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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 15:02
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2015/02/02 (Mon) 23:15
あの出来事から3日後の二人。この胸の高鳴りは何だろう?

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 表面上は変わらない。
 月曜日、門の前で「ありがと、名輪。いってきます。」といつものように運転手にお礼を言ってから車を降りた。
 そういうところ愛されて育ったいい子なのだと、彼女を知る人は思う。

 校舎に向かって走り出した彼女は、前を行く幼馴染を発見した。
 つきん、と痛みを感じたがそれも一瞬のことで、いつもの笑顔を作るといつもの大声で呼びかけた。
「おはよー。お二人さん。」
 セミロングの黒髪の小柄な少女と、背の高いオールバックの黒髪の男が振り返る。
 日本人形のような美しさをたたえた少女が先に微笑んで返した。
「おはようございます、悠理。」
 そして男のほうも小憎らしいほどに普段と変わらない笑顔を向けると、横に並ぶ少女とまったく同じ挨拶を返してよこした。

「おはようございます、悠理。」

 そのあとはやっぱりいつもどおりだった。
「おはようございますわ、悠理さま。」
「今日もお天気でよろしゅうございましたね、悠理さま。」
と女生徒たちの声がこだました。
 だから彼女もいつものように笑って叫んだ。
「おはよー。みんな。ホントにいい天気だね。」

 野梨子は、そんな悠理を見ながらほっとしたように微笑む清四郎の様子に気づくことはなかった。





 清四郎は、以前から気に入って読んでいたSFシリーズの1年ぶりの最新刊に読みふけっていた。
 彼にしては珍しく水曜日、午後の授業をサボって生徒会室にいるのだった。

 まだ晴天が続いている。
 清四郎は生徒会室の窓辺に椅子を二つ置き、足を上げて本を読んでいた。背中の後ろにはふかふかのクッション。足元に少し暑いくらいの日差しが当たる。
 ちょうどこの時刻の太陽の位置では本のあたりには直射日光は当たらず、目の疲れを感じることもない。頭寒足熱そのままだ。
 そろそろ秋の気配が聞こえてくるちょうどよい気候のこの時期に晴天が続くのは珍しいことで嬉しい。
 晴天に喜んでツーリングだドライブだの計画を立てる誰かさんの顔が思い浮かんできて笑えた。

 そういやこれも珍しいな。と清四郎は手に持つ本から思考が脱線した。
 あの悠理が何事もなかったかのように振舞っている。
 嘘も隠し事も苦手な単純鳥頭が本当に妙なそぶりも見せずに過ごせるのか、日曜日の清四郎は一人になってから不安になったものである。
 別に自分がその場限りの女とホテルに入ろうとして未遂に終わったというネタが皆にばれてからかわれるのは不本意には違いないが覚悟はできていた。
 まあ相手が不倫の相手というのはどうにかごまかせようと思っていたし、何よりあのとき限りで何の後ろぐらい事実も生じることなく終わった女である。
 しかし問題は悠理だ。
 可哀想なことをしたと思う。
 怖がらせて怯えさせて、彼女から逃げるように仕向けてしまった。
 連中にばれて自分が怒られるだけならまだしも、彼女がからかわれるようなことになったらもっと可哀想なことになってしまう。

 まあ、こんなふうに男から思われること自体に抵抗感を覚えるんでしょうけどね。悠理の場合は。

 しかし自分とホテルであんなきわどいことをしたというのに、悠理は憎らしいくらい学校での振る舞いが変わらなかった。
 いつものように大笑いをし。授業で居眠り。
 暇さえあれば体を動かし。
 昼には女の子たちから貢がれた弁当をぺろりと平らげ。
 放課後はこの部屋でおやつを貪り食いながら、「ねーねー、なんか面白い遊びない?」と騒ぎ。
 ついついあの出来事が夢だったんじゃないかと思えてくるほどだった。
 それこそがあの出来事で彼女が一番変わったところなのかもしれないな。

