2015/03/04 (Wed) 23:39
ぴちょん、と水滴が一滴垂れた。
石造りの地下室。こんな部屋がこの学園の地下に隠されているなんて、知らなかった。
きっと理事長すら知らないはずだ。
いつもは鍵が閉まっているドアの一つをウエーブヘアーの女友達が硬い顔をして開けて入るように促したとき、彼はこの部屋の空気を敏感に感じ取ったに違いない。
ここに流れる臭いに気づいたに違いない。
だが、彼は甘んじてその階段を下りた。
後ろでドアが閉められ、地下室から漏れてくるほの暗い灯りだけを頼りに彼は下りていった。
そこで彼を待っていたのは、黒い皮製の衣装をつけた彼の幼馴染だった。黒い髪と黒い瞳。すらりとかなり丈の短いその衣装から伸びた脚は網タイツに包まれ、その網目に覗く白い肌がなまめかしかった。
「なかなか扇情的な格好ですね。」
彼は少し口をゆがめて言う。
今からここで行われる儀式がなんなのか、正確に理解しているのだ。
「ええ。お仕置きならこういう衣装でするものなのですって。」
おおかた、あの金髪男あたりの入れ知恵だろう。
ご丁寧に頭にも黒いレースの飾りをつけた彼女の姿はゴスロリ調のボンテージスタイル。
紅を塗らずとも赤い唇が白い肌に浮き上がって見えた。
彼女の表情は真剣そのものだ。
「なぜご自分がお仕置きされるのかわかってるのでしょう?清四郎。」
「ええ。わかってますよ。」
男は静かに目を閉じた。
ぴしり、と背中に熱が走る。
か弱く身体能力も大して高くない彼女なので、黒革の短い鞭を使用する。長い鞭を使うなど彼女自身が傷つく可能性が高い。
男は体を固定されていた。
着ていたシャツはすでにぼろぼろになり、用を果たさなかった。逞しい胸筋が覗いている。
首と両足首に鉄の輪を嵌められ、それらはすべて互いに鉄の棒で繋がっていた。その三点が固定される道具なのだった。
棒の途中に少しの空間があり、そこに手首も拘束される。中世の拷問道具である。
男の頭には豚の頭を模った鉄の面が被せられている。これがまたかなり重く、首につけられた輪がその重みで肩に食い込んだ。
石畳の床面に黒い蝶ネクタイが無様に落ちていた。
ぴしり、とまた背中に熱が走った。
はなからその回数を数える気もない。数える資格などありはしない。
「どうですの?体が動かないままに痛めつけられる気分は。」
「・・・最悪ですね。」
だが面の中の彼の表情は存外穏やかなのだろうと彼女は思う。
彼女は眉根をそっと寄せて微笑した。ここに他の人間がいたら、その彼女の悲しすぎる表情に息を呑んだことであろう。
「そうでしょうね。でも悠理はもっと痛かったんですのよ?」
男は一瞬の逡巡もなく、その言葉に答えた。
「もちろん、わかってますよ。」
だから、こうしているのですよ。
あなたのお仕置きを受け入れたのですよ。
大事な大事な私たちのあの娘をこの男はひどく傷つけた。
大事な大事なあの娘の代わりに、この少女は男を打つ。
大事な大事なあの娘のために、この男は少女に打たれる。
男は面で覆われていた。
だから、自分を打つのは大事な大事なあの娘だと思えた。
自分が傷つけたあの娘だと思えた。
「あう・・・悠理・・・」
と男は囁いてびくり、と体を震わせた。実際は固定されていたせいで小さな動きではあったけれど。
少女はその男の声に、男の劣情を嗅ぎ取った。
こうして自分に鞭打たれながら、男が心に描いているのは、私たちの大事な大事なあの娘だった。
男の想像の中で、彼女はもう一度穢された。
「まだ、まだですわ。これで終わりだなんてつまりませんわよ。清四郎。」
少女は鞭を下ろして、男の鎖骨をそっとなぞった。
口元に微笑にも似た表情が浮かぶ。
「私たちの悠理を傷つけたのに、これだけで終わるなんて思わないでくださいましね。」
ぴちょん、と水滴が一滴垂れた。
(2004.8.28)
(2004.11.11サイト公開)
(2004.11.11サイト公開)
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