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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/03/23 (Mon) 00:31
雪降るイブのプレゼント。
「ふたりのにちじょー」様に投稿した作品。

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「風邪引きますよ。」
 男の声が聞こえたので、悠理は部屋のほうを振り返った。
「酔いを醒ましてたんだ。」
と、その黒い影のほうへ向かって言う。逆光なので彼の表情はいまいち読めない。
 長い付き合いだから、その瞳さえ見えればポーカーフェイスを気取っていても何を考えているかはわかるのに。
「凍死まっしぐらの酔っ払いみたいなこと、言わないでください。そんなに薄着なのに。」
 ようやく男が手の届く範囲まで近づいてきた。彼が着ているのは黒いタキシード。
 上着を脱ぐと、赤いドレスからむき出しの彼女の肩へとかけてくれた。ちょっとごわごわとした表地の感触に、直接肌に触れる裏地の柔らかい感触が温かかった。
 そのとき、ふわり、と白いものが目の端を掠めた。
「うわあ、雪だ。」
「そうですね。」
 きらきらと悠理の瞳が輝くので彼の顔がほっこりと綻ぶ。
「でもやっぱホワイトクリスマスは、無理かな?」
 残念そうに言う彼女の頭を、男の大きな手が撫でた。
「そうですね。東京ではね。」
 そのまま彼の手が彼女の肩を抱いたので、彼女の心臓が一つ大きく跳ねた。
「清四郎?」
 見上げると、黒い優しい瞳が彼女を見下ろしている。
 ゆっくりと彼の口が動く。
「寒いですからね。そろそろ中に入りませんか?」
 悠理は彼の胸に頬を埋めながら、
「もう少し、このままがいいな。」
と甘えてみる。
「僕にまで風邪引かせるつもりですか?」
 呆れたような声で言いながらも、清四郎は強引に部屋のほうへと彼女の肩を押すようなことはしない。
「こうしてればあったかいし。」
「それはそうですね。」
と、清四郎の腕に力が篭った。

 今日はクリスマスイブ。剣菱邸で、いつもより少しばかり堅苦しいクリスマスパーティーが開かれていた。
 剣菱グループの重役とその家族を招いていた。
 有閑倶楽部のメンツも、親族同然だから、ということで招待した。いつものことだ。

「やせ我慢もたいがいにしたら?」
という声が急に聞こえてきて、二人はぎくり、と肩をすくめる。
 振り返るとテラスへと続く窓のところでゴージャスな美女である友人がカクテルグラスを片手にこっちを見ていた。
「いくらなんでもシャツにベストだけじゃ清四郎が風邪引くわよ。悠理は丈夫だから平気だろうけど。」
 水色のドレスでグラマーな肢体を惜しげもなく披露している彼女がくすくすと笑っているので、悠理の顔が熱を持つ。
 だが清四郎は腕の中の彼女の様子に気づいていないのか、素早くいつもの調子に戻って窓辺の悪友へと反論を試みた。
「あなたとしたことが野暮ですね、可憐。悠理の返事をこれから聞かせてもらうところだったのに。」
「あたしだって邪魔する気はなかったけどね、おばさまに呼ばれてるのよ。悠理が。」
 どうせ悠理の好きじゃない類の挨拶に引っ張りまわされるだけなんだろうけど、と可憐は予想はつけていたのだが。
「母ちゃんの言いつけじゃ・・・仕方ないか。」
と、悠理は清四郎から身を離した。母に逆らおうという気概のある人間は少なくとも身の回りにはいない。
 急に寒気に触れた肌がぴりり、とした。

