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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/07 (Sat) 21:19
「有閑御伽草子」番外編。清四郎と悠理のお話。

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「あの池には近づかないほうがええよ。」
 清四郎が呼び止めて道を尋ねた男が言った。そろそろ遠江(とおとうみ)にさしかかろうかというところだ。
「あの池はね、来し方行く末を映す鏡。でもそれを覗いた者は少なからず正気を失ったりしてるからな。」
 ま、坊様なら大丈夫かな?と男は僧服姿の清四郎に微笑みかけた。
 清四郎は思わず隣に立つ稚児姿の悠理と顔を見合わせた。案の定、彼女はにやり、とした笑みを浮かべている。
「たぶん深いとか落ちやすいとかで危険なんですよ。近づかないようにしましょうね。」
と諭す清四郎に、
「え~?せっかくじゃん、見てこうよ。」
と彼女はねだった。



「ちょっと怖いなあ。」
と美童が青ざめている。図体が大きいくせに本当に肝っ玉が小さい奴だ、と悠理は鼻を鳴らす。
「面白そうじゃない。あたしは見てみたいわ。」
と可憐が先ほどの悠理と同じように目をキラキラさせている。
「過去には興味はねえけど、未来は見てみたいよな。」
 悠理は可憐と額をつきあわせている。
 清四郎はふうっとため息をついた。「一人で道を訊きに行けばよかった。」と。

 意外なものを映し出す池。そういう話はあちこちにある。夜道を歩きながらふと清四郎は心に浮かぶものがある。
 ちなみに彼らは逃亡者の身の上であるので、美童の容姿が目立つことも鑑みて夜間の移動を主としていた。
 何が映るだろう、とわくわくと可憐と楽しそうにしている悠理の姿に、清四郎は幼い日のことを思い起こした。
「都でも、同じような話がありましたよね?もっともあれは未来の伴侶が見えるという話だったが。」
 唐突に清四郎が言い出すので、残りの三人は清四郎のほうを見た後で顔を見合わせる。
「そういや・・・あったかも。」
という悠理に、残りは二人は「知らない。」と首をかしげた。
「それってどこ?」
と訊ねた可憐に、清四郎は顎に手を当てて話し始めた。



 あれは五つの頃。まだ自分の感情を抑えることなど知らなかった、五つの頃。
 そういえばまだ野梨子も邸にはやってきていなかった頃だ。

「清四郎。庭で遊んできていいそうだ。」
「はい。父上。」
 今日の清四郎は父のお供で、大貴族の邸へとやってきていた。父はこの邸の主の元へと挨拶にうかがうようだ。待ち時間が長いので、その間にまだ幼い清四郎は庭へ下りる許可をいただいたのだった。
 この邸の使用人の子供たちが遊んでいるのだろう。一角から楽しそうなきゃーきゃー言う声が聞こえてくる。
 どうせならそこへ雑ぜてもらおうと、清四郎はひょこっと縁の陰から顔を覗かせた。
「だれ?お前?」
 真っ先に彼に女の子が目を留めた。一番年嵩の子供は七つか八つといったところだろうか?そこにいたのは五人の子供。
「僕、父上のお供で・・・」
「ああ、また客か。」
 同い年くらいの少女があまりにぞんざいに言い捨てるので清四郎はびっくりした。どうも一同の首領格のようだ。
 何より、女の子が手にしているのが鞠は鞠でも蹴鞠に使うものだったのでまた驚いた。
「蹴鞠、してたの?」
 男の子みたいだ、という言葉を清四郎はすんでで飲み込む。
「そうだよ。一緒にやらねえ?」
と首をかしげて彼を誘う少女はとても可愛らしかった。ぷくぷくとした頬。ぷくぷくとした手。絵姿に出てきそうな気品のある顔。赤い唇。
「うん。」
と頷いた清四郎の頬は、なぜだかうっすら赤く染まっていた。

 蹴鞠をするのは初めてだった。そんなものをするのは良家の子息くらいだから。
 だけれど、清四郎はあっという間にコツを掴んでしまった。気がつくと少女との一騎打ちになっていた。
 少女の袿の裾がひらり、と舞う。尼そぎの髪がさらり、と音を立てて揺れる。
 清四郎の水干の紐がぱたり、と跳ねる。角髪に結った髪の先がぱさり、と頬に当たる。
「すごいな、互角だ。」
 鞠を受け損ねて輪からはずされてしまった少年が感心したように言う。
 途端、わあ、と声が上がった。
 清四郎が蹴り損ねた鞠が木立の向こうまで飛んでいってしまったのだった。
「ごめん、僕、取ってくる。」
と駆け出した清四郎の後ろを少女がついてくる。
「待てよ!一人じゃ道に迷う。」
 背後に聞こえる少女の足音、袴がたてる衣擦れの音が、清四郎の耳に心地よかった。



