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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/19 (Thu) 00:16
きっとみんなそうして大人になる。
「だから僕たちは」第3章。

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 桜の花びらが点々と散っている。
 軟らかな茶色の土の上に降ったそれは、人に踏まれて色が変わっている。
 土の上にできた白い水玉模様は、人に踏まれて汚れていた。

 まるで積もった雪が、汚らしく土の色に染まりながら融けていくように。

 初めは白かったこの想いも時間とともに汚れていくものなのだろうか、と野梨子はほっそりとした眉を寄せて、ため息をついた。
 恋を知って、初めは幸せだった。彼女を取り囲むものは銀世界のように美しく輝いていた。
 けれど今はその雪は跡形もなく融けてしまっていた。
 汚れながら融けていってしまった。

 大学3年の春。こんな気持ちで迎えることになるなんて思ってもいなかった。
 大学2年の夏に、清四郎と悠理が寄り添う姿を幸福と感慨を持って見つめたときには、こんな未来を予想していなかった。

 大学の構内を彼女は部室のほうへとぶらり歩いていた。
 どうせ皆それぞれが忙しいのだから、今は一人で他のメンバーがやってくるのを迎えられるはずだった。
 部室で心を落ち着けて、微笑んで皆を迎えたい。

「俺にしとけよ、可憐。」
「魅録?」
 部室のドアの前に立つと同時に耳に飛び込んできたのは苦しげに言った魅録の声と、不思議そうに聞き返した可憐の声。
 二人が先にここにいるなんて思わなかった。
 そしてその状況をすんなりと理解した。

 可憐は先日、またも失恋したばかりだ。
「君は強いから僕じゃなくても大丈夫だよ。」
と男に言われたそうだ。
 そして魅録は、昨年の夏に可憐のクラスメイトだった彼女と別れて以来、誰とも付き合ってはいない。倶楽部の皆で動くときの彼の態度でその理由は明白だった。
 気づいてないのは当の可憐くらいのものだ。恋愛の達人が聞いて呆れる。
 そうか、やっと可憐は彼女を一途に愛してくれる大事な存在を手に入れることが出来るのか。

「悪い冗談はよしてよ。あたしたちは仲間じゃないの。」
 清四郎と悠理が付き合うようになるまで、倶楽部内での恋愛がありえることなんて皆きれいさっぱり忘れていたように思う。
 自分たちは健康な男女で、それぞれが異性から見てとても魅力的な人間であることなんて、それまではどうでもよかった。
「仲間で、お前は女で、俺は男だ。」
 魅録はきっとじっと可憐の瞳を見つめているのだろう。あの分析しがたい深い瞳で、彼女の瞳を見つめているのだろう。
 声音に滲む愛しさに、声音に潜む緊張に、野梨子は気づいた。

 ぽつり、と胸の奥に毒がしみこむような気がした。

 その瞬間、ドアノブを握ることができずにさまよっていた右手を誰かにつかまれた。
 思わず悲鳴を上げそうになってそちらを見ると、長い金髪を今日もさらり、となびかせた美童がそっと指を己の唇に当てて彼女に声を挙げないように促した。
 そのまま彼に手を引かれてその場を後にすることになる。

 連れてこられたのは桜並木のベンチ。桜もほとんど散って花びらが醜態を曝すのみとなったこの時期なので、他に学生はいない。
 積もった花びらを払って、そこに残る水分で彼女の水色のワンピースが汚れないようにハンカチをひいた。こういうところ古風である。
 野梨子はそこに戸惑ったような顔をあらわにしながら腰掛けた。美童の顔はあまりに真剣だった。
「どうしましたの?なぜそんな顔をしてますの?」
 訊ねる野梨子に、だが、美童は呆れたように返した。
「それはこっちのセリフだよ。泣いてるじゃない、野梨子。」
「え?私?」
 慌てて自分の頬に触れると、ひやり、とした液体が指先を濡らした。自分でも気づいていなかった。
 なぜ私は泣いているのだろう?
「中にいたの、魅録と可憐だろ?」
と美童はハンカチをベンチに敷いてしまったので、指で野梨子の頬を優しく拭いながら言った。
 野梨子は慌てて自分のハンカチを取り出すと、己の頬よりも先に彼の指を拭った。
「ええ。魅録が可憐に告白してましたの。」
「そっか。やっとあいつ口にしたか。」
 でも可憐はちっとも彼の想いになんか気づいてなかったし、今まで無意識にあいつの恋愛対象から僕たちははずれていた。
 魅録も受け入れてもらえるまでにもう一苦労しそうだな、と美童は心の中でこっそり同情した。
「で?じゃあ、野梨子はなんで泣くの?あんなに優しい彼がいるのに。」
 悠理たちの時はあんなに祝福していたのに。
 まさか魅録のこと、本当は・・・
 野梨子が困ったような、途方にくれたような目で、傍らの美童を見上げた。
 そして一度俯き、きゅっと唇をかみ締めると、きりっと前方を睨んだ。
「私、昨日彼とお別れしましたの。」

 野梨子は大学1年生の頃から付き合っている彼氏がいた。
 人前で手を繋いで歩くことにも照れてしまうような、まるで10年も若い子供の初恋のような、初々しいカップルだった。
 スポーツマンの彼は、体を動かすことと食べることが大好きで、だけどあまり男を感じさせない幼なさも併せ持っていた。
 彼の傍で倶楽部の連中の前でしか見せないような無防備な表情をして笑っている野梨子の姿を皆ほほえましく見つめていた。

