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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 15:37
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2015/02/19 (Thu) 00:47
「Headache」最終回。

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「本当にあっという間に退院できるものなのね。」
 可憐が目をくりくりさせて感心する。
 野梨子も清四郎が昼食後の薬を服用するための白湯を準備しながら「まったくですわ。」と同意する。

 幸いにも清四郎の腫瘍は術前診断の通り、良性の髄膜腫だった(悪性腫瘍が潜んでいる場合があり、摘出標本を検査するまでは確定しないのである)。
 術後1週間の木曜日に彼は退院し、翌日の金曜日である今日、初登校していた。
 昼休みの生徒会室。魅録いわく、調理実習後、調理室で他の班の女子にまで捕まって試食させられているという悠理はまだ現れていなかった。
 あまりに相変わらずの彼女に、清四郎は微笑ましく思う。
 朝、彼がもとのように幼馴染とともに登校してきた姿を見て一瞬だけ顔を輝かせてくれた。
 今はそれだけで、十分。

 だから、あの約束を果たさなければ。

 可憐と美童はファッション誌を覗き込んであーだこーだと意見を交わしている。
 魅録は食後の一服をふかしながら、バイクのプラモデルの部品をぱちんぱちんと骨組みから切り離している。
 野梨子は卓上囲碁セットを前に囲碁の指導書を見ていた。
「皆さんにお願いがあるのですが。」
 口を開いた清四郎に、野梨子は本を見つめたままで、
「なんですの?」
と答えた。皆もそれまでの動きをぴたりと止める。
「放課後に悠理と話をさせてください。」
 あの悠理にとっては悪夢に等しかったであろう夜以来、彼は彼女と二人きりにはなっていなかった。
 菊正宗家の人々や仲間たちが彼女を心配して二人きりにさせないのは当然だろう。
 だから彼女からの制裁も皆の前で受けてみせよう。
「あったりまえでしょ!悠理からどんな仕返し受けるか怯えてなさいな。」
 可憐が口を尖らせた。
 野梨子は黙して何も言わない。彼女独特の同意の姿勢だ。
 魅録もうんうん、と黙って頷き、美童は眉を上げて肩をすくめた。



 清四郎が少し遅れて生徒会室にやってくると、すでに皆がそこにそろっていた。もちろん悠理もテーブルセットの自分の定位置に陣取っていた。
「お待たせしましたね。」
と、鞄を置く。
「いや、今来たところだし。」
と、悠理は答えた。
 そして空けられていた彼女の隣の椅子に腰掛けた清四郎のおろされた前髪に触れた。
「前髪おろしてんだな。」
「傷が生え際に近かったのでね。いつもの髪型だと見えてしまうんです。」
 すでに抜糸は済み絆創膏のみの状態なのだが、傷の周囲は少しばかり剃毛されていた。前髪をおろせば隠れてしまうほどの範囲ではあった。
 別に己の外見を美童のように気にしているわけでもないが、見るものを驚かせてしまうことは避けたかった。
 そしてそれを見て悠理が優しい心を痛めるだろうことも。
「なんか懐かしいな。この髪型。」
 中学生の頃まで彼は前髪をこうしておろしていた。年相応に若返ったみたいだ。
 悠理はふと口元をほころばせた。
 もう、何も知らなかったあの頃に戻るなんてできないのに、ね。
「帰って、きたんだな。」
 じんわり、と目元が熱くなる。帰ってきてくれた。
 清四郎は彼女の潤んだ瞳を覗き込んだまま、口を開いた。
「約束しましたから。あなたからの罰を受けると。」
 ほんの少しだけ、その声は掠れていた。
「さあ、言ってください。僕は貴女のために何をすればいいんですか?」
 静かだった。心は静かだった。凶暴な想いはすべて病とともに取り去られていた。

