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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/07 (Sat) 21:03
「有閑御伽草子」番外編です。美童と可憐のお話。

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「美童。あたし、女になったわ。」
 少女ははっきりと言った。その目は、まっすぐに、少年の瞳を捉えた。



「え?じゃあ、最初は美童と悠理だけで盗賊をしていたんですか?」
 清四郎は思わず石臼で粉を挽く手を止めて振り返った。
 後ろでは彼の妻となった悠理が縄を縒っていた。
「そうだよ。しかも最初に盗んだのは人だったし。」
「人?!」
 目を白黒させる清四郎に、悠理は手を止めてくすり、と笑った。
「可憐だよ。」



「やあい、鬼っ子ー!」
「近づくんじゃねえよ!皆言ってるぞ!カメばあさんちの弥太が瘧(おこり:マラリア熱)で死んだのはお前のせいだってな!」
 石つぶてが飛んでくる。頭から被っている被布(かづき)の袷の隙間から顔にぶつかる。
「いたっ」
 小さな石つぶてだった。だけれど、それ以上に言葉の石つぶてが痛かった。
 でも、声が出ない。
 怖い。先日半殺しにされた時の恐怖がよみがえる。
「こらあ!お前らなにやってんだ!」
と、茶色の髪をふわふわ揺らして子供が一人、駆けてきた。
「わ!乱暴ものの悠理だぞ!」
「ちくしょう!逃げるぞ!」
「二度と俺らのシマに近づくなよ!鬼っ子!」
 村の子供たちがわらわらと逃げていった。
 あとに残された“鬼っ子”は「くすん、くすん」とべそをかきながらそこに佇んでいた。
「おい!大丈夫か?美童。」
 駆けてきた悠理が彼の被布を取り払う。「あ」と言って彼は抑えようとしたがそれはできなかった。
 ふわり、と金糸の髪が姿を現す。
 白い肌にはところどころ擦り傷ができていた。
「ああ、こんくらいで済んだか。」
と、悠理がほおっと溜息をつく。そしてすぐに拳を握り締めた。
「だいたい!お前がすぐ泣くから!男だろ?!ちゃんと反撃しろ!」
 急に怒鳴られ、美童はますます嗚咽をあげた。
「だって・・・だって・・・」
 べそべそと泣きつづける美童に悠理は呆れたようにもう一つ溜息をついた。
 そしてぐい、と彼の手を掴んで引いた。
「とにかく!川で泥を落とすぞ。」

 ぱさ、と音をさせて粗末な水干を脱ぐ。貧乏な白拍子一座には男の子に上等な衣装を着せるほどの余裕はない。
 ふと美童は、木陰の向こうで見張りをする勇敢な友人を盗み見る。彼女が着ているのは麻ではあるが、綺麗な浅葱色の水干だった。
 女の子は・・・いいなあ、とちょっと思わないではない。
 でも、貧乏一座で役にも立たない男の子が追い出されずに置いてもらっているだけありがたいと思わねばならない。
 美童は冷たい水に手を浸すと、顔にばしゃっとかけた。傷に沁みる。
 ふと自分の裸の体を見る。
 がりがりに痩せた体。まだ十の子供なのだから仕方ないとは思うが、大人になってこの体に男らしい筋肉がつくなどとは到底考えにくい。
 そしてあちこちに残る傷痕に、どす黒い痣。
 近所にいる子供の誰よりも白い肌。日に当ててもろくに色がつかず、真っ赤になるだけだ。
 何より人と違う、この金色の髪、青い瞳。高い鼻に赤い頬。
“鬼”と呼ばれ、石つぶてを投げられる。そんなの慣れっこだ。

