやれよ。」
「ん。」
と顔を上げた悠理の目に光るものが見える。
 よっぽど寂しかったんだあ、と美童もちょっと胸をきゅんとさせた。
「ほら、英会話の勉強の成果はどうしたんですか?聞かせてくださいよ。」
 急に冷や水を浴びせられるように言われて、悠理はがばり、と野梨子からはがれた。
「なんだよ!お前らがいる間くらいはいいじゃねえか!ヤなこと言うな!」
 にやにやしている清四郎の胸倉をつかんで叫ぶ悠理の目許はすでに乾いている。
 あっという間に泣きやませたわね、と可憐はくすり、と笑んだ。

 悠理は1日はしゃぎまわっていた。
 よほど寂しかったのだろう、と皆も苦笑しながらも目一杯それに付き合っていた。
 翌日はさすがにぐったりとした野梨子、可憐、美童をホテルに残し、悠理は魅録と清四郎だけ連れて島内の冒険スペースへと向かう。
 途中、島の人たちに気軽に声をかけられにこやかに英語で答える悠理を見て、男二人は「おや」とした笑みを交し合った。

 そして楽しい10日間はあっという間に過ぎ去り、明日は悠理もみなと一緒に帰国という前夜、ホテルのコック長が腕を振るったご馳走が振舞われた。
 美由紀も交えての飲み会。皆は「百合子があと15歳若ければ」(実際には10歳違い)という容貌の美由紀の姿に、ここに来た当初はほんの少し萎縮していたが、別に怒られるようなことをしに来たわけじゃなし、すぐに馴染んでいた。

 夜も更けようという頃には、全員が酔いつぶれてめいめいの寝室へと戻った。倶楽部のみなの部屋は悠理のスイートルームの中である。寝室が6つ、バスルームが2つあるのだ(リビングと書斎を共用する形である)。初めからこの6人を泊めるために設計させたスイートルームなのだろう。
 ベッドの上で座禅を組んで寝る前の瞑想にふけっていた清四郎は、己が部屋のドアをノックする音に気づいた。この気配は・・・。
「どうぞ。悠理。」
「あたいだってわかっちゃった?」
 他の皆を起こさぬように、いつものような乱暴なノックはしなかったというのに。
 ドアを開けて覗いた悠理に清四郎は「わかりますよ。」というふうに片方の肩をすくめてみせた。
「どうしました?僕がまだ起きてるとよくわかりましたね。」
「そんなに飲んでなかったじゃん、お前。」
 遠慮なく部屋に入ってきて清四郎のベッドの脇まで悠理はずんずんと進んでくる。
 Tシャツに短パンという夏の軽装でバスローブ姿の男の部屋に深夜に一人で入ってきているという自覚はないのか、と清四郎は少しく呆れて、それからそんな風に思った自分に驚いた。悠理のことなど女に見ていないくせに、と。
 気を取り直し、
「で?背後に何を隠してるんですか?」
と尋ねた。悠理は先ほどから背中の後ろに手を隠したまま歩いてきたのだ。
「宿題の質問なら受け付けますけど、丸写しはさせませんよ。」
 わざと冷淡を装って言う。これが普段の関係なのだから。
「ばーか、こんなとこでまでヤボなこと思い出させるな。」
と、悠理は目を細めて清四郎を睨んでから、ちょっと口をぱくぱくとさせた。
「なんですか?」
「だから、その・・・チョコ、あんがとな。」
 悠理は真っ赤になった顔を俯かせて背後に隠し持っていたものを清四郎の方へと突き出した。
「コースター?」
 それは椰子の繊維で編んだもののようだった。
「や、安モンでわりぃんだけど、でも島の女の人たちが編んで、結構売れる土産品だって。」
「特産品なんですね。」
「ん、で、安いついでに不恰好でごめん・・・。」
 悠理がもじもじとするので清四郎は目を見開いた。
「もしかして、悠理が作ってくれたんですか?」
「暇だったからさ。」
「ありがとう。」
 言われて悠理はもじもじと床をこねくりまわしていた足の動きを止めた。
「全然不恰好なんかじゃありませんよ。上手です。」
「そ、そか。よかった。」

 悠理は思い出していた。この10日間、やけに清四郎と目が合ったこと。
 自分が清四郎の姿を目で追っていたせいなのか、清四郎が悠理のことを見ていてくれたせいなのか。
 そして清四郎のその瞳は、とても優しかった。
「おいおい、なに二人で見詰め合ってるんだ?」
と魅録に、清四郎には聞こえないようにそっとからかわれた。

