2015/03/22 (Sun) 23:46
ふ、と瞼が動いて開いた。
あれ?ここどこ?
見覚えのない暗い部屋。
まだ夜中なのかな?ぼーっとするなあ。
時計どこだろ・・・
悠理は体を動かそうとして、自分が何か温かいものに包まれていることに気づいた。
「え?」
悠理は右を向いて寝ている。背中から妙に温かいものに包まれている。
手?
誰かの右腕に腕枕をされてその手が悠理の首の前を通って彼女の左肩に触れている。
その誰かの左腕は悠理の腰をしっかりと抱えているようだった。
「な、だ、だれ、なんで・・・」
背中から誰かに抱きしめられていると気づいてパニックになった。
必死でその腕を解くと目にも留まらぬ速さで、彼を後ろへと突き飛ばした。
「うわ!」
と言うその声は、彼女がよく知っている人物のものだった。
「な、なんで清四郎!?」
と、半身起き上がって目を見開いて後ろを振り返った。
そこでは清四郎が無様にベッドの下に落ちてきょとん、とした顔で起き上がるところだった。
「おや、僕も寝ちゃってたみたいですね。」
「寝ちゃってたみたいじゃない!なんでこんなんなってんだよ!」
「しい、悠理。まだ3時です。周りの部屋に迷惑だから静かにしてください。」
と清四郎は憎たらしいくらい冷静に腕時計を見ている。
その言葉で悠理はここがホテルなのだと気づく。
必死で記憶をたどろうとするのだが、上野原と酒を飲み始めたところまでしか思い出せない。
「おい、上野原はどうしたんだよ?」
「あなたに不埒をしようとしたのでお引取り願いました。」
清四郎の即答に、悠理は首をかしげた。不埒?
「わかってないと思いますけど、あなた彼に睡眠薬を飲まされたんですよ。」
「睡眠薬?!何のために?」
その彼女のあまりにも危険を認識していない言葉に、彼は頭を抱えたくなった。
「あなたねえ、自分がどれだけ犯罪の標的にされやすい人間か忘れてませんか?」
「ん?誘拐とか物取りとか?」
いつものことならそんなもんか。
あいつ、あたいを誘拐しようとしたってことか?
「女性とわざわざ二人きりになってから酒に睡眠薬を入れる男の魂胆は一つです。」
そう言われてもやっぱり悠理には理解できていないみたいだ。
疑問符を背後に山のようにちらつかせている。
「わかりませんか?」
と、清四郎は彼女が座り込んでいるベッドの端に膝をかけてずいっと彼女の正面に座る。
彼女はそれを避けようともしない。納得がいかないといった顔で彼の顔を見ている。
「またあたいを馬鹿にしてるか?」
「実際馬鹿でしょ?」
彼の目は存外に真剣だ。
「だいたい、だからってなんでお前があたいを抱きしめて眠ってたかの言い訳にはなってないぞ。」
彼女はごまかされないぞ、という目で彼をにらみ返す。
たぶん皺にならないようにだろう、自分も彼もスーツの上着を脱いでいる。タンクトップから出た肩に彼のシャツの感触が残っている。
シーツでもかけときゃ済むのにまるで山奥で遭難したみたいに!
