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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 15:10
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2015/02/17 (Tue) 23:22
「緋色の罪」第1回。

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「やたら綺麗なにいちゃんだな。」
「珍しい金色の目が見えたぞ。」
 若い男たちの声を、聞きとがめた気がした。
 黒いマントを羽織った王都警備隊長は、闇にまぎれるようにして路地裏へと身を滑らせた。
 途端、彼の目に飛び込んできたのは大きなしなやかな猫科の生き物。
 否、猫ではない。
 薄い茶色の髪をふわりふわりと揺らしながら、しなやかに軽やかに身を躍らせる細身の人物だった。
 どうやら彼の人は柄のよくない連中にかどわかされそうになっていたらしい。だが、彼がその事実を知ったときにはすべてコトは済んでいた。
「大した腕前ですね。」
と、警備隊長は感嘆の声を出した。
 都でもかなり背の高い部類に入る彼よりも頭一つほど小柄な人物の足元に、街を騒がせ年寄りの商店主などを嘆かせる不良少年たちがことごとく気絶して倒れていた。5人、だ。
 確かに珍しい、金色の瞳が黒ずくめの彼の姿をじっと観察している。
「お前、誰?」
 丸い響きのアルトの声。声変わり前の少年か?それとも少女なのか?
 濃いが褪せた色のマントに覆われた服装はシャツにズボンに皮のブーツ。少年の服装といえなくもない。
 ほっそりと肉付きの薄い姿態は少年のようであり、透き通るような滑らかな肌と真っ赤に色づいた唇とは少女のようであり。
 思春期にある者の危うさを感じさせた。
「僕は王都警備隊長をしています、菊正宗清四郎と言います。あなたは?」
 そこでまた沈黙。
 じっと彼は己の短く刈り込んでポマードで撫で付けた黒髪や、今は和らかく細めた黒い瞳や、黒いマントで覆った体なんかを相手が観察するままにしておいた。
 赤い唇が動く。
「悠理。」
「名前だけ?」
「あたいは、ただの悠理だ。」
 その1人称に、清四郎は軽く目を見張る。
「おやおや、あなた女性ですか。」
「男だと思ってたろ?」
 目の前の少女が口を尖らせながら頬を軽く赤らめた。
 その表情がやけに幼く見えて、清四郎は含み笑いをした。
「いえ、どっちだろうなと。」
 男のその態度に悠理はむうっとますます頬を膨らませる。
 ふいっと顔を背けて歩き出そうとした悠理を、だが清四郎は呼び止める。
「ああ、お待ちなさい。あなたみたいな年若い女性が一人で夜歩きなんて危ないですよ。まあ、あなたの腕前なら大丈夫だろうが。」
「年若い?」
 立ち止まった悠理はまだ向こうを向いているのでその表情は清四郎からは見えなかった。
 くるり、と振り向いた彼女の顔はにやりと楽しげだ。
「飯喰いに出てきたんだよ。うまいステーキ屋、知らねえか?」

 では一緒しましょう、と清四郎は悠理を最寄の広場の一角にあるステーキハウスへと案内した。
 彼自身は宿舎に戻れば給食が待っていたのだが、やはりステーキを頼むことにした。
「特大サイズで焼き具合はレアだぞ。焼きすぎんなよ。」
と悠理は大声で注文していた。
「大丈夫なんですか?そんなに細い体で。」
「あっは。どうだろな?」
と、彼女は薄暗い灯火でもってどす黒く見える赤ワインをぐいっと飲み干した。

 どん、と特大のステーキ皿が目の前に置かれる。
 塩と胡椒を振っただけのシンプルな味。
 清四郎の掌を4つ並べたほど広い肉の塊だ。厚さは彼の親指の太さよりもう少しあるくらいだ。
 ナイフを入れるとじゅっというかすかな音と共に血ともつかぬ赤い肉汁が流れ出る。
 火は本当に表面に焼き目をつけた程度。
 その肉塊が女の真っ赤な唇へと近づいていく。

 それが彼女の口の中へと消えた瞬間、清四郎は己がその光景に魅入られていたことに気づく。
 何と言うことはない食事風景のはずが・・・と清四郎は少しばかり頬を赤らめた。

 悠理はそんな彼の姿を見ながらお代わりの赤ワインをぐいと飲み干す。
 静脈血のようにどす黒さを帯びた、赤。
 そして、最後にぺろり、と口の端を舐めた。



 送りましょう、と清四郎が言ったら、悠理は「いらない。」と言った。
「警備隊長が仕事サボってちゃまずいんじゃない?」
と悠理はにやにやしながら言う。ステーキハウスにまで付き合ったのだから今更かね?という表情が見て取れなくもなかった。
「今夜は非番なんですよ。」
 清四郎は悠理の横にぴたりと並んだ。
 次第に人気のない、王都のはずれへと足が向く。
「あなたが、この先に住んでいるのですか?」
 この先は貧民窟。暴れ者とはいえ、とてもこんなに身なりのよい少女が住んでいる地域とも思えない。
「行き先はこっち、だ。」
と、悠理が指差したのは今は枯れてしまったらしい水路。
「知らなかったろ?こんなとこから夜中に外と出入りできるなんて。」
 だからあんたと一緒に帰りたくなかったんだよ、と彼女は舌をぺろりと出した。
 その穴は確かに、都の街灯の頼りない光では視認できぬほどの暗がりにひっそりとあった。昼間でも見つけるのは難しかろう。
 いや、もしかしたら近くの子供が遊びに使っているのかもしれないが、それが外に通じているなんて大人たちは誰も知らぬに違いない。
「外から来たんですか?」
 清四郎の目が鋭く光る。だが悠理はそれに気づいているのかいないのか、軽く受け流す。
「そう。ついてくる?」
 その言葉は疑問形なのに、不思議な強制力を持って清四郎をひきつけた。
 いや、彼女の瞳が、有無を言わせぬ光を放っていたのだった。