 そう思い当たって自嘲したときに、ドアが開いた。
「あれ?サボりか?清四郎。珍しいな。」
 その声は、今まさに清四郎が思いを馳せていた少女のものだった。
 そこにも彼女の心の揺らぎなどを感じ取ることはできなかった。
「ええ。ついつい最新刊に夢中になってしまいましてね。悠理こそ6限サボりですか?」
と時計を見ながら言う。本日最後の授業があっているはずの時間だ。
「いんにゃ、自習になったの。」
「自習課題は何も渡されなかったんですか?」
「あったよ。プリントが。でも全部選択問題だったから適当に埋めてきた。」
 一応全部埋めたのはえらいと思うが、悠理のことだ、設問をつゆほども読みはしなかったのだろう。
 たとえば全部の問題が4択だったとする。その場合、全く意図せずにランダムに答えを選んでいけばどうなるか?最低25%は正解するはずである。
 悠理はすべてが選択肢を選ぶだけの問題だったら、設問を読むことはしない。その法則をうかつにも清四郎が教えてしまったからだ。
 しかし彼女の場合はそれで天罰が下ったとでも言おうか、純粋に何も考えずに選んでいるはずなのに10%しか正解しないのだった。
 出題者による巧みな選択肢の偏りというより、わざと不正解を選んでいるとしか思えない。
 ちなみにすべて同じ選択肢にすることはご法度で、そのような不埒には0点の制裁が下される。
「魅録は?まだ真面目に解いてるんですか?」
 副会長の魅録は悠理と同じクラスだ。
 彼は目にも鮮やかなピンクに髪を染めていて、この良家の子女が集う学校にあってまるで気にせず構内でタバコを吸い、暴走族や裏の世界にも通じている。
 悠理とは喧嘩場で仲良くなったというくらい彼女と同類の人間である。
 しかし警視総監である彼の父親の教育の賜物か、彼は真面目である。真摯な人付き合いをする男だし、裏表のない性格で人間的な魅力を備えている。
 勉強にしても悠理と違って普通にこなしている。理数系は清四郎とて時に敵わない。
「いや、あいつもさっさと解き終わってた。バイクの調子が悪いからって修理しに行ったよ。」
 彼の場合は悠理と違ってきちんと考えて解いたんでしょうけどね。と清四郎は思ったが口には出さなかった。

 悠理はテーブルの上に鞄を置くと、次にどう動こうかと一瞬考えた。
 清四郎がいたのが計算外だった。
 やはりいつもどおりに振舞えていると思ってはいても(それを証拠に有閑倶楽部の他の連中には全く怪しまれていない)、清四郎のことが気にならないわけではなかった。
 それに彼がいなければ窓辺で心地よく昼寝ができるはずだった。

 どきどきと動悸がする。
 でもあの日の胸が痛いほどに感じたものとは違う。
 う~、こんな顔してちゃ皆にばれちまうじゃないか~。

 清四郎は幸い本に夢中で悠理の顔は最初にちらりと見ただけでもう目にも入っていない。

 悠理はじっと見つめてはいけない、と思いつつ清四郎に目が吸い寄せられる。
 男性らしい鋭い骨格。
 端正な切れ長の瞳。
 さすが10代の取り柄かすべすべした肌。
 薄い唇は意外と柔らかかった。

 悠理は自分があの日の出来事を思い出していたことに気づきはっとすると、逆にずんずんと清四郎が頬杖をつく窓辺のほうへと近づいていった。

「悠理?」
 彼女が椅子の傍らの床に座り込んだのを、清四郎は目の端で捕らえた。
 ちょうど清四郎の膝くらいのあたり。
 こちらに背を向けているのでその顔は見えない。

 彼女はどきどきして怖かった。
 でもそれ以上に彼の傍に近寄りたい自分もいた。
 先日のことで体が恐怖しているはずなのに。

「悠理。寝るなら仮眠室に行きなさい。そっちのほうが落ち着くでしょう?」
「ん~ん。ここのがひだまりで落ち着くから。」

 怖いのに近づきたい。
 怖いといっても幽霊やテストが怖いというのとは違う怖さ。
 この男が悪巧みをして自分にいたずらを仕掛けてくるときとも違う。
 ましてや大事な仲間が傷つきそうになって恐怖するときともまた違う。

