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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 15:10
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2015/02/06 (Fri) 22:02
「有閑御伽草子」最終回。

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 ふと、手を握られる。
 ふわりと、この一夜で嗅ぎなれた汗の匂いに包まれる。
 泣きたくなるほど優しい温もりに包まれる。
「離すんだ。悠理。」
 耳元で、大好きな低い声が命じる。

 震える指が、開かれた。
 いま己の命を断ち切ろうとした、本来は彼女を守るべきであったものが、男の手に渡る。

「清四郎・・・あたい・・・」
「あなたの部屋に残されていた反古。あの歌がどういう状況で詠まれた歌か知らないんですか?」
 なんでこいつはこんな時にこんなことを訊く?
「・・・死にそうになった女が恋人に会いたがった、それだけじゃないのか?」
 まだ手が震えている。
 生きろというのか?生きて他の男に抱かれろと?
 お前の妻になることも出来ず、お前が他の女を抱く姿を見ろと?
「あの歌を詠んだとき、和泉式部は風邪をひいていただけだったんですよ。」
 呆れたように言う声が悠理の胸を刺す。
「だから・・・なに?」
 震えながら問う彼女の肩に、清四郎は顔を埋めた。
「大袈裟に考えすぎるんじゃない。悠理。」
───こんなことで死のうなんて考えないでくれ。
 搾り出すような魂の言葉が聞こえた気がした。

「死にたいというのなら、死のうと思うのなら、死んだつもりになって僕と生きて欲しい。」

「だって・・・清四郎・・・だって・・・」
 悠理の頬を涙が伝った。
 これ以上の恋は清四郎のためにならない。
 清四郎を縛り付けるなんてできない。

 今ならこのぬくもりはあたいだけのものなんだから。

 清四郎はふっと息をつくと、短刀を握る手に力を籠めた。

 しゃっ

「清四郎!?」
 急に清四郎に突き飛ばされ驚いて振り向いた悠理の前に、はらはらと散るものがある。
 清四郎の顔に無残に髪がばらばらと落ちてくる。
 右手に持った短刀を投げ捨て、左手に握った己の髷(もとどり)を悠理のほうへと差し出した。
「僕は、武士を捨てます。」
 無造作にその言葉を、吐いた。

「だって・・・お前・・・出世は・・・?家は・・・?」
「出世などいりませんよ。もとよりあなたが僕のものにならぬのなら一生結婚はせず、出家してしまうつもりだった。」
 清四郎は穏やかに微笑む。
「家も姉一人なんとかやってくれますよ。あの人のしたたかさを知っているでしょう?」
 この一年、ずっと彼女の傍にいて守ってくれた姉のような存在を思い出す。
 衛門。大納言家から暇を出されやしないだろうか?
「大丈夫。僕もなんですけど、父も姉も人の弱みを握るのは上手いんですよ。」
 内緒ですけどね。と清四郎は人差し指を自らの唇に当てた。
「さあ、行きましょう。美童が待ちくたびれているかもしれない。」
「美童?」
 清四郎に促され立ち上がりながら、悠理は首をかしげた。



 宇治にほど近いところにその小さな邸宅はあった。
 鬼一座が使っていた元宮家の別邸よりもまだ小さいが、やはり風雅な住まいだった。
「ここは?」
 清四郎の単(ひとえ)を被衣(かづき)がわりに被った悠理が尋ねる。
 ざんばら髪に直垂(ひたたれ)姿の清四郎はこともなげに応えた。
「姉の持ち家ですよ。もとは大納言家のものでしたけどね。」
「・・・は?」
 悠理が目をまん丸にして清四郎を見上げるので、彼は口の端を上げた。
「他の女房などが噂してませんでしたか?衛門は権中納言殿のお手つきだと。」

 秘密の恋人。身分違いの恋人。
 結婚という形を与えてやることは出来ない二人。
 だけれど彼は、彼女をこよなく大事にしていた。その誠実さに彼女も慰められていた。
 人の良さそうな兄の顔と、はっきりとした威勢のよい気性でだけど優しい衛門の顔とを思い浮かべて悠理はうーんと唸った。
 ある意味お似合いと言えなくもない・・・か?