 パーティーがお開きになっても倶楽部のメンツは悠理の部屋に残って飲み続けていた。
 いい感じの酔いだ。
 いつもの通りならこのまま朝まで、酔いつぶれるまで飲みつづけることになるのだろう。
「なんだとう?もいっかい言ってみやがれ!美童!」
と悠理の荒げた声が聞こえる。
「や、だから僕は褒めたんだよう。」
と、金髪の優男はたじたじとなっている。どうせいつものごとく、いらない地雷でも踏んだのだろう。
「どうせ馬子にも衣装とでも言いましたのでしょ?」
 野梨子がやや据わった目でワイングラスを片手に呆れたように言う。今日は珍しく振袖ではなく、白を基調としたドレスだ。
「本当、自称プレーボーイもあたしたち相手にはリップサービスが足りないのよね。」
と可憐も付け加える。以前「可憐のスカートなんか覗いたって嬉しくないよ。」とまで言われたのは忘れていない。
「で?美童はなんて言ったんですか?」
と、小用で中座していた清四郎が彼らの傍にいる魅録に訊ねる。
「『今日“は”綺麗だね』だってさ。」
 魅録はくすくすと腹を抱えている。清四郎はそれを聞いてちょっと眉を上げる。
「おや、珍しいじゃありませんか、悠理がその手のセリフで怒るなんて。」
 可憐ならともかく、と魅録と目配せする。
「違う!逆だ!好きでこんな格好してるわけじゃないのに気持ち悪いってんだ!」
「だから僕は褒めたんだよー。こういう格好の悠理を清四郎だって喜ぶだろ?って。」
 そのセリフを聞いた瞬間、悠理の顔がぽんと音を立てそうな勢いで真っ赤になった。
 清四郎のほうは、というと平然と自分のグラスに手を伸ばした。
「まあ、僕にとっては今日の格好もいいですけど、どんな姿でも悠理は綺麗だし可愛いと思いますよ。」
「ぬ、ぬけぬけとそんなこっぱずかしいセリフを吐くな!清四郎!」
 悠理がぱこん、と清四郎の頭を一つパーで叩いた。

 それは夏から繰り返されている会話だった。倶楽部の皆で旅行をして、その旅先で例によって事件に巻き込まれた。
 いつものように皆で力をあわせて解決したところまでは特に問題はなかった。
 だが、清四郎は気づいたのだ。悠理の明るさに、力強さに、素直さに恋をしていることに。そして彼女の弱いところを守ってやりたいと思っている自分に。
 そしてそれに気づくや否や、彼はすぐに行動を開始した。
 最初の告白は夏休みの宿題を手伝ってやっていた悠理の部屋。
 その後はとにかく倶楽部の連中がいようがおかまいなしに(さすがに一般生徒の前や家族の前ではひかえたが)、彼女に告白を繰り返している彼である。
 悠理のほうは返事をすることもできず、これまで逃げ続けていた。

「聞いてないぞ。あたいは聞いてないからな。」
 そう言って耳を塞いで逃げ回った。
 色よい返事どころか、ろくに告白すら聞きもしないで逃げるのだ。
 彼女にしてみれば青天の霹靂。急に倶楽部の男どもをかような対象として見ろと言われて「はい、そうですか」などというわけには絶対に行かない。

 他の連中も初めこそ呆気にとられていたものの、すぐに二人の追いかけっこを楽しむようになったのは言うまでもない。
 あまりに清四郎が強引に迫りすぎて悠理が怯えたときには女性陣が立ちはだかると言った場面もあったが・・・。