「それって初恋ってこと?」
と美童が忍び笑いを洩らしながら言う。
 清四郎は平然と応えた。
「そうかもしれませんね。五つの頃の話ですけど。」
「やっぱり清四郎って元気な女の子が好きなのね。」
と可憐も面白そうに言う。もちろん横目で悠理のほうを見ながらだ。
 悠理は、というと憮然とした表情をしている。可憐は思わずくすり、と笑いがこぼれそうになる。
「ええ、本当にお転婆な方でしたよ。そのまま隠れ鬼だと言って、他の子供たちを撒いて庭を探検することになったんです。」



「ほら、あそこに鳥の巣があるんだ。」
と言って少女はするすると庭木に登りだした。
「危ないよ。」
と、清四郎は止めるのだが、
「なんだよ、ホントは登れないんだろ。」
とまで言われてはカチンとなる。続けて彼も木に登った。
「あはは、やっぱりお前、木登りもうまいな。」
 太い枝に腰掛ける彼女の隣にたどり着くと、彼女は彼に微笑みかけた。
 清四郎は木登りをしたせいで、という以上に胸が高鳴るのを感じる。
「お前、気に入ったな。」
と呟いて彼女はにんまりとした。

「鏡が池?」
「そ。あの池を覗いたら、将来の結婚相手が見えるんだってさ。」
 少女は少年の手を引いてそこまで案内した。さすが大貴族の邸宅だ。さっきから邸の屋根すら見えずに庭が続いている。都の中にあって山林に迷い込んだようだった。
 その池は小さな池だった。だが澄んだ水が張ってあり、底の小石まではっきり見て取ることができる。
「ほら、覗いてみろよ。」
「君は覗いたこと、あるの?」
「覗いたけど、自分の顔しか映らなかったや。」
 ちょっと怒ったような、それでいてちょっとほっとしたような顔で彼女は言う。
 清四郎もなぜだかほっとした。そして自分が覗くのを少しばかり躊躇う。
「なんだ?怖いのか?」
 少女がにんまりと笑んでみせる。少年は少しむっとした。
「怖くなんかないよ!」
と足元にしゃがむと池を覗きこんだ。

 ゆらり、と水面が風に吹かれて揺れる。
 そこに映るのは己の顔だけ。

 ふ、と彼の肩越しに不意に白い顔が浮かぶ。清四郎は目を見張った。
「どうだ?映ったか?」
 少女の声が聞こえる。
 清四郎はくすくす笑い出した。そっか。そういうことか。
「なんだ?」
「別に。君が覗いたときは映らなかったんだっけ?」
 清四郎はしゃがんだまま少女のほうを振り返る。
「なんだよお?お前は映ったのか?」
 口を尖らせる少女を無視して清四郎はくすくす笑い続けた。
「かなりお転婆だものね、君。」
 少女の問いに答えずそんなことを言ったせいだろうか?彼女はかっと目を見開いた。
「なんだとう!?」
と言うなり、彼を突き飛ばしたのだ。
 哀れ、清四郎少年は池に突き落とされてしまったのだった。



 いつの間にか目的地の池のあたりまでたどり着いたが、やはり夜の闇の中では男二人が松明をかざすがどこに目指す池があるかはわからない。
 池に落ちても危ないから、と清四郎になだめられ、女二人は月にかかった雲を恨めしげに見上げたのだった。
「で?突き落とされてどうしたの?」
 美童の肩が震えている。小休止のために円になって座ったところだった。
 この目の前の冷静沈着な優秀な男が五歳のときとは言え、女に池に突き落とされたというのだ。笑える以外の何物でもない。
「・・・彼女に助け出されましたよ。」
 清四郎は憮然と腕を組んで夜目にもわかるほど赤らんだ顔をそらした。