「だから、あなたは馬鹿だと言うんです。」
「なんだと?!」
と彼女は文句を繋ごうとした。午前3時の近所迷惑など頭から吹き飛んだ。
だが、彼女は怒鳴り声を上げることは出来なかった。
清四郎の唇が、彼女の唇をふさいでいたのだった。
悠理はただ頭が真っ白になっていた。
なので、抵抗することを忘れてしまった。
その間にも、口付けは深くなっていった。
息継ぎをしようとした彼女の唇の隙間から情熱的な柔らかいものが忍び込んでくる。
彼の舌が彼女の舌を捕らえようとしていた。
「ん・・・ん~~~~~!」
その感触で我に返って彼女は彼の胸を押し返そうとしたが、とうてい敵うものではなかった。
彼の左腕が彼女の腰をしっかりと掴まえていた。
そして彼の右手は彼女の頬を撫で、首筋を撫で、鎖骨のラインを指でなぞった。
「ん・・・」
ぞくり、とした感覚に思わず甘い声が出た自分に気づき、彼女は呆然とした。
そんな彼女の唇を解放して、彼は彼女の耳元へと唇をずらした。
「あの男はあなたを眠らせて、意識のないあなたにこれ以上のことをするつもりだったんですよ。」
低くて抑揚のない声だった。
悠理の背筋を凍らせるには充分すぎる声音と内容だった。
「あ、あたいなんかをそんな・・・」
「財産目当てですよ。そのために近づいてるって気づかなかったんですか?」
言いながらも清四郎の右手は悠理の鎖骨をなぞり続ける。
悠理がその手を押しとどめようとすると、逆に手を握られた。
「本当に、馬鹿で、無防備なんだから。」
左腕の力を少し緩めて身を引く。彼女の顔を覗き込む彼の瞳は温かかった。
むしろ、熱かった。
悪口を言ってる割に優しい瞳なのに、その光は悠理の体を熱くするものだった。
こんな男友達の姿を、彼女は初めて見た。
「あんまり無防備だから、僕まで誘惑されてしまったじゃないですか。」
悠理は困惑を覚えずにいられない。自慢じゃないが、今まで男からそんな対象に見られたことはないのだ。
ましてや、この男は自他共に認める冷血漢で、情緒障害者で。女のことをどことなく見下しているところがあった。
「あ、あたいは誘惑したつもりはないぞ。」
「無意識が一番タチが悪いんですよ。」
と清四郎の唇が再度彼女のそれを覆った。
ずるい、と思う。
無意識に誘惑?それはこっちのセリフだ。
今のお前、むちゃくちゃ色っぽいぞ。
悠理はぼーっとする頭でそんなことを考えたが、悔しいので口には出さず、清四郎にされるがままになっていた。
「本当に、お前から目が離せない。」
そう言って清四郎の唇が首筋へと流れていった。彼女は優しくベッドに横たえられた。
清四郎の手がタンクトップの裾から侵入してくる。
素肌に触れる男の手が心地よい。
ぷつん、と背中のほうで下着のホックがはずされる。
大きな手が、悠理の胸を這った。
タンクトップは首までずり上げられていた。清四郎の唇は、タンクトップを通り越して、彼女の胸へと飛んだ。
あつい。あつい。あつい。
「あ・・・・」
声が出る。我慢できない。
腹の下のほうがむずむずする。
するり、と上半身裸にされる。
あつい。清四郎の体があつい。
あたいの体があつい。
「せーしろ・・・」
呼ばれて悠理の顔を見上げた清四郎の髪が乱れていた。
いつもきっちりと固められている前髪がばらばらと落ちてきていた。
「綺麗だ・・・悠理。」
彼はうっとりとした目でそう言うと、再び唇を重ね合わせてきた。
悠理は清四郎のシャツのボタンに手をかけ、ゆっくりはずしはじめた。
「いいんですか?悠理」
「だって暑いだろ?」
ばさり、と彼のシャツが脱ぎ捨てられた。
素肌同士が触れる。
ああ、なんて心地がいいんだろう?