 どうやってあの真っ暗な水路を抜けたのか?
 気づかぬままに、いつしか彼は女に先導されて暗い街道をとぼとぼと歩いていた。
 なぜだ?なぜ逆らえぬ?

 迷いなく女の足は街道から森の中へと入っていく小道を辿る。
 昼間ですらなお暗い森の中、月夜とはいえその慈悲の光は彼らの足元までは注いでこぬ。
 けれど、清四郎は不安を感じることはなかった。
 ただ、目の前の女についていけばよい。それだけだった。

 さっと明るい場所に出る。
 月明かりに眩しさを感じてしまう。もちろんそんなわけはないのだが。
 木立が不意に途切れて広場のようになっているらしかった。ぽっかりと星空が見える。
 そこで女は立ち止まる。
 そしてゆっくりと振り返り、彼の方へと手を差し出した。
「人気が、ないだろ?」
 白い肌に浮き上がる赤い唇の端が上がる。金色の瞳がまるで己で光を放っているかのようにらんらんと輝いている。
 差し出された手は華奢で滑らかで、そして暗闇に浮き上がる白さだった。
 清四郎は誘われるままに引き寄せられる。
 彼が彼女の手を取ると、彼女のほうから一歩傍へと踏み出した。

 たまらず彼は彼女の背中へと腕を回す。
 何としたことだ、と頭の隅では思うのだが、まるで手足が思うように動かない。
 これまで若き王都警備隊長として辣腕を振るう青年貴族に言い寄る女はいくらでもいた。娼婦まがいの手口で彼の寝室に忍び込もうとした女とていたのだ。
 だが、彼は誰にも篭絡されなかった。
 若い体の欲に従って女を抱くこともなかったわけではないが、それはすべてその場限りの関係だった。そんな時でも彼は冷静さを失うことはなかった。
 しかしこの女、だ。
 女ともいえないような薄い体。男どもを蹴散らす腕。作法などまるでなっていない振る舞い。
 何より、夜中に密かに王都と外とを行き来する、罪人まがいの者。

 顔を埋めたすぐ横に、彼女の白い首筋があった。きめ細かなその肌に唇を寄せたい衝動と彼は戦う。
 なによりもこの甘い甘い香。抱きしめた腕の中からあふれ出す、この香。
 この香が彼の頭をぼんやりとぼやけさせる。

 女の吐息が、首筋をくすぐる───

「そこまでですよ。」
 ぴたり、と時間が止まった。
 清四郎の手はいつの間にかサーベルを握っていた。彼女の背中のほうでがっちりと彼女を腕の中に閉じ込めるように。
「あなた、何者なんです?」
 少し彼女の身を離して覗き込むと、女はふ、と笑みを洩らした。
「ちょっとあんたの余ってる血を分けてもらおうと思っただけだよ。」

 吸血鬼───!

 清四郎は愕然と目を見開くと、サーベルの束と鞘を持つ手にそれぞれ力を込めた。
 これが、魔の者?
「あたいを・・・退治する?」
 彼女の表情が曇る。
「ええ。それが僕の仕事ですから。魔の者から王都を守るのが、ね。」
 彼の声は少しばかり掠れている。
「今日は非番なのに?」
 苦笑する彼女の瞳をじっと覗きこむ。この瞳の色、魔の者と言われれば得心がいく。
「それでも、ですよ。闇の世界にお帰りなさい。」

 彼女が急に形相を変えてぎっと彼を睨み上げる。
 彼はごくり、とカラカラに乾いた喉に唾を飲み下しながらサーベルを抜き去ろうとした。

 瞬間、清四郎は殺気を感じて振り返る。
 飛んできた銀色に光るものをサーベルで叩き落した。

 キン!

 ぼとっ

 彼は足元に落ちたものがナイフであることを確認すると、それが飛んできた方向を見つめる。
 だが、
「後ろガラ空き。」
と言う少し楽しそうな声がして振り返る。
 そこには長い金の髪を背中で縛り、黒っぽいマントを羽織った男が数メートル離れたところで悠理の肩を抱いていた。
「この借りはまた返してやっからな!覚えてやがれ!」
 悠理が清四郎に向かってわめくのを男は苦笑してちらりと見る。
「ま、そういうことだから。じゃあね。」
と言ったきり、二人は繁みに飛び込んだ。

 清四郎は追いかけようと数歩足を運んだが、この暗闇の中、二人相手にして返り討ちにあう危険を考えて足を止めた。
 そう、頭では考えていた。



 だが、彼は知っていた。
 彼女を抱きしめた己の手が、情けないほどに震えているのを。
 彼女を抱きしめた胸が、まだ熱を帯びているのを。
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