2015/03/04 (Wed) 23:12
「これって付き合ってることになるんですよね」
唐突に言われて、和子はえびフライを咀嚼していた動きを停めた。
こんなタイミングで言うことかしら?と思いながら。
間が悪いのがこの人らしいと言えなくもないか。
和子は再び口を動かしはじめた。
「ええ、そう認識してましたけど?」
たっぷり30秒はかけて嚥下したのちに、顔をあげもせずそう言う。
ちらりと向かいをうかがうと、彼はこわばっていた頬を少しやわらげたようだった。
「付き合ってるのでなければなんなんです?」
とよほど言ってやりたかったけれど、やめた。
いつのまにかこういう時間を持つようになっていたのは確かだったから。
最初は偶然だった。
偶然が数回重なるうちに、約束を交わして会うようになった。
ただ、食事をしたり、美術館を見に行ったり、そう言った健全な時間を重ねる。
約束を交わすようになってから、もうそろそろ3ヶ月だ。
そりゃあ確かに今日このレストランは勤務先近くのなんの変哲もないファミレスで、彼女だってコットンシャツに綿パンツという軽装だったりするのだけれど。
職場では白衣さえ羽織ってしまえばそこそこフォーマルに見えるのだ。
彼はさすがに動きはとめているが、ナイフとフォークを握ったまま、彼女と目も合わせずに言葉をつないだ。
「僕は和子さんとのことは真面目に考えてますから」
本当にこの人はなんて不器用なんだろう。
ネクタイには皺ひとつなく、歪みもなく。
ひと昔前のサラリーマンのようにセットした髪にも乱れはなく。
それなりに無難に仕事をこなす男。
慎重に綿密に財閥を動かす仕事をこなす特上の男。
あの優秀さを鼻にかけた弟もそこだけは褒めていた。
だけど、この人はこんなに不器用なのだ。
カワイイ。
和子の口端があがり、頬も持ち上がった。
「はい、ありがとうございます、豊作さん」
───私も、そんな不器用なあなたが好きです。
そう口に出せるほど可愛くもなければ、彼と同様に不器用な彼女。
だからこそ、お似合いなのかもしれない。
(2006.9.30)
(2007.9.20サイト再録)
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