 ふいに、ぱしゃん、という水音がした。
 美童ははっとする。誰か先客がいたか・・・。
「誰?誰かいるの?」
 美童が声を出すより早く、女の子の声がした。
 浅瀬を伝って、川に張り出す木の枝を押し退けて現れたのは、裸の少女だった。
「きゃ。」
と少女が小さく叫ぶ。
 美童は「あ、僕の髪!」と思ったが、被布を岸に置いてきてしまったので隠すこともできず、足を止めるだけにとどまった。
 何より、その少女に見蕩れてしまったのだった。
 もちろん、彼と同じように一座に拾われた同い年の悠理だって美少女だし、都の女性たちだって見たことはある。
 だけどいま目の前にいる少女は、本当に本当に綺麗だと思った。
 さらさらの長い髪。大きな瞳に白い肌。目元の黒子が彼女を年よりも大人びて見せているようだ。
 たぶん、同い年くらいだよね。
 彼女のほうでも驚いているようだった。
 そりゃあ、そうだ。こんな髪や瞳の色をしてる人間なんかいないものね。
「ね・・・その髪、本当の色なの?目も。」
 美童が頬がかっと熱くなるのに気づいた。
「ごめん、気味悪いよね。」
と彼女に背を向けて離れようとした。
「なんで?お日様みたいに綺麗な髪なのに。」
 驚いて再度振り向いた彼の目の前にいたのは、好奇心で目をキラキラ輝かせる少女だった。

「ふうん。あんたたち、噂の白拍子一座の子なんだ。」
「あたいは舞を修行中なんだ。」
 異変に気づいてやってきた悠理はあっという間に少女と馴染んでしまった。にこやかに身の上を語る。
「そっかー。あたしも綺麗に着飾って舞を舞って、都の殿上人の目に留まりたいわー。」
 粗末な単衣(ひとえ)を身に纏った彼女は、悠理の浅葱色の水干を羨ましそうに眺めている。
「白拍子ったって傍から見るほどいい身分じゃないよ。」
と美童は口を尖らせる。
 げんに僕らがこの洛外の村に来たのだって・・・
「あんたたちの棟梁、領主様の情けをうけてここに来てるってね。」
 ずばり、と少女が言うのでさすがに悠理も息を呑んでいるようだった。
「でもあたしなら違うわよ。こんな田舎のけち臭い領主じゃなくって都の貴族様のお情けをうけてやるんだから!」
 あっけらかんと言い放つ少女に美童はむっとせずにいられない。
「可憐、君ねえ、意味わかって言ってる?!」
 珍しく声を荒げる美童に、先ほど可憐と名乗った少女はにやり、と笑った。
「あら、この名前の通りの美貌がこんな田舎に埋もれてるなんて勿体無いと思わない?」

 彼女は可憐、と己の名前を名乗ったあとで、少しだけ自己紹介をしてくれていた。
 美童や悠理と同じ十になること。
 父親が病弱なので、母と二人で農作業や魚獲りをして生活していること。

「可憐、てすごい名前。」
と美童が言ったら、
「美童だって相当なものよ。」
と彼女は笑った。
「こ、これは棟梁が・・・」
「でもわかるわ。」
「え?」
 急に静かに彼女が彼の髪に触れるものだから、胸が高鳴る。
「お日様色の髪に、空の青い瞳。怖いくらいに綺麗よ、あんた。」
 それを聞きながら悠理はにまにまと笑っている。
「なに笑ってるのさ、悠理。」
 美童は目を細めてそれを見咎める。
「んーん。よかったな。美童。綺麗だってさ。」
「悠理も綺麗よー。あんたたち、やっぱ白拍子一座にいるだけあって美形。」
「あっはっは。じゃあ可憐も入るか~?」
 悠理にしてみればそれは冗談だったろう。可憐自身がさっき言っていたことなのだ。
 だが、急に可憐はさびしげに微笑んだ。
「んー、父さんと母さんを置いてけないわ。」
「そっかー、そうだな。」
 悠理の微笑も静かだった。彼女自身の家族を思い出しているのだろうか?そうだな、たった三年前、だ。
 美童も曖昧に笑ったら、悠理が「あ」と口を押さえた。だが美童が静かに首を振ったので、そのまま何も言わなかった。