「あーあ、みんな寝ちまったな。」
 気がつくと起きているのは悠理一人だった。男三人が床で雑魚寝している。
 悠理はもう部屋着に着替えていた。可憐と野梨子がつぶれる寸前に彼女を連行して化粧を落とし、ドレスから着替えさせたのだ。彼女らはそのまま別の客室で寝てしまった。
 その間も男連中は飲み続けていたのだから、着替えるという動作で少し酔いが醒めた悠理と対照的に彼らが先につぶれてしまうわけである。
 悠理はそっと窓辺に寄ると、カーテンの端をちょっとつまんで外を見る。
 まだ雪は降り続けている。ベランダの床にうっすらと白い化粧が振りまかれている。
 そして、庭木を飾るイルミネーションが降る雪に反射していた。
「えへ。」
と嬉しくなった悠理は、そばにあったひざ掛け毛布をショール代わりに羽織ると皆を起こさないように注意しながら窓を開け、ベランダへと足を踏み出した。
 ひやり、とした空気にますます酔いなどどこかへ飛んでいく。なるべく音を立てないように、なるべく素早く、窓を開け閉めした。
 深夜2時の剣菱邸は、さすがに静かだった。
「冬の、匂いだなあ。」
 清涼で、凛としていて、鼻の奥をつんと指す。だけれどどこまでも透明で透明で、どことなく儚い、冬の匂い。
「雪がシャワーみたいだし。」
と彼女は空に向かって腕を伸ばし、あーんと口を開けた。
「ったく。風邪引きますよって言ったでしょ?」
 その声に驚いて振り向くと、いつの間にか清四郎が毛布をマントのように羽織って佇んでいた。さっきみたいに。
 憎らしいことに、音もさせずに窓を開けて出てきたようだ。もうきっちりと彼の背後で窓は閉まっている。
「だって・・・綺麗なんだもん。」
と悠理はごにょごにょと呟いた。
「確かに、綺麗ですね。」
と言いながら清四郎は目の前の愛しい人の前髪についた雪を指ではらってやる。
 長い睫毛にも雪が張り付いて、体温で溶けた。
「まるで泣いてるみたいだ。」
と言うと、睫毛の雫をそっと唇で掬った。悠理は身じろぎもせず、それを受け入れてくれた。
「別に、泣いてなんかなかったけどな。」
 清四郎が少し身を離すとまっすぐに彼の顔を見上げた。清四郎はふ、と口を綻ばせる。
「そのようですね。でも、寒いでしょ。」
と言うなり、彼は羽織った毛布ごと悠理を包みこむように抱きこんだ。
 やっぱり悠理は逃げない。いっぱいに広がった清四郎の匂いを感じながらおとなしくしている。
「こら、あたいは寒くなかったぞ。」
と口だけは反論しながら。
「僕が寒いんです。さっきは可憐に言われたみたいにやせ我慢してたんですから。」
 ますますぎゅっと抱きしめられた。
 その温もりに悠理の心もますます温まってきた。だから、口から出た。
「可憐がさ、『やせ我慢』って言ってたのはあたいのことだよ。」
「?どういう意味ですか?」
 さすがに男は首をかしげているのだろう。悠理が寒さに強いのは知っている。あの時だって清四郎に抱きしめられていたのだ、寒かったということはあるまい。
「だから・・・その・・・」
と言いよどんで、悠理は清四郎のシャツをきゅっと掴む。
「お前にクリスマスプレゼント・・・あるんだ・・・」
「プレゼント?」
 倶楽部のメンバーでいつも適当にシャッフルするプレゼント交換はしている。今年もそのプレゼントはすでに交換した。
 残念ながら悠理のプレゼントは清四郎ではなく野梨子のもとへ行ってしまったのだが、清四郎のプレゼントはしっかり悠理のところへと渡った。
「別に用意してくれたんですか?」
「あ・・・いや・・・その・・・モノじゃないんだ。」
 蚊の鳴くような声で呟かれて、清四郎は目を見張る。まさか。
「やっと返事を聞かせてくれるってことですか?」
 耳元で言われて、悠理はそこから全身に熱が伝わっていくのを感じた。
「うん・・・」

 返事は───



「清四郎の奴、最高のクリスマスプレゼントもらってんじゃねえか。」
 先ほどの悠理のプレゼントがはずれて落ち込む清四郎の様子を思い出しながら魅録がほくそえむ。
「ほんと、悠理も今までよくやせ我慢してきたもんよ。」
と、いつの間にやらこの部屋の窓辺まで来ていた可憐が言う。
「でも悠理が本当に綺麗になったよね。清四郎にあれだけアプローチされりゃ当然か。」
 美童が含み笑いをする。
「いいクリスマスになりましたわね。」
 野梨子が微笑んだ。

 そして、4人で小さな声で「メリークリスマス。」と親指を立てあったのだった。

(2004.12.18)
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