 びーびーと泣き出した五歳の清四郎少年を池から引きずり出して、彼女は「あーあー、あたいが悪かったよ。」と言っていたが、あんまり彼が泣き止まないのでしまいには怒鳴りつけた。
「泣くな!男だろが!」
 そしてその声を聞きつけて大人たちも駆けつけてきた。
「清四郎!」
 父がやってきたのを見て、清四郎はまた一つしゃくりあげる。
「ちちうえぇ・・・」
「なんだ?お前、武士の子か?」
 父の装束を見て少女が言った。
「まあ!姫様!またこんなにお召し物を汚して!」
 大人の女性も袿の裾を纏め上げてやってきた。その声に少女はぺろり、と舌を出した。
「姫様?」
と清四郎は目を見開いた。



「へー、そこのお姫様だったんだ。なんか誰かさんみたいね。」
と可憐が傍らでまだ膨れっ面をしている友人の頬をつんつん、と指でつついた。
「別れ際にね、彼女に『武士の子ならもっと強くなれよ。』って言われたんです。それが僕が剣術なんかで体を鍛え始めるきっかけでしたよ。」
「そうなんだ。で?池にはちゃんと将来の伴侶が映ったの?」
「ええ。もちろん、悠理の顔でしたよ。」
 にこにこと言う清四郎に、さすがに悠理の顔が今度はぱぱぱっと赤面する。
「んなわけあるか!ただの池だろ?」
 池の伝説を聞いてここまでやってきた悠理の言葉とも思えない。
「でも、悠理もそういう池の話を聞いたことがあるんでしょ?」
 清四郎に言われて悠理はうっと詰まる。
「だって・・・本当にあの池はあたいが覗いてもあたいの顔しか・・・」
と呟いてからはっと口を押さえた。
 おや?と可憐と美童は目を見合わせる。
「そうそう。あの邸は当時の右大将(うだいしょう)様のお邸でしたね。姫君も僕と同い年とかで。」
 清四郎は一人わかったように頷いている。
「まあ僕もさっき池の伝説を聞いて思い出したんですけどね。そういえば悠理の顔だったな、と。」
「だから!そんなわけ・・・」
と悠理が言おうとするのに、清四郎は言葉を被せた。
「だって僕の肩越しに池を覗き込んで映ってたのは五歳のあなたでしたよ。」
 絶句した悠理に、「思い出しましたか?」と問う。
 可憐も美童も何も言えずにじっと悠理を見ていたら、しばらく沈黙した後に、蚊の鳴くような声で「うん。」と彼女は頷いた。
 当時はまだ右大将だった剣菱大納言。悠理はそこの姫君だった。

「ものすごいご利益もあったものね。」
「ホント。僕より先に清四郎と出会ってたなんてね。びっくり。」
 ひそひそと会話しあう二人を尻目に、清四郎と悠理はやっと見つけた件の池を覗きこんでいた。
「ほら、あんまり近づくと危ないですよ。」
「やっぱ映らないな。」
「当たり前です。月が出てないんですから。」
「ちぇえ。」
と悠理は立ち上がろうとした。
 瞬間、さっと光が差した。
「あ、雲が切れた・・・」
 反射的に悠理は池を振り返った。

 雲の切れ間は一瞬。そこに見えたのは───



 旅の最後はもう少しだけだから、と頑張って徹夜で明け方まで歩いた。
 あまり明るくなると美童の姿を里のものに見られてしまう、とひやひやした頃に、目的地に着いた。
 そこにはほっそりと小柄な女性が、里の女のように立っていた。
「野梨子!」
 先頭切って歩いていた悠理が駆け出した。

「結局悠理は何を見たか教えてくれませんの?」
 一眠りした皆が起きだしてきたのは夕方だった。ずっと昼夜逆の生活で旅をしてきたのだ。すぐには疲れは取れまい。
「そうなのよ。ホント、ケチなんだから。」
「だからー、一瞬だったからわかんなかったんだってば。」
 土間の炉の火を見ながら話す女たちの背中を男たちは目を細めて見ている。
「ま。少なくとも悠理が正気を失うようなものではなかったってことでしょ。よかったですよ。」
 あの時、里の者に聞いた言葉を思い出して清四郎はほっとする。
「しかし何を見たんだか。」
と美童はぼんやりとこれからのことを思い描いてみる。
「先のことなんか見えないほうが幸せって奴じゃないのか?」
 魅録はくっと肩を震わせて皮肉げな笑みを浮かべた。

 皆には内緒。
 そこにいたのは子供たち。
 それは彼らの子供時代であり、これから生まれる子供たちだった。
 でも誰のとこに何人かなんてまでは確認する暇はなかった。

 とりあえずこの先はこの六人で笑ってられるってことらしいし、と悠理は微笑みを浮かべた。
(2004.12.21)
(2004.12.25公開)
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