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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/17 (Tue) 23:24
「緋色の罪」第2回。

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 ノックもせずにドアを開けると、黒髪の少女が飛び出してきた。
 悠理はしっかりと抱きとめる。
「ただいま。野梨子。」
 優しく囁くと、野梨子は顔を上げて微笑んだ。
「お帰りなさい。悠理。」

 よく、無事で───

 悠理が人里に出かけて行くたびに繰り返される仕業。
 そうだ。いつだって野梨子は恐れていた。悠理が帰ってこなくなる日を。

 いつだって彼女たちは魔の者として追われる身だったのだから。

「ごめん。今日はしくじったから美童に分けてもらった。」
 寝台の上で悠理は野梨子を抱きしめながら謝罪する。
「悠理が謝ることではありませんわ。あなたたちが無事に帰ってきてくれただけでありがたいんですの。」
 黒い瞳が雫で濡れている。だが気丈な少女は決してそれを零すことはない。
 悠理は一度ついばむように口付けると、今度はその唇を野梨子の白い首筋に寄せた。
 赤い命の流れが皮膚の下に透き通って見える。人間も彼女ら魔物もそれは同じ。
 そっとそこに唇を押し当てると、彼女は生気を流し込んだ。

 野梨子は首を傾けるようにしてそれを受け止める。ゆったりとした熱が体を包むこの時間が至福の時だった。
 やがて悠理が静かに唇を離す。触れられていたところがひやり、とした。
 すると決まって野梨子は顎を引くようにして顔を首もとの悠理のほうへと向ける。キスをねだるサインだ。
 悠理はそれに応酬すると、手を少女のネグリジェの裾へと這わせる。ぴくり、と野梨子が震えた。
 そのままおずおずと伸ばされた野梨子の腕が悠理の首を抱く。

 夜が明けるまで、二人の愛撫は繰り返される───



「珍しいな。お前が十字架、か?」
 清四郎は不意に声をかけられて、左手に持った銀の十字架から声のもとへと顔を向けた。
 頭をこの都でも珍しい部類に入る桜色に染めた副隊長がその眼光鋭い瞳でこちらを見ていた。
「ああ、魅録ですか。昨夜ちょっと、危なかったので、ね。」
 ふっと清四郎が自嘲すると、魅録は目を見開いた。
「お前が?」
 こんな様子の清四郎は確かに長い付き合いだがちょっと彼の記憶にない。
 兵舎の娯楽室で椅子に腰掛け、放心にも近い様子で手の中の十字架を見つめていたのだ。いつだって寸分の隙もなく、神も魔も信じぬこの男が。
 そしてなんだと?危なかっただと?
「なんですか。そんな幽霊でも見たような顔は。」
 まじまじと自分を見つめる親友でもあり幼馴染でもある魅録に、清四郎は苦笑する。
「お前がそこまで言うってことはだってそれってかなりやばい奴だったってことじゃねえか。」
 さすがの豪胆で名高い副隊長もどもらずにいられない。
 清四郎が弱音にも近いセリフを吐くことはそれほどにあり得ないことだったのだ。
「魔物の報告はありませんでしたか?」
 そう問う清四郎の声はしかし、もう平常に近いものだった。
 魅録もはっとして顎を引き締める。そうだ、その報告に来たのだった。今の自分たちは警備隊の黒い制服を着て兵舎にいる、上司と部下なのだ。
「お前が会った奴と関係あるかな?下町で女が一人、血の気を失って倒れていたそうだ。」
「女性、ですか。」
「ただし命に別状はなく、首筋に丸い痣が二つ残っているだけだそうだ。」
「───その女性、隔離しておいてください。目が覚めたら事情聴取します。」
 極めて事務的にそれだけ言うと清四郎は立ち上がった。それはまるでいつもの冷静な彼でしかなく・・・。
「そう言うだろうと思って保護してるよ。女の亭主やら近所の者たちが火あぶりにしろと騒いでるからな。」

 吸血鬼に血を吸われた女。
 その血の中に魔の力が残されたかも知れぬ。
 化け物となって自分たちも襲われるかも知れぬ。

 それを恐れた民たちは、彼女を葬り去ることを主張していた。

「お前、吸血鬼に会ったのか?」
 この自信過剰なまでにデキる男を追い詰めた者とは?
 だが清四郎は親友のその問いに応えなかった。ただ、ふ、と微笑むだけでサーベルを腰に挿し、歩き出した。
 そして戸口までたどり着くと、くるり、と振り返った。
「魅録。あなたも神など信じてはいないでしょうが、十字架を持ち歩くことをお勧めしますよ。効くかどうかわかりませんけどね。」
 ちゃらり、と音がして銀色に輝くものが魅録の方へと放られた。
 魅録は対して身じろぎもせずに黒い皮手袋をしたままの右手でソレを受け止めた。
「お前はいいのか?」
 じろり、と睨む男の視線を清四郎は何を考えているかわからぬ微笑で受け流す。
「あなたには長年待ち続けているフィアンセがいるでしょう?身軽な僕よりあなたが持っていたほうがいい。」
 魅録は思わず手の中の十字架を握り締める。
 あの女が?俺を待ってるだと?
 いつも綺麗に鏝(こて)を当てられた茶色の髪が彼の脳裏で揺れる。まさか、と思わず自嘲する。こんな親の決めた気の利かぬ許婚よりも一時のアバンチュールに身を焦がす女だ。
「お前さんが身軽・・・ね。」
 それこそ親も姉もある男が何を言うのだか。
 だが魅録のその呟きを聞くべき男は、すでに壁の向こうへと消えていた。