「大納言家ゆかりの家に隠れてるなんてきっとあちらさんは思いもしませんよ。」
 豪胆に意表をつく。それがこの男のやり方なのだ、と悠理は今更ながら自分の恋人に感心した。

「いつまで待たせ・・・清四郎?!その髪!!」
 迎えた美童が驚愕している。そりゃそうだろう。
 いきなり清四郎がざんばら髪の途方もなく恥ずかしい頭で現れたのだから。(貴族は烏帽子を脱ぐことすら裸になるのと同じであり、髷を切ることは途方もない恥辱であった。)
「そんなに驚かないでくださいよ。ここに来てもらったからには僕の考えてることはわかってくれていたと思ってましたが?」
 清四郎がちょっと口を尖らせる。
「いや、だってそりゃ驚くよ。」
 まだ美童は目を見開いている。
「まあ、その格好からすると、首尾よくいったみたいだね。」
と、美童は悠理が清四郎の衣を被っているのを見て取ってにやりとする。清四郎は少し目元を赤らめた。
「清四郎・・・どうするの?」
 悠理が揺らめく目で彼を見上げた。どうなるのかまるでわからず、不安なのだろう。
 清四郎はふと目を細めた。
「もちろん、東下りですよ。美童に旅支度を頼んだんです。」
「東下り!?」
「僧服一式って書いてあったからどうするのかと思ったけど、自分が着るんだね?」
 ほい、と美童が荷を差し出す。
 もちろん悠理の分もある。
「魅録と野梨子は武蔵の国のとある荘にいます。そこを訪ねていきましょう。」
 清四郎は僧服を取り出しながら言う。
 悠理の衣装はやはり水干の稚児姿のようだ。大納言家の姫が男装して行くとは、彼女の育ちを知らぬ追っ手の武者たちは思わぬに違いない。
「そこで僕たちは夫婦として暮らすんです。」
 悠理は弾かれたように清四郎の顔を見た。彼の瞳が優しく微笑んでいる。
「うん・・・うん・・・そうだな。」
 溢れる涙で、前が見えなくなった。
「ああもう。泣き虫だな、お前さんは。」
と、清四郎が優しく頭を抱いてくれた。

 夫婦。妹背。
 とうてい望むべくもない、遠いものだと思っていた。
 自分の手には入らぬものと思っていた。
 だけど、それはここにある。

「あのー・・・ところでさ。僕からも相談があるんだけど・・・」
 おずおずと美童が話しかけた。夜明けまで間がないのだ。二人だけの世界にひたられてる場合ではない。
「・・・まだ他にも荷物があるように見えるのと関係があるんですか?」
 清四郎が冷たく問う。眉根に縦皺がよっている。
 う、と詰まりながら美童は言いよどんだ。
 その時である。
「あーもう!鬱陶しい!あたしが言う!」
という女の声がして、人影が物陰から飛び出してきたのだ。
 誰かの気配は感じていた清四郎は驚かなかったが、悠理は思わずそちらを振り返った。
「か、可憐?!」
 そこにいたのは悠理にとってかけがえのない無二の友だった。
「あたしと美童も連れてって。あたしたちの駆け落ちにも手を貸して。」
 可憐は平然と清四郎に頼んだ。
 彼が手を貸すのが当然というように。
「お前ら・・・?」
 悠理の顔が輝く。
 案じていた二人が、ついにその気になったのか、と。
 そしてすぐに見上げて清四郎の表情をうかがった。
「そりゃもちろん僕は目立つし、足手まといなのはわかってる。お前ら二人でも充分偽装できるってわかってる。」
 美童は可憐に役立たずのように言われたのが悔しいのかきりりと顔を引き締めて言う。
「でも二人連れより四人連れのほうがばれにくいと思わないか?」

 恐らく大納言家の追っ手が探すのは若い武士と女の二人連れ。
 悠理が男装している場合を想定する可能性がないでもないので、その場合は武士と少年の二人連れ。
 いずれにしろ四人などという大所帯で動くとは思ってもみないに違いない。

 清四郎はつんつん、と袖を引っ張られて腕の中の悠理を見た。
 じいっと上目遣いで見上げてきていた。
 しばしの間流れた沈黙を、清四郎の溜息が破った。
「美童。悠理に感謝しなさい。あなたたち、いい友人を持ちましたよ。」
 女たちの顔が輝く。美童と可憐は手を取り合った。
 そして四人で顔を見合わせる。
 互いに肩を組んで頭を寄せ合った。
「じゃあ、改めまして、よろしく!」
 挑むような笑みを交し合う。

