2015/03/04 (Wed) 23:08
今宵は十五夜。欠けるところない月夜。
壺に挿したススキをアテに、月見酒と洒落こむ宵。
途中で酒が過ぎるとは思っていた。
いくら倶楽部のメンツが酒豪ぞろいとはいえ、彼女の胃袋が底なしとはいえ。
「なんか寒い」
その一言とともに、悠理は清四郎の肩へと身を寄せた。
清四郎は床の間とは逆側の壁に背中を預けて胡坐をかいている。
ふと目をやると、白鹿家の見事な前栽。月見の宴の宵は更け、すでに夜半へと差し掛かっている。
他の4人はこの光景に呆れたのか、さっさと月光降り注ぐ庭や他の部屋へと退避してしまっていた。
そう、呆れるだろう。
清四郎の膝には、悠理の頭が預けられているのだから。
普段は全うな友人同士。なにがどうしてこうなったものやら。
たぶん、彼も酔っているのだ。
「ほら、悠理、水を飲め」
「起き上がれないよう」
甘えたような声に余計に酔いを誘われる。
清四郎はコップに注いできてもらっていた水を口に含むと、そっと顔を寄せた。
こくり。と悠理の白い喉が上下する。
「おいしーい」
と、彼女は赤らめた顔をにっこりほころばせた。
「もっとぉ」
「はいはい」
呆れた振りをしながらも清四郎は再びコップを口へ運ぶ。
彼の体温でぬるまった水を、彼女は「つめたい」と言いながら飲み込む。
「なんかこの水、甘い?」
彼は答えず、そう尋ねる彼女の前髪をそっと撫でてやった。
彼女の目が細められる。
「清四郎の手、気持ちいいなあ」
「そうですか?」
「うん」
酔っている。二人とも、酔っている。
だからこれは一夜の夢。
ふと、悠理の瞼が上がり、薄い色の瞳が覗いた。
「明日になったら、忘れててね」
「ええ。忘れてますよ。こんなに酔ったのは久しぶりです」
「忘れてろよ」
だって二人は、友達なんだから。
それ以外の関係になど、なれるはずもないし、なる気もない。
「忘れますよ」
「でもあたいのこと嫌いにならないでね」
「なるわけないでしょ」
だって、二人は親友なのだから。
「好きだよ、清四郎」
「僕もですよ」
明日になったら、忘れててね。
唯一の目撃者のお月様も、明日になったら欠けてるはずだから、ね。
(2006.9.6)
(2007.9.20サイト再録)
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