彼の手がウエストのホックをはずす。
そのままその無作法な生き物は腹を這い回る。
ゆるく。やわやわと。
臍の縁をするりと指先で撫でる。
「あ・・あ・・・ん・・・」
今度は舌の滑らかな感触を感じた。
「あーー・・・」
切なげに啼いて彼の髪をかき乱す彼女の手に、彼もまた翻弄されていた。
指先を茂みへと這わせる。
ぴくん、と彼女の体が震えた。
焦るな、焦るな、と彼は自分自身を抑えた。
「悠理、もっと熱くしてやるから・・・」
熱い指が割れ目をなぞる。
後ろから前へ。
そのまま指は割れ目の前までやってくる。
きゅっと内側へと進路を変える。
そっとそこにある芽に触れた。
「やああん、あ・・・」
ひときわ大きく悠理が啼いた。
「悠理、ほら、近所迷惑ですよ。」
と清四郎は意地悪くその耳元で囁く。
だが彼はその声を塞ぐ気はない。
その声を聞き漏らす気はない。
「あ・・・うう・・・」
彼女が唇をかみ締めたので、清四郎は指先で強く刺激を与えた。
「あああああ!」
耐えることが出来ない声が漏れる。首をいやいやと言う様に横に振るしか出来なかった。
いつの間にやら生まれたままの姿にされているのにも気づかなかった。
彼も同じ姿になっていた。
「ああ、感じてるんですね。脚が開いてきてますよ。」
言われて初めて自分のあられもなく開かれた脚の間に彼が入り込んでいる姿を認識した。
「いじわる・・・」
その言葉に彼はくすり、と笑った。
「そんな姿がおろかな男を煽るんですよ。」
という言葉とともに、指が彼女の聖域へと侵入した。
痛みを感じたのは最初だけだった。
あつかった。ただあつかった。
「ああ、濡れてる、濡れてますよ、悠理。」
いちいち報告するな!と悠理は熱とともに怒りを覚える。
やっぱりこいつ意地悪だ。
だが文句を言うことが出来ない。みんなこんな風になっちまうのか?
流されてるなあ、とどこか妙に冷静な自分もいた。
でも・・・まあ、いいか。
「ゆうり、もうがまんできない・・・」
切なげに彼が言うので。
からだじゅうがあついので。
熱い楔から逃げなかった。
ゆっくりと侵入してくる楔が、泣きたくなるほど愛しかった。
奥まで入りきったところで清四郎の動きが止まった。
「すごく、せまい、ですね・・・つらくないか?」
苦しげな声で気遣われる。
「ちょっと・・・いたい・・・まって・・・」
目の端に小さな涙のしずくが浮かんでいた。
清四郎は悠理の顔の横に肘をつくと、ぺろり、とそれを舐め取った。
「うごきますよ。」
ゆっくり、ゆっくりと彼が動き始める。
指とは比べ物にならない刺激に、彼女の思考が奪われる。
くるしいほどに、胸がしめつけられる。
もう清四郎の背中にしがみつくことしかできない。
ああ、なんて逞しいんだろう。敵わない。こんな体してる奴に勝てるはずがない。
あたいはこんなにちっぽけだ。こんなにちいさい。
「ゆうり・・・ゆうり・・・!」
その声が愛しい。
あたいを呼ぶ声が愛しい。
「せーしろ・・・あ・・・」
そしてその声が男を狂わせる。
男を愉悦の頂点へと押し上げる。
ひときわ大きく彼女をついた彼の楔が、震えるのを感じた。
「なんか・・・流された気がするんだけど・・・」
清四郎の腕の中で悠理がぶすくれている。
「そうですね。僕もですよ。」
という言葉とは裏腹に清四郎は優しげな笑みを浮かべながら彼女の髪を撫でた。
悠理はそんな彼の顔をむうっと睨んだが、ふうっと溜息をつくと彼の胸に額を寄せた。
「悠理、これからは僕があなたを守ります。本当に危なっかしいんだから。」
清四郎が言ってる。彼の胸から、彼女の額に振動が伝わる。
あったかい。さっきまであんなに熱かったのに。
「不埒をしたのはお前だろ。」
「あなたが誘惑するからです。」
「言ってろ。」
すりすり、と彼の胸にほお擦りしたら、ぎゅうっと抱きしめられた。
「でも、病み付きになりそうだ・・・」
「そうですね。熱病みたいに浮かされてしまった。」
「いつか冷めるのか?」
「いいえ。あなたとなら、一生治らなくていい。」
「簡単に一生とか言うな。」
流されただけのくせに。あたいも流されただけなのに。
ぽろり、と零れた涙を清四郎の指が掬った。
「体から始まる愛もあるっていうでしょ?」
悠理はそっと清四郎の顔を見た。
いったん目が合うと、離せなくなった。
「ん。お前とならそれもいいかも。」
にっこり微笑む。
微笑み返される。
そして二人は夜明けの清涼な空気の中、剣菱邸へと向かう車に乗り込んだのだった。
(2004.7.24)
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