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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 13:51
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2015/02/17 (Tue) 23:34
「緋色の罪」第7回。

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 彼女の気配が、ない。
 金色の長い髪をなびかせながら、館の中を歩き回る。
 ぐっと力を籠めて、今まで開けたことがなかった扉まで開け放つ。無駄なことだとわかっていたが。
 カビくさい臭いにちょっと眉をしかめる。誰かの足跡があればはっきりわかるだろうほど、まるで雪のように埃が積もっている。
「どこに、行ったんだ。野梨子。」
 唇を噛み締めすぎたのか、己の口元に血の臭いが、した。



 またすれ違ったあの二人。今夜も一緒にいるのね。
 声をかけ、今日はちょっと挨拶を交わすだけにとどめて、デートの待ち合わせ場所へと可憐は歩く。
 人目を避けるために被ったマントがちょっと暑苦しいが、つい先日化け物騒動があったばかり。用心するに越したことはない。
 従者の少女は先に帰してやった。一人は危ないかなと思うけど、連日の夜歩きにつき合わせてちゃ可哀想だものね。

 そしてすぐの角を曲がったところで小柄な人影にぶつかった。
「きゃっ。」
「ご、ごめんなさい。」
と謝りながら、可憐は首をかしげた。
 ぶつかった人影も自分より小さいものなら、その声はどう聞いても少女のものだったから。
 そして、彼女はまじまじと目を見開いた。

 小柄な少女。マントを被っていて詳しい様子は見えないが、黒いまっすぐな切り髪が透けるような白磁の頬にほんの少しだけかかっていた。
 闇に浮かび上がるそのろうたけた顔は、可憐の母が現国王の妹姫にあたる王女様から若い娘時代に下賜されたという人形に似ている。
 柔らかな曲線を描く頬に、はっきりと開いた大きな黒曜石の瞳。赤い唇はまるで朱をひいたかのようだ。
 今の王家は170年ほど前にやってきた外来民族が建てた国なので、可憐や魅録やあの悠理のような色素の薄い風貌のものが多いが、もともとここに住まっていたものは清四郎のように黒い髪をしていた。彼の一族は古くからこの土地にいる民なのだ。
 目の前の少女は、古くからここにいる血族なのだろう。

 可憐がしばし絶句していると、
「あの、いま貴女がお話されていた二人は、どちらに行きまして?」
と、おずおずと少女が尋ねてきた。
「あちらの角を曲がったようだけど・・・あなた、野梨子?」
 少女がびくり、とした。黒い瞳に強い警戒の色が浮かぶ。
「ごめんなさい、驚かせたわね。悠理から聞いたのよ。あたしは・・・」
「可憐、ですのね。」
 可憐は少し目を見開いた。なんだ、あたしのことも悠理ったら話してたんじゃない。
「そ。あなたには是非会いたいと思ってたのよ。」
と、可憐はすっと手を差し出した。
 しかしそのにこやかに友好的な握手の求めに、野梨子は応じなかった。
「あなたのことは悠理から聞きましたわ。でも、あの方のことは聞いてません。」
「あの方って、清四郎?」
 可憐は行き先を失った手を頬に当てながら、首をかしげる。あたしのことを話してて、清四郎のことを話してないの?と。
「清四郎、とおっしゃいますの?」
 野梨子の綺麗な曲線を描く眉が、歪んだ。憎々しげな色に。
 そこに浮かぶあからさまな感情に可憐は口をぽかんと開けた。
 その感情の名は、嫉妬だったから。



 静かに歩いていた。ぽつり、ぽつり、と可憐は、昨夜と今夜で己が見たことを話す。
「そりゃあさ、あんたにはお姉さんを取られるみたいで辛いのかもしれないけど、悠理と清四郎はお似合いだと思うのよね、あたし。」
 姉妹じゃないけど家族だよ、と悠理は言った。
 でも野梨子にとってはそんなものじゃないのだろうと、うかがい知れた。
「やっぱさ、悠理も女の子なのよ。」
 先ほどから黙って表情を失ってしまった野梨子の様子をこっそり目の端に留めながら可憐は続けた。
 そこでまた、かすかに野梨子の顔に表情が見えた。本当にかすかに。
「汚らわしい。」
 ぽつり、と吐き捨てた言葉に、すべてが滲んでいた。嫌悪。
「汚らわしいってあんたねえ・・・。」
「悠理は、私のものですわ。」
 毅然と前方を見つめる野梨子は、女の可憐ですら心を奪われそうなほどに光り輝いていた。
 夜闇に浮かび上がる白いかんばせ。人形とは違う、感情があらわに見えるそのかんばせ。
 確かに可憐は悠理や野梨子のことをほとんど知らない。二人とも出会ったばかり。
 だから可憐が知っているのは、野梨子にとって残酷な事実だけだった。
「悠理は、清四郎に恋してるわ。だいたい、あんたもそれだけ綺麗なんだから男なんかいくらでも・・・」
「殿方なんて・・・それに私と悠理の200年は誰にも崩せませんわ!」

 え?200年?

