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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/19 (Thu) 23:59
「純愛エクスタシー」後編。

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「悠理?どうしただか?顔色サ悪いだよ。」
 心配そうな万作の声が聞こえた。
「ああ、ごめん、とうちゃん。せっかくとうちゃんの友達紹介してくれるってのに。」
 悠理はすまなさそうに父親に苦笑してみせる。
 万作の隣には、彼の友人と言うにはかなり若い男が立っていた。兄・豊作と同じくらいの年頃だろうか。
「主治医を呼ぶだか?清四郎君に来てもらうだか?」
「やだな、大袈裟だよ。とうちゃん。ちょっと漫画読みすぎで寝不足なだけ。寝たら治るって。」
 手をひらひらさせて応接室から辞そうと、ドアを開けた。

 実際のところ体調不良などではない。
 気分が悪いだけだ。
 あの男のことを思い出して、おかしな気分になっているだけだ。
 あの男の、あの瞳を。

「悠理さん、またそのうちお会いしたいものですね。」
 客から声をかけられたので、悠理は振り返った。
 彼はたぶん、かなり女性から好かれるほうなのだろう。
 やや地味ながら整った顔。180センチはありそうな体躯。きっちりと着こなしたダークカラーのスーツ。
 その彼はじっと悠理を見ていた。オスの目で。

 さっと悠理の顔が青ざめた。
 さすがに万作もその様子に驚く。
 だがそこに声をかけたのは廊下を歩いていた別の男だった。
「悠理?」
「清四郎!」

 万作と客の男は見た。
 続けざまに今度は血色が異様によくなる悠理の顔を。

 悠理の手が伸ばされる。
 清四郎のシャツの袖にすがりつく。
「せーしろー・・・きもちわるい・・・」
 悠理は顔を伏せてしまった。
 清四郎は彼女に手を掴まれているのとは逆の手でぽんぽんと力づけるようにタップした。
「ちょっと話があって来たんですけど、お客さんでした?」
 そうして彼は応接間の中を見た。
「ちょうどいいところサ来てくれただよ、清四郎君。悠理を部屋に連れて行ってほしいだがや。」
 万作はそう言って溜息を一つつくと、目顔で清四郎を促した。
 清四郎は万作の隣に立つ客の男に一瞥くれると、「失礼します。」と言って悠理の肩をそっと抱いた。



「珍しいですね。悠理が気分悪いだなんて。」
 悠理の部屋に入り彼女をベッドに腰掛けさせると、清四郎はその前にかがみこんで彼女の顔を覗こうとした。
「・・・まえ・・・せ・・・」
「え?」
 彼女が呟いた声が聞き取れずに聞き返したところで、急に顔を上げた彼女に胸倉を掴まれた。
「お前のせいだ!清四郎!」
 悠理の目がゆらゆらと揺れている。頬を少し赤らめているところなど、まるで見覚えがある彼女の表情ではない。
「お前のこと思い出してて、だからいつもの顔が出来なくて、あんな奴に変な目で見られた!」
 清四郎は、ああ、と思った。
 悠理は文句なく美人だ。
 だが、その性格や態度でいつもは美少年の如く見られている。
 だから彼女は男性からオスの目で見られることに慣れていない。
 普段彼女をそんな目で見ている男など・・・
「すみませんね。僕もずっとお前をそうやって苦しめてましたよね。」
と言って、清四郎は悠理の瞳を覗きこんだ。そっと頬に触れる。
 しかし悠理はふるふる、と首を横に振る。
「悠理?」
「お前だったら気持ちいいくらいなのに、他の奴だと気持ち悪い。」
 彼女の目には今にも零れそうに涙が溜まっている。
 清四郎は驚いた。
「僕は・・・いいんですか?」
 だが悠理はそれには応えず、ぎゅっと引き締めた唇を震わせると、清四郎の胸に顔を埋めた。

「お前じゃなきゃ・・・ヤみたいだ。」

 蚊の鳴くような声で呟かれた。
 耳まで真っ赤になっているのが見える。
 清四郎は思わず悠理を抱きしめる。

 しばらく無言でそうしていたが、彼女が彼の胸を押して体を離そうとしたので清四郎は名残惜しくはあったが腕の力を緩めた。
 悠理はまだ上気したままの顔で清四郎を見上げると、
「隣、座れよ。」
と促した。
 清四郎もその言葉に従う。
「お前がさ、あたいに触れなくなったときに、別にあたいはなんとも思ってなかったはずなんだ。」
 ぽつん、と悠理が語りだす。

 言葉を何か交わしたわけじゃなかった。
 婚約解消とともに、それまでのような触れ合いも自然となくなってしまった。それだけだった。
 その他はだって、何も変わっていなかったのだから。

「僕もね、あんな妙な関係を続けるのは悠理のためにならないって思ったんですよ。」
 恋人でもなく、ただの友人。
 なのに、誰よりも深く、誰よりも密に、二人は肌を合わせていた。
「最後の一線を越えるのは、いつか悠理が本当の恋をした時のために、絶対にしてはいけないことだと思っていましたしね。」
 決して越えなかった一線。
 清四郎は一度も彼女の中へと押し入ることはなかった。
「ん。それはわかってた。」
 悠理は再び俯いた。
「だけど、お前を見つめることはやめられなかった。それがどうしてなのか、僕は否応なく気づかされた。」
 清四郎はそこで、ふうーっと長い溜息をついた。
「そしてとうとう美童と魅録に怒られてしまいましたよ。“悠理を視線で犯すのはやめろ”って。」
 隣で悠理の体がびくりと震えるのがわかる。
 そっとそちらに目をやると、悠理がおずおずとこちらを見上げていた。
「あの二人も、気づいてたんだ?」
「二人“も”?」
 清四郎は目を見開く。
「今日あのあとさ、可憐と野梨子にも問い詰められた。」


