2015/02/18 (Wed) 00:19
今日も自然に顔が綻ぶ。
「朝からご機嫌ですね。野梨子。」
隣を歩く幼馴染の青年が少しばかり眉を上げて言う。
彼だって気づいてるだろう。おかっぱ頭の少女がここのところずっとにこやかであることに。
学校の行き帰りだけではなく、教室で、そして倶楽部で。
それに気づいているのも彼一人じゃない。
他の有閑倶楽部の連中はみな気づいている。(そして悠理などは不気味がっている。)
野梨子自身も、自分の変化に気づいていた。
用心していないとらしくなく鼻歌さえ出てきそうなほどなのだ。
うきうきと心が浮き立って、ささいなことが嬉しくて嬉しくて、世界中に感謝したい気持ちにまでなるのだ。
そして彼女自身、その理由を知っている。
その人の姿を追うだけで、その気配を感じるだけで、顔が綻んでくるのだから。
これは恋?
こんなにも楽しい感情が?
初めての恋は切なかった。
ふとしたことで泣けてしまうほどに、切なかった。
胸が痛くて、苦しかった。
だけど今の気持ちは、ただ楽しかった。
いつも誰かしらに恋をしている可憐を見ていたから、恋が様々な化学反応を起こすことは知っていた。
可憐は愁いを帯びて美しくなることもあった。
可憐は自信に満ちて悠理のように輝きだすこともあった。
そして近頃の可憐は優しげな透明な笑みを浮かべることが多くなった。(たぶんまた恋をしているのだ。)
いつだったか、毎日のように楽しそうに笑い転げていることもあった。
ちょうど今の野梨子のように。
だから、野梨子は気づいている。
いま、彼に恋をしているのだと。
その人の姿を追い。
その人の気配を追い。
その人の声を聞く。
気持ちを告げるとか告げないとか、そんなことはどうでもよかった。
ただ、楽しかった。
すべての芸事が楽しくなった。
お茶もお花も踊りも、すべてに籠める感情が変わった。
季節の移ろいが美しかった。
風の囁きが優しかった。
「たぶんね、恋をしてるせいですわ。」
にっこり笑むと、隣の青年は「おや。」と言うようにまた眉を上げて、微笑み返した。
(2005.1.6)(2007.1.26修正)
(2006.2.6サイト公開)
(2006.2.6サイト公開)
PR
Comment
カテゴリー
最新記事
(08/22)
(08/22)
(03/23)
(03/23)
(03/23)
メールフォーム