2015/02/18 (Wed) 00:16
いつだって恋をするのが好きだった。
だって恋は女を美しく輝かせる栄養素だったから。
だけど、今度の恋は違った。
「ヤキが回ったわよ・・・ね。」
可憐がぽつり、と頬杖をついて言うのを、悠理が聞きとがめた。
「なんか言ったか?」
「なんでもないわよ。」
どうせ、あんたには関係ない話。
週末に無理やり引っ張って来られたスキー旅行。
可憐は彼女が大好きな柔らかいピンクのスキーウエアを着て、ロッジの外にはそれよりも少し濃いピンクの板と黄色のストックが立てかけてあった。
スキーがあまり好きではない野梨子は、今日は稽古事の日舞のほうでお弟子さんたちとの集まりがあるから、と断っていた。
野梨子は実家の茶道のみならず、日舞でもすでに名取として弟子を指導しているらしい。
なら腰はしっかりしてるからスキーはうまいはずだよね、と北国育ちの美童は首をかしげていた。
トイレを済ませるついでに可憐と一緒に熱いコーヒーを一杯だけ飲んだ悠理は、また外で華麗な滑りを披露し続けている男どものところへと帰っていった。
ちょっと羨ましい、と思う。
可憐の体力では彼らにどこまでもついていくなんてできないのだから。
前はこんなこと思わなかった。
男から守られて当然だと、そう思っていた。
でも今の彼女は、あの人の隣で同じものを見たいと思うことがある。
「結局、無理なんだけど、さ。」
可憐が得意なもの。
社交的な会話。
女の媚態。
そして何より料理を作ること。
だから、彼女は最後には決まって開き直る。
彼が帰ってくる場所、安らげる場所になれればよいのだ、と。
結局、それが一番大事なこと。
それってあいつの人生のパートナーになりたいってことなのかしら?
可憐は少し頬を染める。
まだこの恋を打ち明けてすらいない。
あいつはあたしを友人の一人にしか思っていない。
なのに、一人で先走っちゃってさ。
「ちょっと悔しい、かな。」
でも、恋に落ちるのは、あまりに簡単。
「なんか最近さ、可憐が雰囲気やーらかくならなかったか?あんまし男の話もしなくなったし。」
滑り降りてきた男三人に合流しながら悠理が言った。
すると彼らは互いに顔を見合わせて、くすり、と笑って頷きあった。
一人だけ、うっすらと頬を染めて───
(2004.12.30)
(2005.2.6サイト公開)
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