 可憐にも言われた。
「あんた、清四郎にどんなメール送ったの?1日メールが途切れて心配してた時に、清四郎にはメールしたって言うじゃない。」
 清四郎は4人に「皆に会いたがってました。出発を早めてやりませんか?」と言ったのだそうだ。
 野梨子いわく、そのメールを受け取ってすぐの清四郎はとてもそわそわしていたらしい。「あんな清四郎初めて見ましたわ。」とずいっと彼女も悠理の方へと身を乗り出した。
「チョコのお礼送っただけだけど?」
「そういやあのおバカメールに嫌味ったらしくチョコ送ったんだっけ?あの男。」
 あっけらかんと言った可憐に悠理は苦笑した。確かに他の言い回しを知らなくて苦し紛れになんとなく記憶にあったフレーズを書いただけだった。

 でも、そのチョコに悠理は涙したのだ。

「ねえ、一つ訊いてもいい?清四郎。」
「なんですか?」
「剣菱じゃないあたいって、どう思う?」
 自分でもバカなことを言ってると思う。清四郎は一人の人間としての悠理をただのペットくらいにしか思ってなくて、女としての彼女は剣菱の名札をはずせやしない存在としか見られていないのに。
「・・・想像もできませんが。」
と、清四郎はほんの少し言いよどむ。
 彼としては彼女がなぜ急にそんなことを言い出したのかを考えていた。
 この島で誰とも日本語で会話できない状況に置かれたことで自分の存在意義について思い至ったというのか?このサルが?
「まあ悠理なら剣菱の名前がなくてもこういうところでなら生きていけると思いますけど?」
 田舎でのサバイバルなら万作氏ゆずりのセンスで全く支障はないはずだ。
 悠理は思っても見なかった清四郎の返答に、顔をがばっと上げて一瞬きょとんと目を見開いた。い、意味が違う、と。
 しかし清四郎は悠理の表情は意に介さず、続けた。
「悠理は悠理だろう?世界中どこに行っても誰とでも仲良くなれる。」
 万作さん譲りでしょ、そういうところも、と清四郎は笑んだ。

 悠理は、悠理。

 その言葉に彼女は思わず顔が綻んだ。それだけでなぜだかとても嬉しくて。
 清四郎はいつもより儚げな彼女のその笑みに、眩しそうに目を細めた。
「僕も一つ聞きたいんですが・・・。」
「なに?」
 彼女はどきんと胸が高鳴る。
「あのメールの『you』は単数形だったんですか?複数形だったんですか?」
「たんすー?ふくすー?」
 首をかしげる悠理に、清四郎はふうっとため息をつく。それだけでなんとなく答えがわかった気がしたのだけど。
「『you』は『あなた』と一人にあてる時も、『あなたたち』と二人以上にあてる時も、同じ『you』なんですけど?」
と、彼に言われてやっと悠理は合点がいった。いって、顔がバクハツした。

“I miss you.”

 悠理は数瞬のあいだ沈黙してから、にいっと口の端を上げた。
 その顔に清四郎は少しばかり身を引く。
「どっちだと思う?」
「・・・どっちなんですか?」
 さっさと紅潮が引いてしまった悠理の妙な迫力に清四郎はなぜだか気おされる。
「教えないよーだ。」
 んべ、と舌を出した彼女に、清四郎はむっとする。
「ほー、悠理は今年は夏休みの宿題は全部自力でやりますか?」
「お前が写させてくんなくても魅録がいるもーん。」
「どこまで根性が曲がってるんだ、この!」
と、二人は部屋の中で追いかけっこを始めた。
「なにいちゃついてんの?」
と、騒ぎにたたき起こされて不貞腐れた美童につっこまれるまで二人の追いかけっこは続いた。



 単数形か複数形か。その答えは夏休みの宿題。
 このとびきり寂しかった夏の、そしてとびきり切なかった夏の。

 いつか清四郎が悠理を一人の女性として見ていると実感させてくれるまで、その答えは教えてやらない。

「『会えない時間が愛育てるのさ作戦』はそれなりにうまくいったみたいよ、百合子ねえさん。」
「あらあら、ありがと、美由紀。それとね、和幸さんが子供さんたち連れてそっち向かうみたいだから。」
「え?」

 一度だけ、結婚しようと思った人。
 昨冬、奥さんを事故で亡くしたあの人。

「本当にお節介なんだから、百合子ねえさんは。」
 自分が夫と子供たちに囲まれて幸せだからかしらね?と美由紀は南国の空を見上げた。
(2006.8.17)
(2006.8.18サイト公開)
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