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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/17 (Tue) 23:25
「緋色の罪」第3回。

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「おや?悠理じゃありませんか?」
 清四郎は意外な場所で意外な人物といる彼女を見つけた。
 そう。彼女は現在巡察中の警備隊副隊長と一緒にいたのだ。街の中心部にある王広場で。
 よく見ると他の隊員たちもいる。
「あ?隊長、知り合いか?」
 ピンク頭の副隊長が首をかしげる。
 一方、悠理はというと苦虫を噛み潰したような顔で清四郎を睨んでいる。冷や汗たらたらというところか。
「いやー、チンピラ10人相手に暴れてたからさすがに保護したんだ。」
 無茶するガキだぜ、と魅録は呆れ顔で端正な白い顔を見下ろしている。
 清四郎は魅録のそのセリフに片眉を上げた。どうやら彼は悠理の正体を知って捕縛したものではないらしい。
 そうだな。いま警備隊が探している吸血鬼は金髪で金瞳の背の高い男だ。
「僕も彼女が不良少年たちを叩きのめしているところを知り合ったんですよ。」
 くすくすと口に拳を当てて笑い出した清四郎に、悠理は軽く目を見開き、魅録は大きく口を開け放った。
「女かよ!こいつ!」
 男のその驚きに悠理はまたむすっとする。
「お前だって間違えたじゃないか、清四郎。」
「僕はどっちか迷っただけですよ。だいたい、女の子に見られたいならドレスでも着てくればいいんです。もっとも夜にそれはお勧めしないが。」
「ドレスなんか動きにくいだけじゃんか。」
 ちっと舌打ちしてそっぽを向く少女と、それを微笑んで見つめる男とを、魅録はまじまじと見比べた。
 この清四郎がこれだけ打ち解けるとはなあ。
「魅録、事情聴取は終わったんですか?」
 急に話を振られたので魅録はちょっと間を空けて続けた。
「あ、ああ。一通りな。あとはこいつ、悠理?だっけの身元を聞くだけだ。」
 清四郎はちらりと悠理の顔を見る。悠理はその視線に一瞬ぴくり、と肩を震わせる。
「いいですよ。僕が明日報告します。このまま送っていきますからあなたたちは巡察を続けてください。」
「いや、それは非番のお前の仕事じゃないだろ!」
 真面目に言い募ろうとする魅録の肩を隊員の一人がつんつん、とつつく。
「なんだ?」
「野暮するなって隊長は言いたいんじゃないんですか?」
「はあ?」
 そのセリフに魅録は清四郎たちのほうを振り向く。
 すると、清四郎は悠理の肩を抱いてこっちにウインクしていた。
「そういうことです。他の隊員には内緒ですよ。」
 浮いた噂一つなかった隊長の珍しい姿に今夜の巡察隊の副官をしていた男は口笛を一つ吹いた。
 一方で魅録はただただ呆気に取られて去っていく二人の背中を見送った。



「で?これはどういう罠だ?」
 警備隊員たちのいた地点からたっぷり一町は離れたところで、明らかに疑いの目で悠理は清四郎を見上げた。
 清四郎は平然として彼女の肩を抱き続けている。
「なんですか?皆の前で正体をばらされて心臓に杭を打たれたほうがよかったですか?」
「!んなわけじゃねえけどよ。」
 悠理は俯いて男の歩調に遅れぬように歩く。どうもこいつ、やりにくい。
「魅録あたりに近づいて、彼らの血も狙うつもりでしたか?」
 清四郎は前を向いたまま無表情で問う。
「そりゃ普通ならお前らみたいな健康な男からのほうが濃いし、血も余ってるからな。」
 血が薄い女から吸ったり、命を取るほど吸ったりはしないんだぜ?と悠理は口を尖らせる。
「でもお仲間はか弱い女性から吸ってたようですけど。」
「だからあたいはやめろっつってるんだ。また騒ぎになっちまって、あいつが動きにくくなった。」
 ぶつぶつと悠理はなおも文句を言い募る。
「おかげで警備隊の奴らも皆、十字架下げやがって。」
「わかるんですか。」
 思わず清四郎は立ち止まって悠理を見下ろした。悠理も彼を見上げる。
「わかるさ。信仰心の篤さまで、な。」
 信仰心が篤い人間が銀の十字架を持っていると、全身が銀色の優しい光に包まれているのが見えるのだ。
「ほお。さっきのメンバーでは誰が一番信仰心が篤かったですか?」
「・・・ピンク頭。」
「魅録・・・ね。」
 清四郎は思わずくすり、と笑う。
 神なんざ信じないと突っ張る不良貴族だが、やはりそういうところ悪になりきれていない親友に、やはり、と思う。
「で?お前はなんで十字架を持ってないの?隊長さん。」
 金色の瞳に見据えられて清四郎の笑みは引っ込む。
「信仰心がない人間が十字架を持ってても効かないってことじゃないんですか?」
「でもお前はあたいが言うまでそれ知らなかったじゃん。」
 追求してくる悠理に清四郎はおや、と眉を上げる。
「よく気づきましたね。」
「当たり前だ!人間なんかより長生きしてるんだぞ!こっちは。」
「・・・失礼ですけど、何歳です?」
「本当に失礼だな。もうすぐ300歳だよ。」
 答えの中身よりも、思った以上に素直にすらすらと答えてくれることに驚く清四郎である。
 普通なら女性に年齢を尋ねるような非礼はしない清四郎だが、今回は好奇心が勝ったといったところだ。
「なるほど。それは“お若い”。」
 思わず呟いた清四郎に悠理は「嫌味か!?」と拳を握り締めた。
 そしてそのままぷいっと顔を背けて歩き始めた。清四郎は苦笑してその後を追った。