「清四郎と何があったの?」
 そう言って悠理を見つめる二人の目は、彼女をとても心配していた。


「男性陣にはともかく、女性陣には嫌われてしまいますかね。」
 清四郎はさすがに目元を染めると、悠理から目をそらして顔を前に向けた。悠理の趣味なのか、奇妙に歪んだ形の花瓶が見るともなしに目に飛び込んでくる。
 僕たちの関係みたいだ、と思う。
「なんで?二人とも怒ってなんかなかったぞ?」
 悠理は首をかしげる。
「どんな風に説明したんですか?」
 とても清四郎は彼女のほうを向くことが出来ない。
「清四郎に見られるのは嫌なことじゃなくって、逃げ出したいのに、怖いのに、だけどそういう目で見られたいって思うのはなんでだろ、って、そう言った。」


「それって発情してるだけなのかな?」
 彼との肌の記憶がそう思わせてるだけなのか?ただあんな風に快楽を再び与えられたいだけなのか?
 悠理は本気でわからなくなっていた。
 可憐にも野梨子にも詳しい経過は話さなかったが、その悠理の表情でほんの少しは悟ったようだ。二人とも頬を赤く染めて顔を見合わせている。
「その・・・私はよくわかりませんけれど、清四郎に見つめられたい、ってことですのよね?」
「清四郎にだけなの?」
 口々に訊き、そして二人は見た。途方にくれたような悠理の瞳。
「どうなんだろ?でも、他の男にあんな目で見られるなんて想像しただけで気持ち悪いとは思う。」
「それが魅録でも美童でも?」
 その可憐の言葉に悠理は凍りついた。
「・・・ぶん殴る!」
 低い声でうめく悠理に、野梨子は溜息をついた。
「それがその、発情、しているだけにしろ、ちゃんと恋をしているにしろ、相手は清四郎だけということなのでしょう?」
 言いにくそうに、だがはっきりと野梨子は言い切った。
「・・・恋?」
「かどうかはわかんないってことよ。あとは自分の胸に聞きなさい。」
 可憐も溜息をついていた。


「これが恋かそうじゃないかなんて、あたいにはよくわかんないや。」
 悠理はこてん、と清四郎の肩に額を寄せる。
 清四郎は相変わらず身じろぎもせず前を見ている。
「恋だったら嬉しいですね。」
 彼女がただ快楽だけを求めて自分と肌を合わせていた。そう思うのは辛かった。
「せーしろ・・・」
「僕はお前の体が欲しいとは思う。だけどそれ以上に、心が欲しいんです。」
 悠理は再び清四郎の袖をきゅっと掴んだ。燃えるようにその体が火照っているのが清四郎の腕に伝わってきた。

「悠理。僕はお前に恋をしてたようです。」

 ゆっくりと、清四郎が振り返った。
 悠理ものろのろと顔を上げた。
 黒い瞳が悠理を見つめる。
 温かくて、熱くて、鋭くて、優しい瞳。

 悠理は、口元がやんわり綻んでくるのを止めることができなかった。
「うれ・・・しい・・・のか?あたい?」
「僕にはわかりませんよ。でもなんですか?その顔は。」
「え?顔?」
「こんな可愛い顔、反則です。」
 清四郎はそっと悠理の頬に触れた。ぴくり、と悠理の肩に力が入る。
「キス・・・してもいいか?」
 そっと彼が囁く。
 悠理は黙って瞳を閉じた。



「しかし気づかなかったよねー。」
 美童が頬杖をついていた。
「あいつらがなあ・・・」
 魅録は感慨深げに溜息をついた。
「あれを恋と言わずしてなんて言うのよ。」
 可憐は呆れたように言う。
「でも清四郎ったら、悠理に何をしてましたのかしら?」
 野梨子が頬を染めて眉をしかめた。
「何?やきもち?」
と美童が眉を上げるので、野梨子はふるふると首を振った。
「ちょっと悠理がかわいそうだっただけですわ。」
 その憤慨まじりの表情に、残りの三人は肩をすくめて顔を見合わせた。
「もちろん、二人が幸せならそれでいいんですのよ。」
 友人の恋の成就を後押しして、松竹梅邸に集まった四人だった。
 少し和らいだ顔の野梨子に、三人もほっとしたような笑みを向けた。



 悠理に口付けながら清四郎は眩暈がするほどの幸福に胸を締め付けられていた。
 彼女にはもっと大胆なことだって仕掛けていたし、されていた。
 なのに今はこれだけで精一杯だった。
 ただ触れ合うだけの唇が、すべてだった。
 悠理も同じなのか、一生懸命彼の服を握り締めて耐えているようだった。

 それは目もくらむほどのエクスタシー。
 純愛がもたらす、最上の快楽。

 まだ未熟な想いに振り回される二人が次の一歩を踏み出すのは、もう少し先となる。
(2004.11.20)(2004.11.27中編加筆)
(2004.11.28公開)
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