 悠理の腕の中で、彼女の匂いを嗅ぎながら、野梨子の記憶はゆるゆると過去へといざなわれていく。
 あれは200年前。まだ彼女が何も知らぬ乙女だった頃。

 ふとしたことから知り合った少年に恋をした。そして少年だと思っていた人が少女だと知っても、その気持ちは変わらなかったし、少女も彼女を愛してくれた。
 思えば、あの頃の悠理はいつだって野梨子に触れることを逡巡していたように思う。
 悠理は野梨子に己の正体を明かそうとはしなかった。ただ、夜しか会えぬことが、野梨子に何かしらの示唆を与えてはいた。
 けれど、体の弱い野梨子が悠理の目の前で倒れたとき、彼女はその正体を曝した。
 首筋から温かいものを流し込まれて、野梨子は正気を取り戻した。

 そして知る。悠理が吸血鬼一族の者だと。
 首筋から血を吸うのとは逆に、生気を仲間や人間に与えることも出来るのだと。

 それを知り、野梨子は願う。
 気が遠くなるほどに長い長い時を過ごす悠理の傍にいたかった。
 この体が朽ちるまで、その傍にいたかった。
 だけど、だから、逆に彼女の傍にいたくなかった。
 自分だけが人間として年をとり、神の元へ召される姿を見せたくはなかった。

 悠理の仲間だという、一族が決めた悠理の婚約者だという金髪の男に、だから尋ねた。
「私があなたたちの仲間になる方法はありませんの?」
 美童はちょっと眉を上げる。
「野梨子。意味がわかって言ってるの?悠理はそんなこと望んでないよ。」
 家族を捨て、人間であることを捨てる。
 絶えず人から追われ、闇の中を這いずり、人や動物たちの血をすすり、その命を吸いながら長い時を生きる。
 そんな道を選ぶと?
 今のままでも充分に幸福な未来を捨てて?
「では方法があるんですのね?」
 じっと己を見上げる小柄な少女に、美童はため息をつく。
「あるよ。だけど、それは僕ら一族の間では禁じられてる。破ったら追放されるんだ。」

 そしてその方法は、君にとって耐えられぬほどの苦痛に満ちているんだ───



 吸血鬼に血を吸われた女は、一昼夜も立たぬうちに目を覚ました。
 少しばかり青い顔こそしていたものの、目が覚める頃には首筋の痣さえ消えていた。
「ここらには珍しい金色の髪で、すごく綺麗な男だったんです。」
 血を吸われたときの状況を話すように促すと、逆にその顔を赤く染めた。

 女が語った男の特徴はこうだった。
 金色の長い髪。白皙の頬。金色の瞳が闇に光っていた。
 あまやかな笑みが、女を魅了したのだという。

「あんな綺麗な男、そこらじゃまずお目にかかりません。」
 うっとりという女の様子に、その亭主はむっとした顔を見せた。もともと彼女を火あぶりにしろとまで言っていた男だ。そこで離縁を言い出すのではないかと魅録は頭を抱えた。
「でも夢は夢、よね。現実はやっぱこの亭主だ。」
 女はそばかすだらけの顔を亭主へと向けた。
「夢ってなんだ、夢って。」
「知らないよ。あんなん一夜の夢さね。なんだい!あたしの亭主はあんただって言ってるんだよ!」
「なんだ、その言い草は!」

 そのまま延々と痴話喧嘩を続けそうな勢いの二人を家へと帰して、王都警備副隊長はふうっとため息をついた。
「まー、なんだかんだとおしどり夫婦だったそうですよ。今頃仲直りしてるでしょ。」
 警備隊員の一人が苦笑しながら、上司に水の入った木のカップを差し出した。
「そんなもんなのか?」
「副隊長も早くご結婚しなさい。そしたらわかりますから。」
 上司よりも10歳ほど年嵩の隊員はそう言って意味ありげに口の端を上げた。
「しかし血を吸われただけじゃ仲間にはならないみたいだな。吸血鬼なんて伝承の中でしか知らんからなあ。」
 魅録は隊員の表情などまるで無視して頭を掻く。
「そうですね。この国でそのような事例が過去にもあったかどうか、隊長は王城の書庫で調べてるそうです。」
 それは魅録も本人から聞いて知っていた。あの学究心旺盛な学者肌の男だ。書庫を隅から隅までさらうように調べていることだろう。
 朝、彼から受け取った銀のネックレスが魅録の首に下げられているのを、今更ながらに思い出した。
「総員に伝えろ。夜の巡察に出るときは必ず十字架を携帯するように、とな。効くかどうかはわからんが、お守り代わりだ。」
「了解しました。」
 胸に手を当ててお辞儀をしてから退出する部下の背中を見ながら、魅録は服の上から十字架を指で撫でた。

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