2015/02/18 (Wed) 00:21
「悠理?」
男が気遣わしげに彼女を呼ぶから、彼女ははっと我に返った。
そっと彼が指の背で彼女の頬を撫でる。
その指を雫が濡らすのを見て、初めて彼女は自分が涙を流していたことを知った。
悠理はきゅっと唇を噛み締めると、笑もうとした。張り付いたような笑みになっていないか、それだけが心配だった。
こんな、こんなはずじゃなかったのに、な。
「なんだか最近、悠理が情緒不安定じゃありません?」
放課後の部室。野梨子が悠理の様子を眉をひそめながら見ている。
「そうねえ。なんとなく見当はつくけどね。」
可憐は訳知り顔で頬杖をついている。
二人は瞬間、目を見合わせると、同時に席を立った。
「悠理、うちの近くに美味しいカフェが出来たから連れてってあげるわよ。」
ずずっとバナナセーキを飲む。なんとなく懐かしいような甘い香。
悠理は向かいに座る親友たちに促されて口を開いた。
なんか、さ。別に辛いわけじゃないんだ。
怖いとか寂しいとかとも違って、でも胸が痛くて。
急に走り出したくなるような、なんかに焦るみたいな。
でもあいつの顔を見たら、痛いところが温かくなるんだ。
ほっこり温かくて、甘くて、なのに痛くて。
・・・泣くつもりなんか、ないのにさ。
変だよな。あたいらしくないよな。
それを聞いて可憐と野梨子は目を見合わせる。
なんとまあ、食欲と睡眠欲しか持ちえてないようなこの友人が、こんな感情を持つ日が来るなんて、ね。
「その気持ちの名前、教えてあげましょうか?悠理。」
可憐がにこやかに言う。
相手があいつだって言うならとことん応援してやるわよ。
可憐が見るところ、相手の男はまだ悠理の気持ちに気づいてない。
「恋、ですわね。」
野梨子も口元を綻ばせながら、答えを与えた。
こんな可愛らしい悠理の背中を押さずにいられようか。
「恋?あたいが?」
悠理が頬を真っ赤にしてぽかん、と口を開けた。
やっぱり自覚してなかったらしい。
「その、訳もなく涙が出たりするのも恋のせい?」
「悠理。“愛”という字に“しい”と送り仮名を振ったらどのように読むかご存知?」
唐突に野梨子が訊ねる。
「えと・・・“あいしい”?」
首をかしげながら言う悠理に、可憐ががくっとテーブルに突っ伏する。
「“いとしい”でしょ!」
とツッコミを入れる。
「そうですわね。“いとしい”。でもね、昔は“かなしい”とも読みましたのよ。」
恋をすると涙が出るのは、悲しいからじゃない。愛しいから。
いとしい、かなしい、コイゴコロ。
きっと、ね。
恋はやさしくて、たのしくて、かなしくて・・・あったかい。
女たちはそれぞれの恋を思い、微笑んだ。
(2005.1.6)
(2006.2.6サイト公開)
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