2015/03/22 (Sun) 23:53
1.菊正宗家の朝
「おお、結局朝帰りか、馬鹿息子。」
清四郎が帰宅して茶の間に入ると、ネクタイを締めながらコーヒーを飲む父・修平に声をかけられた。
「親父こそ、もう起きてたんですか。」
日曜の朝七時。母はともかく、昨夜あのあと更に飲んだ父がもう起床しているとは思わなかった。
とはいえ、まだ少し酒臭いようだ。
あまり家族と顔は合わせたくなかったのだが・・・と思いながら清四郎はペットボトルのミネラルウオーターに口をつけた。
「いま入院中の経済団体の会長の容態が変わってな。早々に呼び出しだよ。まったく。」
普通の患者なら当直医が対応するのだが、VIPともなるとそうはいかないようだ。
「エチケットガムくらい噛んでいったほうがいいですよ。」
「ああ、3時まで飲んどったからな。」
──まだ3時ですよ。周りの部屋に迷惑だから静かにしてください。
清四郎は昨夜の、というか未明の、自分のセリフを思い出した。
午前3時まで飲み明かしながらも7時に休日出勤して行く修平は、微妙な表情を浮かべる息子に目もくれずに玄関に向かっていった。
「・・・なに顔赤くしてんの?」
とあくびをしながら階段を下りてきた姉・和子に言われて清四郎は我に返る。
「いえ、ちょっと昨夜飲みすぎたみたいです。もう一眠りしますよ。」
階段下ですれ違う弟の顔に何かしらの変化を感じたが、いったい何があったのやら予想もつかない和子。
「よし、パパが帰ったら昨夜の状況を聞きだしてみよう。」
と決心するのだった。
2.剣菱家の朝
高校時代に確かにクラスメイトだったが、最近になって主に悠理に近づいてくるからどうかと思ってたがまさかそんなことまでするとは・・・
家の中で影こそ薄いが、長男として家族のことを考えている男、豊作である。
アウスレーゼには何も恨みはない。不埒な元同級生だけどうにかはずさせればいいな。
剣菱のグループ企業ではないが、取引をちらつかせてあいつを降格させるくらいはできるだろう。
二度とうちの敷居はまたがせんぞ。
“酒に睡眠薬を入れられた影響で”、まるで泥のように寝入っている妹の寝顔を見る。
「清四郎君がいてくれて本当に助かったよ。いい友人に感謝しなくちゃだな。」
とひとりごちた。
すると眠っている妹がくふっと笑顔になった。
「せーしろ・・・いい・・・」
そのあんまり幸せそうな寝顔と意味深な言葉に豊作は凍りついた。
いや、まさかな。うん、まさかだ。
いつか、優秀なビジネスのパートナーを義弟として得ることが出来るのだろうか?
以前の婚約騒動以来、何度か思い浮かんだ考えがまたも豊作の胸に去来するのだった。
だが、妹が嫌がることは押し付けまい、と何度も打ち消してきたのだ。
何も本人たちの嫌がる結婚という形じゃなくても彼が望めば剣菱に迎える事だってできるし。
うん。まあまだ二人とも高校生なんだし何年かしたらどうにかなるだろう、と豊作は思い直すと、妹の部屋を後にした。
(2004.7.25)
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