 二人では寂しすぎる道行も、仲間と共ならば怖くない。



 夜明けが来てしまったので一日そこでやり過ごし、宵に出立することとした。追っ手の後をついていくことにしよう。
 可憐が清四郎の髪を切りそろえてやる。
「魅録の髪もあたしがやってたのよ。今は野梨子がやってるでしょうけど。」
と言う。
 そしてそばでうらやましそうにそれを見る悠理に、可憐は言った。
「これからはあんたがやるのよ。わかってるわね?」
 もちろん、正式に出家をするつもりなど毛頭ないので、清四郎は目的地に着いたら髪をまた伸ばすつもりだった。それでも毛先を切りそろえることは必要である。
「皮膚は切らないように願いますよ。」
「わかってらい!」
 悠理は顔を赤らめた。



 風は吹いているが、雲は出ていなかった。
 少しひんやりとしはじめた空気が肌を刺した。
 庶民を装う彼らが馬を使うことなどできなかった。なので徒歩(かち)の旅となる。宿場が整備されるのは参勤交代制ができた江戸時代以降の話であり、基本は野宿だった。
 だが、彼らは寒くない。怖くない。
 伴侶と仲間と、温めあい、助け合い、旅をするのだから。
「悠理?震えてるんですか?」
 気丈な女の指のかすかな振動を、清四郎の手は感じた。
「この川の名は?なんていうの?」
 声こそ平然としているが・・・?
「宇治川ですよ。」
「芥川じゃ・・・ないんだね?」
 ああ、なるほどね。
「鬼に見つかってもあなたはおとなしく食われてやるほどやわじゃないでしょう?」
 清四郎は悠理の頭をぽんぽんと叩いた。

 昔、おとこありけり。男はずっと焦がれていた女をさらって逃げ出したが、芥川というところで彼女から目を離した隙に彼女は鬼に食われてしまう。
 雷鳴轟く夜だった。男は雷鳴にまぎれ、女の悲鳴に気づかなかった。
 夜明けを迎えたとき、そこに女はいなかった。
 伊勢物語第六の段、業平と二条の后・高子(たかいこ)の悲恋物語。(実際は高子は彼女の兄弟たちに連れ戻され、入内した。)

 嘆き悲しむ業平は、東国へと旅立つ。

「何だよ。鬼ならここにいるじゃん。」
 被衣をずらして美童が金の髪を零れさせた。口端がにいっと上がっている。
「在中将にとって鬼は敵だったかもしれませんが、僕たちには味方なんですよ。」
 清四郎も悠理の耳元で言う。
 笠を被った可憐もそっと頷いている。
 だから、悠理は清四郎と繋いだ手をぐっと握りしめた。
「そうだな。鬼でも蛇でも、この悠理様が返り討ちにしてやるさ。」
 繋いでいないほうの腕をぶんぶんと音がしそうなほどに振り回す。
「だから鬼は討たなくていいんだってばー。」
と美童が情けない声を上げる。

 一行に笑いが起こる。



 恋の道行き 旅の月 二人ならずと四人とて
 友を訪ぬる遠き道 ただおかしけれ 楽しけれ


 僧侶と稚児と下男と女という珍妙な取り合わせの一行を、竹細工師の夫婦が驚きと喜びとともに迎える。



 昔、むつまじき者たちありけり。
 いとど閑こそありけれど、しがらみばかりはなかりけり。

───むかしむかし、仲が良い者たちがいた。
   閑だけはたくさんあったけれど、つまらぬしがらみは微塵もなかった。

 畑仕事に竹細工。用心棒に代書の仕事。
 舞を献上、楽を添え、歌を詠って、祭りに参加。
 そんなこんなで日銭を稼ぎ、近在何かことあると、手に手を取って参上す。
 盗賊退治に妖怪退治、幽霊騒ぎに恋模様。宝探しもやりましょか。
 今日も六人寄り合って、閑をつぶしてござそうろ。

 今は昔の物語。
 めでたしめでたし。
(2004.10.18)(2004.10.27加筆)
(2004.10.27最終回公開)
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