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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 15:02
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2015/02/02 (Mon) 23:47
「雨と油」後編。前編はこちら

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 清四郎のほうでもかなり緊張していた。
 悠理に気持ちを言葉で伝えたかったが、いざとなると言葉が出てこなかった。
 だから彼のいつもの鋭さは鈍っていたと見える。

 ん?と清四郎は気配に気づいた。
 しまった、もうドアのすぐ外だ、と思ったときにはドアノブが回っていた。

「ここか?悠理。お前あんましサボってると・・・」
と、ノックもなしに言いながら入ってきたのは、悠理と同じクラスである、そして清四郎と同じく世代交代のために失職中の前生徒会副会長だった。
「あ・・・」
 数瞬の間、彼ら三人は無言で見詰め合った。
 ピンク頭の侵入者は見る間に真っ赤になると、
「失礼!」
と叫んで廊下へと踵を返そうとした。
「わ、ちょ、ちょっと待った。待てっ、行くな、魅録!」
と悠理があわてて呼び止めた。

「えと、驚きすぎててどういうリアクションをとっていいかわかんねえんだけど、俺。」
 呼び止められて魅録は困りはてた。
 とにかく意外な人物同士の意外な行動を目撃してしまったのである。好奇心だとか悪戯心だとか湧いてくる以前に、思考回路が停止してしまった。
「あ、えと、だから・・・」
 悠理もパニックになってつい呼び止めてしまったが、何をどうしてよいやらわからず黙り込んでしまう。
 清四郎はとりあえず現状は把握できた。完全に冷静に戻れたとは言いがたいが、まず抱擁の体制だけは解いて悠理も自分も体が魅録の方を向くようにした。
 そしてこほん、と軽く咳払いをすると、
「ともかく、その椅子にどうぞ、魅録。こうなったらお話しましょう。」
と、魅録に椅子に座るように勧めた。
 魅録が呆けたように、それでもドアを閉めてから部屋の片隅にあった古い椅子に座ると、きし、と軽くきしむ音がした。
「で?いつからなんだ?」
 座るという行動で少し衝撃から立ち直ったのか魅録から話を促してきた。
「ていうかまだ付き合い始めてません。」
 すっきりきっぱり言った清四郎に魅録はまた驚いた。
「ちょい待て!付き合いもしないうちにお前・・・」
 魅録は、その言葉が清四郎が悠理を玩んでいるという意味に聞こえた。
 何しろ清四郎は前科持ちである。剣菱に目がくらんで悠理と婚約して破談になった過去がある。
 またこいつは、とカッとなる魅録の反応が、清四郎には手に取るようにわかった。
「誤解しないでください。いま魅録が入ってこなかったらそこまで話が進んでいたはずですから。」
 その清四郎のある種、赤裸々な告白に魅録も、当事者である悠理も顔といわず首から耳まで真っ赤になってしまった。
「わりい、やっぱ俺お邪魔だったな。」
 俯いて頭を掻く魅録はやはり今にも立ち上がって出て行きそうだ。
「まあ、この状況はお互いに不幸な事故だったということで気にしていませんよ。」
「そうか?」
「悠理も気にしていないから呼び止めたんですよね。」
 急に話を振られた悠理は相変わらず頬を染めたままでびくっとしたが、しかし魅録がお邪魔じゃなかったといわれて素直に頷くことはできなかった。せっかく清四郎からの行動にいい気分だったところなのに。
 とはいえ、呼び止めたのが自分だというのも事実だ。
 いや、何よりここで魅録を野放しにしたら連中に何を言われるかわからん。
「と、とりあえずあいつらにはまだ黙っててくれよ。」
と真っ赤な顔で魅録を上目遣いで睨むように見つめた。
「こんな面白いネタを黙ってろと言うのか?黙って置けると思うのか?お前は。」
と思わず魅録はがばっと顔を上げて本音をこぼしてしまった。
「いいトコロで邪魔した挙句にそれか?!それでも親友かよ!?」
 悠理が拳を握り締め、立ち上がって怒鳴る。
 邪魔と言われると魅録はぎくっとする。悪気はなかったんだ、むしろ悠理の出席日数を心配してやったんだろうが、と心の中で反論する。
 実際口に出しては、
「しかしなあ、あいつらも親友だろ。隠し事されたら怒るぞ。」
としどろもどろに言う。
「魅録。」
と、清四郎が静かに言った。空気がぴんとはりつめる。
「見ての通り、僕たちはまだ発展途上です。時期が来たら必ず彼らにも話します。だから少しの間だけ黙って見ていてくれませんか?」
 真剣なまなざしの親友のセリフに抗える魅録ではなかった。
 いいトコロを邪魔したペナルティも受けねばなるまい。
「わあかったよ、わかった。ただし貸し一つつけさせてもらうぜ。」
「望むところですよ。」
 にんまり笑う清四郎の笑顔はいつもの通りの勝気な笑みに近かった。

