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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/19 (Thu) 00:42
「Headache」第3回。

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 それは昨日、月曜日の放課後のことだった。美童は野梨子と一緒に本屋へと歩いていた。
 たまたま彼自身が本屋に向かう用事があったのと、野梨子が不穏な空気の幼馴染と帰宅するのを暗に嫌がっている雰囲気だったのと、二つの理由があった。
「あら、美童ちゃんと野梨子ちゃんじゃないの。」
 気まずい沈黙とともに何から話してよいものやら、と思っていた二人に声をかけたのは剣菱百合子夫人だった。
「こんにちは、おばさま。」と野梨子。
「今日もおきれいですね。」と美童。
 百合子夫人は乗っている車のドアを開け、二人に言った。
「いいところで会ったわ。時間があるならちょっとお乗りなさいな。」
 美童と野梨子は一瞬顔を見合わせたが、頷き合うとピンクのリムジンへと乗り込んだ。

「あの子ね、清四郎ちゃんと喧嘩でもしたのかしら?今日は部屋から出てこないらしくて、五代から連絡が入ったのよ。」
 メイドにも顔は見せないが、食事もとっているしドア越しに返事はするから生きてはいるらしい。
「そう心配することもないかと思ったんだけど、ちょうどあなたたちの姿が見えたものだから。」
 悠理が清四郎と喧嘩をするなんて、付き合う前からの日常茶飯事。確かに今更それくらいでは剣菱家の人々もさほど心配はしないのだろう。
 だが以前はじゃれあいという程度のものだったのが、今は本気の罵りあいになっていることに、倶楽部の連中は胸を痛めていた。
「今日は学校にも出てきませんでしたから心配していましたの。悠理が顔を見せてくれるとよろしいんですけれど。」
 野梨子は形の良い眉を寄せた。
 金曜日にも清四郎と悠理は言い争いをしていた。週末に一緒にツーリングに行ったという魅録も「やっぱ元気なかったぜ。」と言っていた。

 野梨子が美童とともに来訪したことを告げると一瞬の間があってから、「いいよ、入って。」と悠理の部屋のドアのロックが解除された。
 百合子夫人は「ゆっくりしてらっしゃい。」とだけ言って、娘のことは娘の友人たちに託した。何か自分の手が必要であれば、娘の賢明な友人たちは迷わず自分を呼ぶであろうから。
 悠理の部屋は、窓もカーテンも閉めきられて薄暗い。美童はそこに篭る空気に、ある臭いを感じ取った。
「昨夜も清四郎と一緒だったんだ?」
 単刀直入に訊きながら、美童は窓辺へと足を向けた。こんなに濃く残る情交後の臭いを野梨子に長く嗅がせていたくない。たとえ彼女がその臭気の意味を知らずとも。
 しゃ、という音とともにカーテンを開ける。
 途端に「ひっ!」という短い叫びが聞こえた。
「野梨子?」
と、振り返った美童は、まず驚愕の浮かぶ野梨子の顔を見、そして彼女の視線の先、悠理を見た。

「悠理・・・それ・・・清四郎が・・・?」
 切れ切れに訊く野梨子に、悠理は表情のない顔で小さく頷いた。

 スウェット姿で露わになっている悠理の首には、くっきりと赤く指の痕が刻まれていた。



 痛い。痛い。痛い。
 煩い。煩い。五月蝿い。

 互いの息遣いが。喉の奥から零れる声が。
 頭を揺さぶる。頭をかき回す。

 だから、それを止めてしまいたかった。

 握り締める。
 白い細い首を絞める。
 指が食い込む。
 抵抗する彼女の手が彼の手を掴む。
 指が食い込む。
 互いの手から混ざり合うこととてできようほどに。

 そして彼自身も息を止める。

 やがて力が抜ける女の手。
 けれど対照的に彼女自身は彼自身を包み込みぎゅうぎゅうと締め上げる。
 首を絞める指に力を籠めるたびに、彼女の体が痛いほどに彼の体を締め上げる。

 瞬間の、無音。

 互いの息遣いの音もなく。
 声もなく。
 水音すらなく。

 清四郎は無限の静寂へとはばたいた。

 手の力はそれとともに抜けていた。
 荒い息遣いとともに彼女の胸へと顔を埋めると、早いが確かに脈打つ鼓動を確かめた。
 頭ががんがんする。
 己の脳髄を揺さぶるのが彼女の鼓動であるのか己の鼓動であるのか、それすらもわからぬ。
 彼女の胸郭が大きく一つ動くのに、また頭が揺さぶられた。

 痛みが、ひかない。吐き気が、こみあげる。

 彼女の胎内からずるりと抜け出ると、白濁した液が流れ出た。
 哀れなるはこれを濁らせている何億もの細胞たち。
 ヒトとなるには不完全な半分だけの核酸を持ち、残り半分を持つたった一つの細胞に向かって泳いでいく。
 たった一つと交じり合うことができるのは何億のうちのたった一つ。
 だけれど彼らが向かう先に、今は片割れは待ってなどいない。
 待ってなど、いない。

 哀れなるは白濁させる、細胞たち。

 頭が、痛い。



 火曜日の生徒会室で、清四郎は悠理の目に燃え盛る怒りをただ見ていた。
 怒るだろう。彼女なら怒るだろう。
 誰よりも激しい魂を持つ彼女なら怒るだろう。
 だから、手放せない。
「僕は、別れるつもりはないんですけどねえ。あの味を知ってしまうとね。」
 口の端を上げる。歪んだ笑み。