「そっか。そうだったの。」
 だから可憐には魅録がいる、という事実が胸に刺さったのか。
 いま、野梨子のそばには清四郎はいない。清四郎は悠理しか見えてない。
 友人の手が必要なこのときに、清四郎にも、可憐にも頼れない。
 この時に僕だけでもここにいてよかった、と美童は思った。
「何も、訊きませんの?」
「何を?」
「どうして別れたのか、とか、そういうことですわ。」
「訊いてほしいの?」
 野梨子は相変わらず前を見据えていた。涙はとうに止まっていた。
「彼、ね。サークルの女の子と寝たのですって。」
 美童は一瞬、彼女の口から出た言葉の意味が理解できなかった。
 わかったとたん、怒りが湧いてきた。
「なんでさ!野梨子みたいな完璧な女の子が傍にいるのに他の女なんて!」
 子供みたいな顔をして、なんて奴だ!
 野梨子はそのまま彼のところへ殴りに行きかねない美童の様子にびっくりしたようで、目を見開いて見上げていた。
「まあ、あなたがそんなに怒らなくても・・・」
「だって!」
 顔を真っ赤にして憤慨する美童に、野梨子はくすり、と笑いを洩らした。
「いえね。よりにもよってあなたがそんなに怒るなんて思いませんでしたわ。」
 略奪愛や不倫だってお手の物の彼がそんなに怒るなんてお門違いもいいところだ。
 このとき初めて、野梨子は美童が今日はオフホワイトのジャケットを着て、同じ色のスラックスを穿き、鮮やかなグリーンを基調とした幾何学模様のシャツを着ていることに気づいた。今日のお相手はさしづめ若いツバメに相好を崩す少し年上のキャリアウーマンというところか。
 そんな美童の怒りは本気のようだ。
「別れて正解だよ。あんな奴。」
と子供のように口を尖らせる。
「美童、私ね。怒ってませんのよ。」
 膝の上で自分の両手の指を組み合わせてまた前を見る野梨子の表情は穏やかだ。苦笑にも似た色こそ漂っているものの。
「だって彼がどんなに誘っても、一度も私は彼と交渉を持ちませんでしたの。」
「え?してなかったの?」
 そのある意味あけすけな反応がやっぱり美童らしい、と野梨子は今度ははっきりと苦笑した。
 まさかこの人が気づいていなかったとは、ね。
「だって1年以上も付き合ってて、一緒に旅行にだって行ってて、あのあと二人の間の空気も変わってて・・・」
「でも、してませんでしたのよ。」
 おかしそうに言う野梨子を、まるで初めて珍獣を見るかのような目で美童が見る。
「びっくり・・・へええ。じゃあ、浮気は許せないよね。」
「怒ってないと言いましたでしょ?それも原因だったのかなってちょっと悲しかっただけですわ。」
「野梨子って意外と大胆だって思わせておいて、やっぱりおかたかったんだな。」
 ずっと倶楽部の仲間として一緒にいるうちに彼女の大胆さを骨身にしみて知っていた彼だったから、おかたいように見えて、彼女は惚れた男とはあっさり一線を越えてしまうのだろうと思っていた。
 でも野梨子は再び眉根を寄せた。
「違うんですの。結局、私も彼のことをそれくらいにしか想ってなかったんだと、気づいてしまいましたの。」
 潔癖ゆえに彼と寝なかったのではなかった。単にそういう気持ちになれなかっただけだった。
 彼が他の女と寝た、と聞いたときにそのことに気づいたのだった。
 確かに悲しかった。けれど不思議なほど憤りは感じなかった。冷めていた。
 だから、謝る彼に別れを告げた。謝るのは私のほうだと思った。
「彼って誰かに似てると思いません?」
 唐突に言う野梨子に美童は首をかしげる。
「ん?誰だろ?」
「悠理ですわ。」
 あっさり答えを教えた彼女の横顔を見ながら美童は大きく目を見開いた。
 しかし確かに中性的なところも、大喰らいなところも、体を動かすのが好きなところも、ロックが好きなところも、悠理と似ている。
「そして裕也さんは魅録に似てましたわね。」
 魅録が髪をピンクに染め続けずに黒髪でいたなら本当に双子かと思ったであろうほどに似ていた裕也。
 バイクが好き、車が好き、喧嘩に強く、不良の空気漂う。
 野梨子の初恋の相手は去年の秋、故郷の金沢で中学時代の同級生と結婚した、と知らせてきていた。
「結局私ね、倶楽部の皆以上に愛せる相手をまだ見つけていないんですわ。きっと。」
「そんな目をしないでよ、野梨子。それじゃまるで清四郎みたいだ。」
 遠くを見ているようで、本当に覗き込んでいるのは自分自身。
 そんな冷徹な観察者の目。
 近頃では滅多に見せなくなったが、この女性の幼馴染がよく見せていた瞳の色だった。
 ふと、彼女が振り返った。彼の方へと微笑を向けた。
「ありがとう。こんなときに傍にいてくれて。」
 そのふっきれたような彼女に、美童は曖昧な微笑を返すことしかできなかった。

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