 悠理はじいっと清四郎のオニキスの瞳を見つめていた。
 そして、判決を下す。
「ずっとあたいを見てろ。」
 え?と清四郎は眉を上げた。
「あたいがお前の手なんか借りなくたって幸せになるのを、ずっと見てろ。」
「考えようによってはすごく残酷な罰ですね。」
 清四郎は眉根を下げながらきゅっと唇を引き締める。
 こうなってはもう彼女に触れる権利など彼にはなかろう。他の男と幸せになる姿を逃げずに見据える。それは彼には当然の罰だろう。
「友人として貴女の幸せをずっと見ます。見届けますよ。」
 さっきよりもずっとしっかりとした声だった。友人でいることを許されるだけで僥倖だ、そう思いながら。
 しかし悠理は首をわずかに横に振った。
「違う。一番近くで見てろって、そう言ってるんだ。」
「悠理?」
 今度こそ清四郎は信じられないものを聞いたようにぽかんと口を開いた。
 一番近くで?
 悠理は睨むように清四郎を見据えていた。以前だったら絶対にありえなかったことだが、清四郎はすっかり悠理の気迫に呑まれていた。
「でも悠理、それは・・・」
「だってお前、あたいが抱きしめたら頭痛いの治ったじゃんか。」
 しまいにはそれも効かなくなっていたけれど、でも初めは確かに彼女の手に癒されていたのだ。
 そして悠理は忘れない。あの嵐のようだった午後、苦痛にゆがめられた清四郎の顔。
 もうあんな顔は見たくない。
「お前の頭が痛んだらまたあたしが治してやる。そんで病院まで引きずってくかんな。」
 悠理は両手で清四郎の頭を守るように触れる。清四郎は少し俯きながら悠理の手に己の手を添えた。
「馬鹿ですね。もうあんな頭痛はしませんよ。」
「再発するかもなんだろ?」
「9割は再発せずに経過しますよ。」
 再発したところで再び症状を起こすほど大きくならないこともある。その場合は無治療で経過観察となる。
「それでも、だ。ぐだぐだ言うな。あたいのめーれーに従うんだろ?」
 言い合いが面倒になったのか、悠理が強引に結論付けた。
 清四郎はぷ、と吹き出した。
「はい。確かにそう言いましたよ。」
 そして二人は視線を絡めあい、くすくすと笑いあった。

 こほん、と咳払いが聞こえてきたので、二人はそちらへと顔を向ける。
 するとそこでは顔を赤らめた仲間たちが複雑な表情を浮かべていて、彼らの存在を忘れていたことに改めて気づいた。
「本当にそれでよろしいのですわね、悠理。」
 野梨子は苦虫を噛み潰したような顔をしている。可憐もそれは同様だ。
「女は強い、だね。」
 美童は苦笑している。
「至言だな。」
 同意する魅録はそっぽを向いてしまっていた。
 清四郎と悠理はもう一度顔を見合わせ、同時に頬を染めた。
 それから悠理は「あちゃー」という感じで皆に背を向けてしまったので、清四郎が皆のほうへと顔を向ける。
「本当に今回の件ではお騒がせしました。すみませんでした。」
と、さすがにしどろもどろにはならずにさらりと言う。が、頬が赤いままなのでおよそ以前の冷静沈着を絵に描いたような彼らしくはなかった。
「ぶ。」
と最初に吹いたのは美童。
 続いて魅録もくっくっく、と肩を震わせ始めた。
 可憐と野梨子も肩をすくめてくすり、と溜息混じりに口を歪めた。



 悠理の心からの笑みが戻るのももうすぐ。
 清四郎の自信に満ちた笑みが戻るのにもそう時間はかからぬだろう。



 もう痛まない、痛くない。
 彼女の手があれば、癒される。
 願わくば彼の手が彼女にとっても癒し手でありますように。
 二度と彼女を傷つけるための手となりませんように。

 清四郎はその想いを骨まで刻み付けるように、じっと己の手を見つめた。
(2006.3.11)
(2006.3.12公開)
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