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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 18:30
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2015/02/17 (Tue) 23:39
「緋色の罪」第10回。

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 目が覚めた。
 金色の瞳が瞼の間から覗く。
 途端に目の前に見えたのは漆黒の瞳。黒檀の髪。
 ああ、あの人と、同じ。
「世界で一番愛してるよ、野梨子。」
 微笑んで手を伸ばし、その人の白磁の頬に触れる。
「嘘つき。」
 そう言って眉をしかめた黒髪の少女は、これまで見た中で一番美しかった。

 まだ部屋が明るい。ベッドの周囲の天幕の外は太陽の最後の残滓がきらきらと踊っているのだろう。
「もう少しお眠りなさいな、悠理。まだ生気が回復してませんわ。」
「ん。」
 額にふわふわとかかる前髪を撫でられて、悠理は目を閉じた。

 まどろみの中、彼女の耳にまた長老の声が蘇る。
 きっとあの頃のようにゆるゆるとした、ぬくぬくとした、そんな熱が彼女を包んでいたから。
「人を仲間にすることは罪深いことなのだよ、悠理。」
 そうだね。その通りだったよ、じいちゃん。
「なぜなら我々と人間の血は相容れることはないから。」
 そうして一族の危機を招くから。

 人は吸血鬼にされてしまうと肉体的な飢餓にも精神的な飢餓にも弱くなる。
 無差別に人を襲うようになり、吸血鬼狩りを招く。
 あたいは間違えた。あたいのために仲間になる決意をした野梨子が飢えぬように守らねばならなかったのに。
 他の者を愛してはならなかった。

 あの男に緋色に燃えるような想いを抱いては、ならなかったのだ。



 次に目を開けると、すでに日は暮れているようだった。館を覆う闇の気配が彼女の体に優しく馴染む。
「目が覚めたみたいだね。」
 聞こえたのは、やはり彼女に耳にすんなり馴染む従兄の声。
「美童?お前が生気くれたの?」
 野梨子はどこへ行っているのだろう?この部屋にこの男がいるのも珍しい、と思いながら悠理は訊ねた。
 首筋に残る温かな気配。失った生気を再び与えられた名残。
「僕じゃないよ。野梨子だ。」
「え?」
 美童が取ってきた生気を野梨子が受け取り、己へと移してくれたのか?
 悠理から生気を受け取る以外は自分で取りに行くことも、美童から受け取ることもしなかった彼女が?
 そして寝転がったまま首だけをめぐらせて周囲をうかがう。
「野梨子は?どこ?」
 さっきから疑問符だらけだ、と思う。
 だけどあまりにも今までと違いすぎるから。得体の知れない居心地の悪さを感じるから。
「森だよ。」
 森へ?
「野梨子はやっぱり不思議な魅力を持っているんだね。彼女が森に出ると、鹿も兎も、狼や熊だって、まるで牛や馬のようにおとなしくなってしまう。」
「そうだろう、な。」
 初めて出会ったとき、彼女は森の主であろう大きな狼をゆっくりと撫でていた。己の飼い犬であるかのように、くうん、と鼻を鳴らす狼を愛しげに撫でていた。
 たぶんあの獣たちも悠理と同じように、美童と同じように、彼女に従わずにいられないのだろう。
「そうしてね、彼らは野梨子に少しずつ生気を分けてくれてるんだ。」
 美童は窓の外を目を細めて見つめながら、そう言った。
 悠理は温もりの残る己の首筋に思わず手を当てた。
「それじゃ、これ・・・。」
「言ったろ?野梨子だって。」
 片眉を上げながら悠理のほうへと振り返った美童は、面白げに口の端を上げていた。
「ほら、帰ってきた。」

 石造りの廊下を彼女は猫よりももっと軽い足取りで歩く。
 木靴が石にぶつかる音などかすかにも聞こえはしない。
 だけど、悠理にも美童にも、軽い軽いそのリズムが響き渡っているような気がする。
 か、か、か、か、か、か、か・・・。

 そら。ドアが開く。
「いま戻りましたわ。まあ、悠理、目が覚めましたのね。」
 息を軽く弾ませた野梨子は、一旦目を見開いてから、花が綻ぶように笑んだ。



 野梨子の温かさに包まれ守られ、悠理は見る間に回復した。
 もともと美童ほどではないが歳を経た吸血鬼である彼女は今が盛りの魔力の持ち主だった。回復も早い。
「なあ、もう大丈夫だよ。次の街へ行こうよ。」
と、悠理はベッドから起きて言うのだが、野梨子も美童もただただ笑って首を振るばかりだった。
 その笑顔には不思議な強制力があり、悠理もこっそり館を抜け出すなどできない。

 とにかく、変だ。
 居心地が悪い。
 早くここから去ってしまいたいのに。
 あの男から離れてしまいたいのに。

 いつかあの男が年老いて、彼女を置いて逝ってしまう姿など見たくないのに。

 そして野梨子はいつしか悠理と床を共にしなくなっていた。
 どこへ行っているのかなど聞きたくもない。
 この館の中でいつでも使える状態の寝室はここの他には一つしかない。

