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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 14:42
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2015/02/19 (Thu) 00:17
「だから僕たちは」第3章第2回。

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「そうですか。野梨子が。」
 その夜、久しぶりに倶楽部の男だけで飲みに来ていた。
 美童は野梨子が彼と別れたんだってさ、とだけ残りの二人に告げた。しかし、二人のうちの一人の行動によって涙を流したことは黙っていた。
 彼女の黒髪の幼馴染が怒り狂うかと思ったが、意外と静かに表情を変えなかった。
「怒らないのか?清四郎。」
 彼女の涙の原因を作った男が、美童と同じように意外そうな表情をして訊ねる。
「別に、彼女も大人なんですし、いつまでも僕が保護者というわけでもないでしょ。」
とバーボンのグラスをそっと揺らした。中身はワイルドターキーのロック。品行方正が服を着たような彼のイメージとはかけ離れている。
 6人でつるむようになった15歳の頃から少しずつ彼の優等生らしからぬ姿も見てきたものの、悠理と付き合うようになってからは本当に本性をありのままに曝け出している感じである。
 これも悠理が彼にもたらした変化なのか。
「大人じゃないよ。野梨子はまだ子供だ。」
 今日の彼女の告白を聞くまでは、美童も彼女は大人になったのだろうと思っていた。だが、違った。
 そこにいたのは、大きな子供だった。途方にくれたような、大きな迷子だった。
「野梨子ね、結局彼とは一度も寝てなかったんだってさ。」
 魅録がぶはっとビールの泡を咽る。彼は今日は車だから、とエールをジョッキで飲んでいた。それでも今はアルコールの検出基準が厳しくなったので、検問にひっかかれば間違いなく摘発されるのだが、彼のことだ。まずひっかかるようなへまはしない。
 清四郎も眉を曇らせてグラスを呷った。
「それが、別れの原因ですか。」
「ま、直接の原因じゃないにしろ、そういうことだってさ。」
 美童は自分のマルガリータをくいっと呷った。

 しん、と一瞬の沈黙が流れた。

「寝てない、と言えばさ。」
 美童が口を開いた。野梨子についての報告はこれで終わらせたかった。
「ん?」
と魅録がそちらを見る。この暗い店内でも彼のピンク頭はよく目立つ。美童の金髪も、オフホワイトのジャケットも浮いて見えるように、魅録の髪はよく目立つ。
 清四郎の黒い髪も、黒っぽい服装も、暗さの中に融けてしまいそうになるのとは対照的だ。
「清四郎と悠理もまだ寝てないだろ?」
 美童は、その自分のセリフでテーブルの向かいにいる魅録も清四郎もそのままの表情で固まるのを感じた。
「僕こないだ見たんだ。お前らのデート。」

 海辺のデートスポット。
 手を繋いで歩く二人。仲睦まじげに微笑みあっている。
 だが、二人が向かい合ったとき、その顔に妙な緊張が走った。
「触れても、いいか?」
と男が訊く。
「当たり前だろ。」
と言いながら、男の髪に触れる女の手が震えていた。
 別れ際の抱擁をするのに、まるでそのまま永遠の別離となってしまうかのごとく緊張感を漂わせた二人。
 キスを交わすでもなく、一瞬の抱擁だけで帰りの車に乗り込んだ。

 もちろん、その車の行き先なんか知らなかったが、そのままお互いの家に帰宅してしまったような気がした。

「なんか僕、それでぴんと来たんだよね。そうなんだろ?」
 眉を上げて迫る美童から、清四郎は片手で頬杖をついて目をそらす。
「僕たち自身の問題ですよ。」
 美童に言われたことを肯定するわけでも否定するわけでもなく、そう憮然としたような表情で返した。
「ね?あの事件を気にしてるの?それであいつが怖がってるの?」
 金色の眉を寄せて美童は追及する。親友たちのことだ、幸福になってくれなくては困る。
「そんな風にお互いに気にしてたらずっと辛いままじゃない。優しく、かつ強引にいっちゃえばいいんだよ。」
 美童は両の拳を握り締めて力説する。魅録はずっと黙ったままだ。心なしか眉根が寄っているような気がする。
 だが美童はその言葉を撤回する気はさらさらない。
 相手が誰だか知らないが、悠理は男に強引に抱かれたことがある。その苦々しい思い出を清四郎が忘れさせてやらなければならないのではないか?
 その愛ですっぽりとくるんで包んで、悠理に忘れさせてやればいいのではないか?
「美童。あなたが思っているのとは別の意味で僕たちにあの事件は影を落としています。それは認めますよ。」
「別の意味?」
 美童は怪訝そうな表情で問い返すが、清四郎はまたグラスを呷るだけで、彼とは目を合わせようとしなかった。
「ほっとけ。美童。俺たちが口を出す問題じゃない。」
 魅録がジョッキの中の、今では随分減ってしまったエールの泡を見つめながら言う。
 それに美童はかっとなった。
「なんだよ、それ。あのときだってお前ら3人だけで解決しやがって。僕らには何も話してくれなかったじゃないか。」
 だん、とテーブルを平手で叩く。マルガリータがゆらゆらと波紋を立てる。
 近くの席の客が何人かこっちを振り向いたようだが、そんなのどうでもよかった。
「別に僕たちが関わってるなんて一言も言ってませんけどね。」
「ごまかすなよ!見てればわかるよ。何年つるんでると思ってるんだ!」
 美童が憤慨する顔は昔からちっとも変わらない。少し頬の丸みが取れて昔のように女性に間違えられるような優美さが消え精悍な男の顔になった美童だったが、本当にこういう表情は変わらない。
 ただ、いつもは春の青空のような、しかし時にすべてを射すくめるような鋭さを持つ青い瞳が、今はぎらぎらと光っていた。
 なんだかんだと倶楽部の連中を一番深く愛しているのは悠理でもなく、野梨子でもなく、ましてや可憐でもなく、この美童なのかもしれない。
「お前らは真相を知っている。それは確かだ。」
「ほお。じゃあ、どのような真相だというんです?」
 黒い瞳をやはりぎらり、と光らせて美童を睨み返す清四郎の発する気は、まさしく武道家のそれだった。
 強い意志の光。何者をも見逃さない、知性の光。何者にも揺るがない、理性の光。
 美童はさすがに清四郎にこの目でにらまれては小さくならざるを得ない。なんとなくその雰囲気に気づいていたというだけなのだから。
 なんとなく、だけで証拠がなければ、この男は納得しない。

