2015/03/06 (Fri) 22:26
夜明けだった。撩はじっとりとした寝汗とともに目を覚ました。ふと手を見ると情けないことにかすかに震えている。
夢を見た。ずっと触れることさえできなかった女を抱いている夢だった。
白い肌の手触りがまだこの手に残っている気がした。
無垢な肌の滑らかさがこの舌に残っている気がした。
「悪夢よりたちが悪いぜ。」
と、撩は一人ごちた。
とうに想いは通じ合っていた。あの小さな白い花にかけて、想いを確かめ合っていた。それでも臆病な男と、臆病な女ではじれったいほどにゆっくりとしか歩み寄ることができなかった。
やっとの想いで唇を触れ合わせた。
やっとの想いで肩を抱き寄せた。
だから、こんな夢を見るのだろう。
早く乗り越えたい垣根を乗り越えてしまった夢を見るのだろう。
トッキョキョカキョク、という鳥の声が聞こえた気がして、撩はベッドに寝転んだまま枕もとの窓の外を見上げた。
窓の外では、うっすら明るくなり始めた空に有明の月が傾いて顔を見せていた。
すべて見透かすような、気恥ずかしいまでに無表情な月だった。
「気分は夜這い帰り、だな。」
と、撩は額に浮かんだ汗をぬぐった。
如(ゆ)きて帰れぬ恋の路。
一歩進みて戻る路すら許されぬ。
不如帰。ゆきてかえらず。
白い小さな花の「永遠にあなたのもの」という花言葉が頭をよぎった。
ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
(2004.1.3)(2004.8.12加筆修正)
(2004.11.5公開)
(2004.11.5公開)
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