2015/03/04 (Wed) 23:28
その代理の体育教師は筋肉バカだった。そう思われていた。
聖プレジデント学園高等部の体育教師の一人が不慮の事故で入院し、彼はやってきた。
やってきてまずやったことは、男子の体育の準備運動で筋トレを導入したことだった。
腹筋50回と、腕立て伏せ50回である。
ほとんどのお坊ちゃん連中はそのノルマを果たすことなどできず、彼への不満は高まる一方だったと言っていい。
だが、ある日を境に彼の仕事が大いに評価された。主に女子生徒に。
その女子一般生徒はたまたま授業中の体育館のそばを通りかかっただけだった。
そして彼女は体育館の入り口で失神してしまう。
なぜならそこではかの有名な生徒会長と副会長のクラスが合同体育をしていたのだ。
かの人は黒髪で涼しげな顔で静かに腕立て伏せをしていた。
他の生徒たちとは違い、明らかに軽やかに淡々とそのノルマを果たしている。
長袖を着てはいるものの、その下で腕の動きに合わせて盛り上がる筋肉が見えるようだった。
白皙の頬は全く揺らぐことなく、冷ややかな眼差しはじいっと己の身体の下を見ている。
ほんの少し落ちかかった前髪が額にさらりと揺れている。
地面に近づく。地面から離れる。
近づく。離れる。近づく。離れる。
無言のまま、息を少しも乱さぬところが憎らしい。
ただ、さすがに額にうっすら汗が滲んではいるようだ。
加えて、彼の隣でもピンク頭の青年が淡々と上下運動を繰り返している。
その光景に魅入られた少女は、失神した。鼻血を噴きながら。
「なんだかこのところ体育の時間に妙に視線を感じるんですけど」
「なあ、なんだろな、あの視線」
生徒会室できょとんとする二人に、可憐は言い出すことができない。
その時間に「気分が悪くなった」と言って教室を抜け出す学生が増えていることを。
一部の女生徒が、二人の姿をスケッチして同人誌の挿絵にしていることを。
そして一部の男子生徒までもが、体育教師に「グッジョブ!」コールを送っていることを。
清四郎と魅録には、腕立て伏せとポルノ小説の因果関係などわかっていないらしい。
(2007.2.4)
(2007.9.20サイト再録)
(2007.9.20サイト再録)
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