「あんまり美童を苛めるなよ。」
 苦笑交じりのアルトの声が聞こえてきて、男たちは飛び上がった。
 美童の後ろには、ここにいるはずのない茶色の髪の女性が立っていた。暗い店内でも目にまぶしい、黄色の虎縞のパンツスーツを着ている。
「悠理?!なんでここに・・・」
 問うたのは彼女の恋人。目の前の金髪男に反撃していた覇気はどこへ行ったのかという風情である。
 それでもさほど狼狽しているように見えないのはさすがと言うべきか。
「たまたま近くまで家の用事で来たんだよ。用事は終わったしお前らがここで飲んでるって聞いてたからさ。」
「今の話をどこから聞いてた?」
 魅録がじっと悠理を見つめる。
「『ごまかすなよ!』から。ったく、何の話してんだよ、お前ら。周り中が聞き耳立ててたぜ?」
「悠理・・・」
 声が掠れている自分の恋人に、悠理は苦笑した。
「お前が苛めちゃ美童が可哀想だろうが。ほら、なんて顔してんだ。帰るぞ。」
 清四郎のターキーはまだ一杯目だ。あとの二人にしたって、飲み始めてからまだ1時間ほどしかたっちゃいない。
 だが、清四郎はその声に応えて立ち上がった。
「ええ、帰りましょうか。すいませんね。悪酔いしてしまったようだから先に帰ります。」
 そう言って二人の同席者に向けた清四郎の笑顔は、他人に見せる外面に似ていた。

「悠理が、清四郎について帰ってほしかったんだな。」
と美童が憮然とした顔で言う。
 いつもの彼女ならここから合流して、一緒に底なしに朝まで飲むはずだった。なのに彼女は帰ってしまった。
 やはりあまり彼女に聞かれてよい話題ではなかった。今のところは。
 だから彼女は一人では帰れなかった。
「いつか、あいつらから話してくれるだろうさ。」
 不意に魅録が呟いた。
 弾かれたように美童は顔を上げて魅録を見る。「何を」とは問い返さない。
「俺は当事者じゃない。それだけしか今は言えない。」
とだけ言うと、魅録はもう気がほとんど抜けてしまったジョッキの残りを飲み干した。
 美童は何も言えなかった。わかってしまったから。



「やっぱ、あいつら忘れてなかったな。」
 車の後部座席で悠理は清四郎に肩を抱かれて、彼の胸に片頬を埋めていた。
 夜景が綺麗だな。とぼんやり窓の外を眺める。
 清四郎はやっぱり「何を」とは問い返さない。
「忘れられるわけないでしょう?あなただって可憐や野梨子が同じような目にあっても忘れられますか?」
「・・・まさか。相手の男を何が何でもぶっ殺してやるよ。」
 悠理の肩に回された指にぴくり、と揺れが走る。彼女はそれに気づかなかった振りをした。
「みんな悠理のことが好きなんですよ。」
「あたいも皆が好きだぞ。」
 それは本当に心からの言葉。
 彼らがかけがえのない相手だからこそ、清四郎との過去を彼らにどうしても話すことが出来なかった。
 彼らがやっぱり彼女を大事に思ってくれていることが判っていたから、話せなかった。
「僕もです。だから、ねえ、悠理。」
 清四郎の声は穏やかだ。この低い声が好きだ。温かく包み込んでくれて、時に苦しいほどにこの心を鷲掴みにするこの声が好きだ。
「ん?」
と悠理は一瞬遅れて清四郎の顔を見上げる。
「皆に話しませんか?話して、皆に裁かれよう。」
 二人とも、表情は変わらなかった。
 ただ、静かに視線を交し合った。
「そうだな。二人して皆に裁かれなくちゃな。」

 罪びとは清四郎のみにあらず。
 罪びとは、二人。
 たくさんの人の心を踏みにじってきた、二人。

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