 野梨子はそれだけ激昂して叫ぶと、もう可憐のなどそこに存在せぬかのように振り返り、歩き出した。
 可憐は一瞬躊躇したが、野梨子に五歩遅れてその後を追うことにした。

 野梨子は木靴を履いているのが信じられぬほどに石畳の上をほとんど足音を立てずに歩く。対して可憐は軽いながらも木靴が石とぶつかる音がどうしても響く。
 可憐は野梨子の後姿を見ながら、本当にこのままついていってもいいのだろうか、と考える。
 若い女二人、こんな夜に歩くことの危険ももちろんある。
 だが、ひっかかるものがあるのだ。
 200年という言葉もそうだし、野梨子や悠理の闇に浮かぶ白い肌もそうだった。
 ・・・そういえば、悠理の瞳は金色だった。
 先日王都を騒がせた吸血鬼。あれは長い金髪をたなびかせた男だったと言う噂だが、彼も金色の瞳だったという。

 まさか、でしょ?



 不意に野梨子が立ち止まったので、可憐も立ち止まる。
 都のはずれ。可憐は昼間でもこんなところには来たことがなかった。貧民屈の更にむこう、誰も住まぬ廃墟の群れ。
 家が朽ちていた。石材を貧民屈の住人に持っていかれたのか、礎石だけがそこに家があった証。草が生い茂っていた。
 そこに悠理と清四郎が、いた。

 こちらが風下のようだ。風に乗って二人の声が切れ切れに聞こえる。



「野梨子さんのぶんだけ、ですか。」
 清四郎は寂しげに微笑む。悠理の糧となるのではないということか。
「あたいは、ここんとこ毎晩肉食ってるから、さ。野梨子に分けるぶんには足りなくて。」
「美童のぶんは?」
「美童?あいつはいっつも適当にやってるよ。」
 ぷ、と軽く頬を膨らませた悠理に、清四郎は片眉を上げる。
「前から思ってましたが、あなたは美童には点が辛いのですね。」
 可憐と話すときも野梨子の話ばかりだった。子供時代は同じ一族だった美童と過ごしたはずなのに。
 清四郎のその言葉に悠理がぎり、と奥歯を噛み締めた。
「あたいは、あいつが200年前にしたことを許したわけじゃないから・・・!」
 100年はあいつと口を利かなかった。今だって必要なことは話すが、それ以上はない。
 許さない。許すつもりは、ない。
「野梨子さんを仲間にしたのも、200年前でしたよね?」
「そうだよ。あいつが、野梨子から、太陽を奪った・・・!」
 もちろん、野梨子自身がそれを望んだから。悠理の傍にいることを望んだから。
 それはわかってる。わかってるけれど、それを実行した美童が許せない。
 だって彼女を仲間にすることが出来るのは、悠理ではなく、美童だけだったから。
「野梨子があたいのために美童に頼んだってのはわかってる。だから、あたいは野梨子に償っても償いきれないんだ。」
 すべてはあたいのせい。野梨子があの苦痛に耐えたのも、あたいのせい。
「だから、ごめん。お前にこんなことを頼むのは残酷だってわかってる。だけど・・・」
 清四郎のシャツの胸元を握り締めて俯いた。
 数秒の後、悠理はその手を温かいものに包まれた。清四郎がその上から握ったのだ。
「いいですよ。僕は、あなたが他の男の首に口を寄せるだけで、許せないのだから。」
 他に選択肢は、ないんです。
 その微笑には欠片も迷いがなく、見上げた悠理は、そっと瞼を閉じた。



「あら。」
 会話はほとんど可憐の耳には聞き取れなかった。ただ、深刻な話をしている様子だった。「野梨子」「美童」「200年」「太陽」などと言った言葉が聞こえただけ。
 いま、二人は唇を重ねていた。
 可憐は微動だにしない野梨子の様子を窺う。
 そこに何の感情も見て取れず、また視線を二人のほうへと戻す。

 その時だった。
 唇を解放された悠理が、清四郎の首筋に顔を埋めた。
 そして闇に浮かんだ、白い牙───

「ひっ。」
 可憐はすんでのところで悲鳴を飲み込んだ。
 風に乗ってかすかに血の臭いがする。
 疑いようもなかった。
 そのまま踵を返すと、その場から逃げ出した。

 魅録!魅録!魅録!

 心の中で、ただそれだけを繰り返しながら。



「この、匂い・・・。」
 覚えている。濃厚な血を吸ってきたから、と悠理に与えられた。
 あの夜、悠理はいつになく情熱的に野梨子の肌を求めた。
「そう。あの方のものでしたのね。」
 野梨子はそのまま闇を見据えていた。

 悠理にとっては私は家族?
 ただの償いの感情だけ?憐れみの感情だけ?
 そして、仲間になるために私が選んだ手段を、許していない?
 許せないのは、美童だけ?本当は私もではないの?

 野梨子には二人の会話がすべて聞こえていた。これも闇の一族に堕ちたおかげだろう。
「皮肉・・・ね。」
 一滴、温かいものが頬を伝った。
 人ではなくなったのに、涙は流れるのだ。それがひどく滑稽で、笑えた。ただ唇の端が歪んだ程度だったけれど。

「悠理。その方からもらった血など、私は要りませんわ。」
 野梨子に気づかず別々に去ってしまった悠理にも清四郎にも聞こえていない呟きだった。

 ただ夜を渡る風だけが、その呟きを聞いていた。

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