 だから、この距離。
 だから、この向き。

「椅子とクッション譲りましょうか?昼寝したいんでしょう?」
と清四郎が言う声音の優しさにあの日と同じように涙がこぼれそうだ。
 変なあたい。と悠理は膝を抱え込んだ。
「ううん。ここでいい。」
 ミニメディアで音楽でも聴いてるんですかね?と清四郎は思ったが、どうやら違うようだ。悠理の耳にイヤホンはついてない。
 まあ、いいか。と清四郎は意識を自分の手の中の文庫本に移した。
 さっきから思考が脱線しっぱなしだったからどこまで読んでいたか一瞬見失っていたがすぐに見つけた。

 しばらくすると、やはりというか、彼女の規則正しい寝息が聞こえてきた。
 器用に先ほどと同じ姿勢のまま床に座り、膝に顔を埋めて眠っていた。
 膝にうずめていなくても清四郎の目からは彼女の顔は見えない。
 ただあの日口付けた彼女の白いうなじが見えるばかりだった。

 清四郎はだが、あの日のように胸苦しい居心地の悪さは感じなかった。
 いまそこに流れるのはむしろ居心地の良い気だるい空気だった。

 ふわり、と悠理の髪を撫でた。
 柔らかい茶色の髪が、ふわり、とお返しのように清四郎の掌を撫でた。








 かちゃり、と音を立ててドアが開いた。
「なにやってんのよ、あんたたち。」
という声は、ウエーブヘアーを今日もなびかせた泣き黒子のある女のものだった。
 その声で意識が現実に戻ってきた清四郎は、自分がいつのまにか本を腿の上に乗せて眠っていたことに気づいた。
「ああ、可憐ですか。もう授業終わったんですか?」
と清四郎が言い終わらぬうちにチャイムが鳴り響いた。可憐のクラスは早めに終わったものらしい。
 ふ、と左手を持ち上げて腕時計で時間を確かめようとした清四郎は、その手が感じていたぬくもりが離れることでどこに手を置いていたか思い出した。
「ん・・・」
とだけつぶやいてなおも傍らの彼女は眠っている。
「いつの間にか寝てたんですね。サボって本を読んでたら悠理が来て昼寝しだしたんでつられてしまったみたいです。」
「あんたが授業サボるって珍しいわね。」
「悠理にも言われましたよ。」
と清四郎は椅子の上で体を起こしながら目の前の悠理を苦笑とともに見つめた。
「しかし床に座って寝ちゃうなんて本当にだらしないんだから。仮眠室で寝ればいいのに。」
「日差しがちょうどよかったそうですよ。」
「それにしてもこんな格好で中が見えちゃうじゃない。」
 悠理にも女らしくしろとそういう方面でお節介を焼くのは少女趣味な悠理の母を除けば主に可憐の仕事である。
 玉の輿願望の強い彼女は実のところかなりの世話焼きさんなのだった。
「でも今日はちゃんとスカートの裾を抱え込んでますね。」
 可憐に言われて悠理を観察した清四郎は言った。
 スカートの後ろがわの裾を膝下に腕で抱え込んでいるのでスカートの中は正面に回っても見えない。
「あら、そういえば。やっと女の子の自覚が出てきたのかしらね。」
 偶然にしろなんにしろ、自分が日ごろ言っていることを聞いてくれたかしら?と可憐は少し嬉しくなった。

「よお、参ったぜ、ちくしょー。」
と言いながら魅録が入ってくる。
「大変だったね、魅録。」
と美童が続く。
「清四郎、結局サボりましたのね。」
 最後に入ってきた野梨子にそう言われて清四郎はテーブルのほうへと足を向けた。
「ほら、悠理。起きなさい。もう放課後よ。」
と可憐にゆすられて目を覚ました悠理は皆がそろっていることに気づいて、
「よー。おはよー。」
とはにかむように微笑んだ。

 やっぱりここが一番居心地がいい「ひだまり」だな、と悠理は思った。

 その日、悠理に女を自覚させたのは自分ですと白状するわけにもいかず、もんもんとした想いをポーカーフェイスで必死で隠す清四郎君の姿がありましたとさ。
(2004.7.3)(2004.8.20加筆修正)
(2004.8.22公開)
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