 しかしなあ、本当にこの水と油みたいに性質の違う二人がねえ。
 ていうかそれ以前に清四郎って恋愛できたんだなあ。

「さ、そろそろ午後の授業が始まりますよ。悠理もせっかく勉強に興味が出てきてめきめき効果が上がってるんだから出席するんですよ。」
「わあったよ。」

 そういや最近、悠理の小テストの点数がうなぎ上りだったな。と魅録は思い出す。
 今は受験前。ほとんどのクラスメイトが内部入試で聖プレジデント大にエスカレーターで進学するとはいえ、高校の教科書はすでに終わって日々の授業は小テストや自習がほとんどである。
 その毎日点数が明確につきつけられる状況で、悠理の成績は上がってきていた。
 特に英語と国語の成績が上がった悠理は倶楽部の連中に驚くことを告げた。

「ええ?悠理が国際交流学科を受けるですって?」
 自分と同じ学科を受けることにしたと言った悠理に可憐は驚きの声を上げた。
 英語が苦手な可憐だから、かなり受験勉強は四苦八苦していた。私立文系の国際学科。ほとんどの人間が英検2級以上を当たり前に持っている。すでに留学資格試験の受験準備を始めている者も多い。
 内部入試だから外部からと比べてボーダーラインが低く設定してあるとはいえ、可憐は夏休みから野梨子や美童に英語の猛特訓を受けていたのだ。
 だから、夏休み前まではずっと赤点できていた悠理がいつの間にか自分にほんの少し及ばないレベルまで英語ができるようになっていたことにショックを隠しきれなかった。
「運動能力が高い方はその気になったら学問でも化け物じみた学習能力を見せると言いますわ。悔しいことに。」
と野梨子が慰めてくれたが、彼女も悠理の躍進にひどく驚いているのだった。
「清四郎の教え方がよっぽどいいんだね。」
と美童が感心する。音楽もやる悠理のことだから、文法よりも会話の音から入れば吸収はいいんだろうな、と思う。大学に入ったら他の言語も教えてみようか、と少し楽しみになった。
「えへへ。急に興味が出てきたんだよ。将来かあちゃんがやってるみたくして豊作にいちゃんの仕事も手伝えるようになるかなって。」
と照れたように言う悠理の姿が印象的だった。

 それは一昨日の会話だった。

「ああ、そうか。清四郎が剣菱を負担に思わないために頑張ってるんだな。」
と清四郎と別れて自分たちのクラスまでつかの間二人きりになったときに魅録は呟いた。
 悠理はしっかり聞こえていたようで、
「うるさい。約束守れよ。」
と頬を赤らめて言った。

 俺もその気持ちはわかるからな。と魅録は口に出さずに思う。

 魅録は結局防衛大に願書は出さなかった。
 しっかりしてるようで危なっかしい、目が離せない奴ができたから。
 結局人から与えられる幸せよりも自分で幸せを作らないと満足できないくせに、それを認めないあいつ。
 玉の輿とか言いながら、ロマンチックな恋愛を夢見ている実は恋愛下手なあいつ。
 母親を誰より大事にしているあいつ。

 もともと防衛大にどうしても行きたいというわけじゃなかった。好きな機械いじりさえできれば幸せだった。
 大学出てから親父みたいに刑事を目指してもいいさ。
 でも防衛大に入っちまったら全寮制だ。滅多に外泊や外出はできない。卒業してからも自衛隊員としてあちこちに飛ばされるだろう。
 彼女のそばにいたいからだけでもないけど、やっぱりそれも大きな理由だ。

 魅録は聖プレジデントからほど近いところにある理科系の大学の理工学部を受験することにした。

「お前も清四郎も志望通りに受かるといいな。」
と魅録は教室の入り口で悠理の頭を撫でた。
「おう!」
と悠理は元気に応えた。

 さっきのしおらしさはどこへやら。
 魅録は悠理の女らしいところを初めて見たのが夢のように思えた。

「なあ、こうなった経緯をあいつらに話す前に俺に話してくれよ。」
と口に出したのはさっきのことが夢ではなかったと確認したかったからだ。
「バーカ。誰が話すか。」
と舌を出す悠理は結局いつもとかわりなくやんちゃな少年のようだった。
「そんなこと言うとバラすぞ、てめえ。」
「しょんな~、おゆるしください、魅録さま~。」

 窓の外では雨が小降りになっていた。
 明日には油の匂いも飛んでいってしまっているだろう。
(2004.7.8)
(2004.10.5公開)
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