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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/17 (Tue) 23:44

「緋色の罪」エピローグ。


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───あたいを抱いて。抱きしめて。



 聞こえる。優しい老人の声。

 人を伴侶に望むことは、その人と体を交えること。
 そうして人は我らの仲間になる。
 けれど悠理。忘れてはいけないよ。
 人間と我々の血は相容れることはない。
 吸血鬼になった人間は飢えに極端に弱くなるし、我々と人との間に子供はできない。
 生まれついての吸血鬼同士の間にしか吸血鬼の子供は生まれぬ。
 けれど伴侶にしたからにはその吸血鬼はその者を伴侶として愛し続け、もはや他の者を望みはしないだろう。

 そして我々は滅びへの道を辿るのだよ。




「皮肉、ですわね。」
 月を見上げて少女が言う。吸血鬼一族の掟。
「人を愛することが滅びへと繋がるなんて・・・。」
 だから禁じられているのだと、200年前「仲間になりたい」と言った彼女に金色の髪の男が教え諭した。
 けれど、彼女の決意は変わらなかった。
「僕は、野梨子を愛したことを後悔したことはないよ。一度もね。」
 彼女が見上げると、金色の瞳が柔らかく細められていた。
 彼女もにっこりと微笑みかける。
「私も、悠理を愛したことを後悔はしてませんわ。こうしてここにいることも。」
「悠理のことも清四郎のことも憎んでないの?」
 その言葉に、野梨子の笑みが一瞬曇る。
 けれど静かに彼女は首を横に振った。その瞳はどこまでも穏やかだった。
「悠理はきっと知っていましたの。私が悠理のためと言うだけで、好きでもない男性に抱かれる女ではないということを。」

 だからきっと、悠理は美童に嫉妬していた。
 だからきっと、悠理は私を抱きながら、喩えようもない孤独に苛まれていた。
 だからきっと、私は美童に近づくことができなかった。

 本当はずっともう一度美童に触れたかったのに。

 それは彼女の罪。

「私ったら嫌な女ですわね。」
 つい口をついて出る。
 悠理への愛は真実。だけどこの人のことも欲しかった自分はなんと欲張りなのだろう。
 清四郎を殺すことで悠理に憎まれることも怖くなかった。
 美童の金色の瞳がいつも彼女を包んでいてくれたから、怖くなかった。
 そして悠理の中に自分をより深く刻みつけたかった。
 考えていたらふわり、と優しく抱きしめられた。
「自分で自分を嫌な女と言う人は、本当はそれを悔やんで直そうとしている人なんだよ。」
 温かな抱擁。やっぱりこの人は優しい。
 この200年、いつだってこの金色に私は慈しまれ守られてきた。
「愛してますわ。美童。」
 彼への初めての言葉を口に載せる。
 少し震えた顎を掬い上げられ、唇が重ねられた。
「僕も愛してるよ。野梨子。」
 美童は200年の時を経て、やっと彼の花嫁を得た。

 ずっとずっと彼女を見つめていた。
 愛しくてやまない従妹がこよなく愛している恋人だと知っていたのに。
 穢れを知らぬ従妹を醜い感情で苦しませて。

 そして彼女は彼の愛を後ろ盾に罪へと足を踏み出した。

 それは彼の罪。

 長い長い口付けの後、二人はくす、と笑いあう。
「夜明け前にはあの二人、迎えに行ってやらなくちゃね。」
「ですわね。いくら悠理が力持ちでも半月の眠りに入った清四郎を担ぐのはきっと無理ですわ。」

 人が吸血鬼の仲間になる方法は一つ。
 異性の吸血鬼と体を交えること。
 そして半月の間、人は仮死状態へと陥り、目覚めたときには吸血鬼となっている。

「あいつ重そうだよな。筋肉質だし。」
「あら、私のせいで寝込んでいる間に一回り小さくなりましたわよ。」
 悪戯っぽく笑った野梨子に、美童は肩をすくめて見せた。



 夜明けまであと一刻以上ある。
 もちろん朝まで起きて待っているつもりだった女は、かすかな物音にドアのほうへと目を向けた。
 遠慮がちなノックに「はい」と答えて入室を許す。
「思ったより早かったのね。夜が明けると思ってたわ。」
 入ってきた桃色の髪の男に微笑み、己の腰掛けるカウチの方へと招く。
 男は招かれるままにどっかりと女の隣に座り、女の肩へ頭をもたせ掛ける。
 女はその男の頭を抱き寄せ、己の膝へとおろしてやる。
 男は手で己の顔を覆っているが、女はそれをどかそうとはしなかった。
「清四郎は、行ったのね。」
───行かせてやったのね?
「ああ。」
───あいつには、もうそれしか見えてなかったから。

 あの二人が、出会ってしまったから。

 女の手がそっと男の髪を撫ぜる。
「馬鹿ね。泣いてもいいのよ。あたしは明日、あんたの花嫁になるんだから。」
 朝には実家に戻り一番の晴れ着に着替え、またここへと向かう。
 そしてここで二人の人生を歩み始めるのだ。
 だから、あたしの前では、泣いてもいいのよ。
「誰が泣くか。」
 男がやっと手をどけて彼女の顔を見上げた。
 じっと見つめあう。
 耳に痛いほどの未明の静けさが二人を包む。
 男の手が目の前に下りてきた彼女の髪に触れる。
「お前は俺の傍にいろ。どこへも、行くな。」
「行かないわ。あたしがあんたに着いていくから。」
 静かに言う彼女の髪を彼はぐいと引く。
「他の男のところになんか、二度と行かせないからな。」
 唇が触れる寸前、彼女は艶やかに微笑んだ。
「その言葉を待ってたのよ。」

 きっと二人の婚姻を見届ける司祭は驚くに違いない。
 彼女の純潔がその夜まで守られているなんて、きっと二人の親たちだって信じてないに違いない。
 けれどそのことは、この男と、そして神様だけが知っていればいい。



 王都に朝が来る。
 庶民たちの朝は早い。もう都の門の前には近隣の農民たちが野菜や肉を市場へ売りに行くために列を成している。
 石造りの街は日が低いうちにはまだ寒さを漂わせているけれど、すぐに人の熱気で暖まるのだろう。

 闇の中で起きた出来事など微塵も感じさせず、日の光はすべてを覆うのだろう。

 国境へと向かう森の中を行く街道も朝日に照らされる。
 そこをはずれて向かう小道のその先に何があるのかなんて、街道を行くほとんどの人たちは知らない。
 昼なお暗い森の奥の忘れ去られた館で眠る者たちのことなど、誰も知らない。
 森の生き物たちだけが、森の木々が、草だけが、彼らの眠りを静かに見守る。

 窓辺には白い薔薇が一輪、日差しを浴びて綻んでいる。



 ただ緋色の罪の真実は、闇だけが知っている。
(2004.12.7~2005.11.20)
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