2015/02/18 (Wed) 00:45
今日も清四郎は遠くを見ている。
「悠理?帰ってたんですか?」
清四郎は責めない。
夜遊びをするあたいを責めない。
「今日・・・さ。野梨子からメールが来てたよ。」
「そうですか。元気そうでしたか?」
「ああ。スウェーデンの気候にもだいぶ慣れました、だって。」
そして最後に書いてあった一文。
───清四郎によろしくお伝えください。
他愛ない一言なのに、あたいはそれを告げることが出来ない。
どうせ清四郎だって野梨子がとる礼儀のことはよくわかってるだろうから、言わなくてもその一文が最後に付け加えられていることを知ってるだろう。
わかってる。今は清四郎があたいを愛してくれているって。
わかってる。今はあたいは清四郎を愛してるって。
だからこうして一緒にいるんだから。
だけど、その愛を無邪気に信じていられるほどあたいたちは若くもないし。
その愛を、静かに信じていられるほどにあたいたちは歳をとってもいなかった。
こんな物思い、馬鹿馬鹿しいってのは知ってる。
野梨子に今更嫉妬することがあるなんて、思わなかった。
別に清四郎と野梨子の間になにかあったわけじゃない。二人は幼馴染の域を越えることはとうとうなかった。
むしろ過去があるのはあたいのほう。
あの夏。
花火見て、酔っ払って、盛り上がって。
いつも一緒に遊んでいた男と寝た。
でもそれきりだった。
「悠理。そろそろ結婚記念日ですよ。覚えてました?」
「ばあたれ、いくらあたいでも忘れるわけないだろ。言わずに用意して驚かしてやろうと思ってたのに。」
「そうですか。すいませんね。」
清四郎は笑う。
男にこんな形容詞を使うのはたぶん間違ってるんだけど、こいつはいつもたおやかに笑う。
あたいに対してだけ見せる笑顔。
皆に見せる皮肉な笑顔でも、自信が満ち溢れた笑顔でもない。
愛されている、とわかってる。
愛している、それは間違いない。
だけど、遠くを見る清四郎の視線に嫉妬する。
遠い幼い日の、二人に嫉妬する。
あの日のように何も知らないままだったら良かったのに。
そしたらこんな苦しみも知らなかったのに。
曖昧に笑ったら、清四郎に抱きしめられた。
「今夜は寝かせませんよ。そして明日は二人で昼までゆっくり眠りましょう。」
そしてまた、いつものように笑ってください、と言われた。
今日のあたいが変なのにやっぱり気づいてるみたいだ。
ありがと。清四郎。
二人で前を向いていこうな。明日になったら、いつもみたいに笑うから。
だから、今夜はこの揺らぎを、忘れさせて。
(2004.7.25)
(サイト公開期日不明)
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