 寂しい、寂しい、寂しい。
 一人で寝るにはこの寝床は広すぎる。

 涙で滲んだ月は、夜毎に肥え太っていった。



 テラスに出た。今宵は満月。
 悠理はそっと両手を中空に伸ばした。
 月の光を体中に浴びるように。その光を魔力に変えるように。

 月が満ち、魔力も満ちた。

 まだ、彼女らはここに留まっている。
「まあ、ここにいましたのね?悠理。」
 声をかけられ、悠理は振り向く。野梨子が眩しそうにこちらを見ていた。
 今日の彼女は草色のドレスを着ている。彼女の父が描き残していた野梨子の肖像画。15歳の誕生日に贈られたというそのドレスと同じものを、美童が街で作らせたのだという。
「似合うよ。野梨子。」
 目を細めた悠理に、野梨子は微笑んで見せた。
「ありがとう、悠理。」
 すっと野梨子は足を進めた。そしてそっと悠理の腕を取る。
 たくらみを隠したような楽しげな瞳に悠理は引き寄せられる。
「うふふ。悠理にも私と美童からプレゼントがありますの。」
「プレゼント?」
「ええ。あなたの寝室に用意してますわ。」
と、野梨子は悠理の腕をひいた。

 深い緋色に染められた柔らかな極上の毛織物の布地。
 彼女の細い腰をきゅっと締め上げるサッシュは恐らく東洋からもたらされた絹。
 ふわりと広がったスカートはややもすれば欠点になりがちな彼女の背の高さを魅力的なものに見せる。
 胸元に寄せられた大げさになりすぎぬタックはほんの少しばかり薄い彼女の胸にふんわりとした膨らみを演出する。
「ちょ、ちょっと野梨子!こんなんあたいには似合わないよ!」
「何を言ってますの。よく似合いますわ。」
 ほおっと野梨子は一つ溜息をついた。
 この緋色は血の赤だ。悠理の白い白い肌を一層際立たせる命の赤。
「さすが可憐ですわね。悠理に似合う色を、とお願いしましたの。」
「可憐?」
 悠理が思ってもみなかった名前に目を見開いた時、こんこん、とドアがノックされた。
「支度はよろしいかな?レディーがた。」
 野梨子の許可を受けて優雅な動作で入ってきた美童は、そのまま戸口で凍りついた。
「あら、美童まで見惚れてますわ。」
 少しく呆れたような口調で野梨子が苦笑した。
「ああ、だって、悠理のドレス姿なんて初めて見たからさ。」
 悠理を見つめる視線はそのままに、まだ呆けたような表情を浮かべて美童が零した。
 本当は彼の花嫁になるはずだった従妹。まるで男兄弟のように育ってしまったが、彼女の美しさには気づいていた。
 けれど奔放な彼女は決して彼のものにはならず、そして二人して同じ少女を愛した。
「すごいね。これだけのものを仕立てるなんて、野梨子はやっぱすごい。」
 美童は今度は野梨子へと微笑みかけた。野梨子は頬を赤らめる。
「ま。今更私を褒めても何も出ませんわよ。」
 ぷい、と顔を逸らす彼女の様子に、美童はぷ、と吹き出す。
「これ、野梨子が?」
 訊ねる悠理の声は掠れている。どうして、こんな?
 野梨子は再び悠理ににっこりと微笑みかけた。
「美童にお遣いしてもらって可憐に頼みましたの。悠理に似合う布地を用立ててくださいなって。そうして急いで私が仕立てましたのよ。満月に間に合わせるのが大変でしたわ。」
 悪戯っぽく笑う彼女は幼い少女のようだ。
 ここのところ寝室を別にしていたのがこんなたくらみのためだったとは。
「でも、どうして?」
 どうして、今夜?
 どうして、ドレス?
 重ねて問う悠理に浮かぶのは漠とした不安。
 自分のあずかり知らぬところでものごとが進むことへの不安。
 そして野梨子が口を開いた。
「今夜、貴女が花嫁になるためですわ、悠理。」



 可憐は月を見つめていた。
 己の部屋の窓を金色の髪で金色の瞳をした男がノックしたときには心臓が止まるかと思うほどに驚いた。
 でもすぐにわかった。悠理たちの“仲間”だって。

 そして野梨子からの頼まれごとを、可憐は二つ返事で引き受けた。
「それと野梨子がね、“いろいろごめんなさい”って。」
 眉尻を下げて代わりに謝る美童に可憐はふうっと溜息をついて見せた。
「まったくだわ。あたしも魅録もいい迷惑よ。」

 清四郎の容態は初めのうち、思わしくなかった。
 彼自身怪我が癒えてないにもかかわらず隊長の代理を勤める魅録は、家族に看病される親友のもとへ見舞うこともできなかった。
 もちろん可憐と会う時間もとれない。
 そして意識が戻ってきた清四郎は、とうとう警備隊長の辞職願を王宮に提出したという。
 一身上の都合と言うほかに明確な理由も明かされず優秀すぎる隊長に去られることになってしまった王宮側は困惑し、留任を迫っていた。
 なので当分後任の隊長も決まらず、よって副隊長一人で隊長と副隊長の仕事をこなす羽目になっていた。

 今宵は、満月。

 魅録は超多忙ながらも今夜は非番がとれたという。
 可憐はそっと、瞼を閉じた。

 可憐にとっても魅録にとっても、清四郎は大事な幼馴染だった。
「“ごめんなさい”の一言だけだなんて、虫が良すぎるわよ、あんたたち。」
 椅子の背に頬杖をついて悪態をつく彼女は、だが静かに微笑んでいた。

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