 美童の一番古い記憶は海岸線だ。棟梁に聞いたら、若狭の海だったって。
 そこに美童は一人で佇んでいた。船に揺られていたような記憶もあるけれど、それは曖昧なものだ。
 自分の年齢なのか、辛うじて指を三本立てることはできたが、言葉も初めは通じなかったんだよ、と棟梁は困ったように首をかしげていた。
 あんた、どこの生まれだったんだろうねえって。親は、やっぱり海に沈んじまったのかねえって。
 でも美童にはそんなの今は関係ないことだ。覚えてないし、いて欲しかったときに親は傍にいなかった。それだけのことなのだ。

 翌日から、その場所で三人で遊ぶようになった。
 とは言っても可憐は仕事である。皆で協力して魚を獲った。とりわけすばしっこい悠理は優秀だった。
「ありがと。あんたたちが手伝ってくれるから、かなり助かる。」
 可憐がほくほくと笑む。大人たちは他の川で魚を獲っているから、ここには他の邪魔は入らないのよ、と可憐は言う。

「美童、被布かぶるのやめたんだな。」
 ある日、ぽつりと悠理が言った。
「うん。もう隠さない。」
 だって可憐は綺麗よって言ってくれたんだ。
 ほら、だから笑ってる。
「そうよー、ホント、綺麗だもん。村のおかみさん連中を悩殺しちゃいなさい。」
「できるかな?」
「できるわよ。」
と微笑みあう二人に、悠理は顔をしかめた。
「おまえらなー。」
と呆れたように言うが、美童も可憐も聞く耳など持っちゃいなかった。

「可憐、泣かないでよ、可憐。」
 美童が必死で慰める。
「泣いてなんかないわよ。」
と言う可憐の目からは透明な雫がぽろぽろと流れている。
 病弱だった父親が亡くなり、母親も後を追うように亡くなったのだ、と可憐は言った。あっという間に天涯孤独になってしまった。
「やだ、ごめん、ごめんね。美童も悠理も親がいないってのに・・・」
 泣きながら可憐は謝る。美童は胸が締め付けられるような気がした。
「なに言ってんの、悲しいときに悲しいって言って何が悪いのさ!」
「そうだよ、あたいも美童も一座の皆がいるから気にするな!」
 いつも三人で魚を獲っていた川でだけ、可憐は泣いた。
 村では一滴も涙を見せなかった。そうして淡々と、後始末をしていた。

「もう会いにくる暇なんかなくなったの。ふふ、やっぱこの美貌を放ってなんかおかれなかったってことよ。」
 近くの荘園主が彼女を引き取りたいと名乗りを上げてくれた、と言った。
 そう言った可憐は、静かに微笑んでいた。
「・・・って隣の領主かあ!?」
と、悠理が顔を歪めた。
 白拍子一座のような商売をしていたら自然と耳に入ってくる噂がある。都のあたりやその近辺の荘園主たちの“趣味”について、だ。
 隣の荘園主といえば・・・
「稚児趣味だぞ。引き取られた男の子も女の子も大人になる前に死んじまってるとかって。」
 黙りこんでしまった美童の代わりに悠理が説明する。
 そうだ。悠理や美童の噂も聞きつけて引き取りたいと言ってきたことがあったのだ。だが、彼の“趣味”を知っていた棟梁はそれを跳ね除けてくれた。ここの領主の情けを受けることで。
「白拍子だってね、本来は寺社に舞を奉納するのが仕事の巫女なのさ。体を売るのはただの手段の一つだよ。」
と言って、棟梁はかたくなに幼い者たちを守ってくれるのだ。
 それは結局、大人になったら悠理だって舞だけじゃなく体を売ることが必要になってくるということなのだけれど。
「あっは。あたしは大丈夫。しっかり領主様の側室に納まってやるんだから。」
 可憐は胸を叩いて意気込みを見せるように笑んだ。

 その顔は、もう子供の顔ではなかった。

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