「血を吸われただけじゃ、仲間にはならないんですね。」
 街外れ。もう少しで城壁にたどり着くというところで不意に清四郎が言い出すものだから、悠理は彼の顔を見上げた。
「そうだけど?」
 少し頬を赤らめ首をかしげる。
「命をとることもしないんですね。」
「まあな。」
「毎晩血は必要なんですか?」
「さっきから質問が多いな。」
 あまりに清四郎が立て続けに問うものだから、悠理は怪訝そうに眉を寄せる。
 清四郎は答える。
「興味があるんですよ。それに・・・」
と、そこで言いよどむ。
「それに?」
 二人はまた立ち止まっていた。
 石造りの建物は通りに面した窓もきっちりと閉められていて、人の気配さえしない。このあたりは空き家が多いのだろう。
 ひんやりとした石壁に二人の息遣いも吸い込まれていく。
「それなら僕の血はどうかと思いまして、ね。」

 彼女の金色の瞳が見開かれる。
 じいっと男の黒い瞳を見据える。
 そこに真実を探すように。

「正気か?」

 悠理は呆然と、己のほうに歩み寄る男を見た。その手が頬に触れるのを、じっと受け入れた。
「交換条件があります。」
 黒い瞳が艶を帯びている。熱に浮かされた少年の色だ。
 悠理は、ああ、こいつは隊長と言っても貴族なのだからまだ10代なのかもしれないと思った。
「条件は?」
 男の首筋に透き通って見える血脈に悠理はごくりと喉を鳴らす。彼女にだけわかる濃密な血の匂いがする。
「あなたの、唇を───」

 言うなり、男の唇が彼女の唇を覆った。だが、悠理は身じろぎ一つせず、それを受け止める。
 背中に回された腕に掻き抱かれる。
 貪るように男の唇が彼女の唇を撫でる。
 いつしか、二人の舌はどちらからともなく絡まりあっていた。

 陶然としたまま、男は唇を少し離すと、彼女の首筋に顔を埋める。
 自然、女の目の前に男の首筋が差し出された。

 いつしか女の手も男の背中に回っていた。
 赤い唇が、艶やかに笑む。
 うっすら開いたその隙間に見えるのは真っ白な───牙。

 赤い赤い命脈が見える。
 甘やかな濃厚な香がする。
 そこに流れる生気が見える。
 若い若い、男の───



 痛みは感じなかった。
 ぐらり、と軽いめまいを一瞬感じ、ほんの少しだけ手先が冷えたような気がした。
 ただ、それだけだった。



「ごちそうさん。」
 耳元で囁かれ、瞬間、清四郎は体中の力が抜けるのを感じた。
「おい!お前が貧血になるほどは吸ってないぞ!」
 悠理が慌てた声で崩れ落ちようとする清四郎の勢いを殺した。彼はそれでゆっくりと座り込んだ。
「いや、あんまり気持ちよかったから・・・」
 やや俯いた彼の顔は夜目にもはっきりと紅潮していた。
 悠理は彼が傍の石壁にもたれかかるように手伝うと、自分はその目の前にしゃがみこんだ。
「次は、いつ血が必要なんですか?」
 掠れた声で彼が尋ねるので、悠理は答える。
「半月後、かな?でも次は別の奴からもらうよ。」
「なぜ?この血は美味くなかったのか?」
 青年が紅潮したままの顔を上げて、急にそれまでと違う言葉遣いでしゃべるものだから、悠理の眉が少し上がる。
「お前からしょっちゅうもらってたら、警備隊の仕事なんか続けてられないぞ?」
 聞き分けのない子供に言い聞かせるように悠理が諭してやる。
 あんまりその口調が見た目にそぐわず年長者のそれのようだったから、清四郎はますます頭に血が上る。
「人一倍体力には自信があります!それに、他のものの血を吸わせるくらいなら僕の体を捧げるのが王都を守るという任務にも適ってるでしょう?」

 だが、悠理はただ苦笑するばかりだった。
 そして彼から少し身を離すようにして、立ち上がる。
「もう、会わない。そのほうがお前のためだ。」
 言われて清四郎は慌てて腰を浮かせる。だが悠理はぴったり距離を保ったまま体を引く。
「なぜ?」
「お前がそんな顔してるから。」

 だから、もう会わない。

 それだけ言い残して、彼女は去った。

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