 窒息の陶酔。
 それを自慰に用いて命を落とす者も数多い。
 もちろん清四郎は悠理とともに異状死体となって監察医に解剖されるようなへまはしない。
 まあ二人して隣り合った解剖台に並べられるのも悪くはなかろうが。
 コンクリートの床に滴り落ち混ざり合った二人の血液はもろともに排水口の中へと堕ちていくのだろう。

 ぎり、と悠理が唇を噛み締めるのと、部屋の中の空気が動き出すのは同時だった。
「いい加減にしろよ、清四郎。」
 凍りついた空気に斬り込んだのは、美童だった。



 畜生、あのヤロウ!むかつくんだよ!
 悠理は二人が呆気に取られるほど突然に激しく清四郎への怒りを吐き出した。そしてしまいには胡坐をかいたまま抱きしめていたクッションを床に叩きつけ始めた。
 ぼすぼす、と数回叩きつけるとまたぴたりと動きを止める。
 そんな悠理の頭を膝立ちした野梨子がそっと抱きしめた。
「やっと吐き出せましたのね。」
 今、目の前の彼女の姿からは想像もできぬほどに片付いたままの室内。恐らくは野梨子と美童の姿を見るまで半ば呆然としていたに違いない。
「・・・くやっ・・・くやし・・・。」
と呟きながら悠理は野梨子を抱きしめ返した。
「悠理。泣いてもいいんだよ。悔しかったよね、怖かったよね。」
 美童が悠理の髪を撫でた。
 泣き虫の悠理が涙も見せずに憤慨するばかり。だけれど怖くなかったはずはない。好きな男にそんな目に遭わされて哀しくなかったはずがない。
「悠理だってちゃんと女の子なんだから。」
 清四郎に恋をした女の子なんだから。

 違う。あたいはそんな可愛らしいオンナノコなんかじゃない。
 違うよ。
 悠理はそう言いたかったけれど、あんまり美童の声が優しいから、野梨子の体が温かいから。

「泣くもんかあ。」
という言葉と同時に、ぽろり、と熱い雫が頬を滑った。



 悠理をかばうように傍らに立つ美童を清四郎は冷たい瞳で見上げた。
「さっきも言ったでしょう?僕らの問題ですよ。」
 言いながらゆらり、と立ち上がる。
「おまえ、ここのところおかしいぞ?悠理を怯えさせて傷つけて、恋人失格だよ。」
 さすがに清四郎に気圧されて体がやや逃げてはいたが、美童はなおも続けた。
 いくら悠理は普段は性別未確認生物だろうが大事な仲間で、今は清四郎の仕打ちに傷ついている女の子だ。皆で守ってやらねばならない。
「一旦悠理から離れて冷静になれよ。」
 美童の蒼眸がまっすぐ清四郎の黒い瞳を覗きこんだ。冷や汗が美童の首筋を伝った。
「あなたたちが悠理をそそのかしたのですか?」
 清四郎は極めて平静な声で言った。

───別れを切り出すようにそそのかしたのですか?
 僕から離れろと・・・?

 瞬間、魅録は叫んでいた。
「伏せろ、美童!」
 そして魅録よりも清四郎よりも、悠理のほうが体を動かすのは早かった。

 ごっ!

「きゃあ!悠理!?」
「おっとお。」
 美童に決まるはずだった清四郎の右ストレートを悠理が受けていた。吹っ飛んだ彼女の体を素早く反応した魅録が抱きとめた。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、ちゃんと受け流したから大丈夫。美童だったら自慢の顔が壊れるどころか死ぬからな。」
と、悠理は微笑んで清四郎の拳を受け流した腕を振って見せた。骨折はしてないようだが、かなりの内出血にはなるだろう。
 美童はさすがに竦んで大きな目を見開いたまま固まっていた。
「あ・・・」
 清四郎もそう呟いたきり、呆然と悠理と魅録のほうへと目を向けた。すでに二人とも清四郎を激しく睨みつけている。

 ばしっ!

 次に響いた大音響は、可憐が清四郎の頬に強烈な平手を叩き込んだ音だった。
「清四郎!頭を冷やしなさい!」
 言われて、清四郎は真っ赤になった頬を押さえもせず踵を返した。

 痛いのは頬ではなくて、痛むのは胸ではなくて。
 胃のむかつきが、治まらなくて。
 いつの間にか始まっていた痛みは格段に増してきていて。

 彼が振り返る瞬間、悠理は見た。
 清四郎の顔は苦痛に歪んでいた。

「清四郎。病院へお行きなさいな。おじさまからも和子さんからも言われてるのでしょう?」
 突如、野梨子が口を開いた。
 清四郎の足が止まる。悠理たちも「え?」と、テーブルに手をついて立ち上がった野梨子のほうを見る。
「月丸病院、でしたかしら?ここから近いのは。菊正宗病院には専門の科がないのでしょ?」
「ヤブ医者二人の見立て違いです。行く必要はありません。」
 吐き捨てるようにそう言う清四郎の耳に届いたのは、誰よりも愛しい少女の震える声だった。
「なに?清四郎、病気なの?」
 顔を見なくても、彼女が不安げな、泣きそうな表情を浮かべているのはわかった。

 痛い。痛い。
 ずっと己に纏わりついていた、痛み。

 頭が、痛い。

 悠理にそんな顔をさせたいわけじゃない。安心して欲しい。
 だから。
「僕は病気なんかじゃ───」
 極力優しい口調で、と紡ぎだされた彼の言葉が途切れる。
 何事かと全員が再び彼へと目を遣る。

 彼は自分の左手を、凝視していた。

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