2015/02/05 (Thu) 23:11
波に洗われながら、抱き合ってた時間は数分だったろうか?
それとももっと?
清四郎の指は水着の隙間から中へと進入していた。
あたいがそれに抗うことなどできるはずがない。
ただ清四郎の見た目は細いけれどがっしりとした首に腕を回すしかできなかった。
「嫌がらないんですか?」
耳元で清四郎が囁いた。
いつもは明るい部屋で抱き合うのをあたしは嫌がっていたから。
だってこんな魅力の欠片もないような体を見られるのは恥ずかしいから。
だけど今はさんさんと降り注ぐ太陽の下。プライベートビーチで他人はいないとはいえ、白昼の海岸。
恥ずかしくないといったら嘘。でも・・・。
「いい。お前はあたいのもんだって、世界中に叫びたい気分だから。」
そう言って笑むと、清四郎が息を呑んだ。そして、頬を染めた。
こんな照れくさそうな顔、こいつを好きになるまでは見たことがなかった。
「そんな顔、するな。お前を抱きつぶしそうになる。」
「あたいがつぶれるタマかよ。」
ふふふ、と笑う。
お前こそ、そんな顔するな。体が抱きつぶされなくても、心がつぶれそうだから。
ざ、と音を立てて体が持ち上げられた。
清四郎の裸の胸にあたいの体が押し付けられる。
「コテージに戻りましょう。このままじゃ溺れてしまう。」
あたいは返事の代わりにぎゅっと清四郎の首にかじりつく腕に力を籠めた。
清四郎は果てるときに必ずあたいの名前を連呼する。
そしてぎゅっとあたいを抱きしめる。
あたいが、「せいしろ・・・。」と呼ぶ声にあわせて、果てる。
それが、あたいの至福の瞬間。
清四郎を愛していると、清四郎に愛されていると、確信できる時。
額にかかる前髪を撫でられて意識が覚醒した。
目を開くと、清四郎があたいの顔を覗き込んでいた。
「なに?」
「寝顔を見てたんですよ。」
穏やかな清四郎の表情。さっきまでの熱に浮かされた顔とはまた違う、無防備な顔。
倶楽部の連中でさえ、こいつのこの顔を見ると赤面するみたいだ。あまりに見慣れないから。
「悠理。」
「ん?」
「無理はしなくていい。言いたいことがあるなら僕に言ってくれ。」
心臓が、止まるかと思った。
気づかれて、た?
あたいは清四郎の瞳をじっと覗き込んだ。
ほんの少し心配気な光。
だから、あたいの口から素直に言葉が出てきた。
「ちょっと、嫉妬してただけ。」
「誰に?」
「医学部の女の子たちに。」
こんなん柄じゃない。
あたいはきゅっと口をへの字に結んで、シーツを顔までかぶった。
呆れられてるかも、とかそんなことよりも、あたいらしくないあたいを清四郎に見せたくないのが一番だった。
するとふうっと清四郎がため息をつくのがシーツ越しでもわかった。
「語彙が増えて勉強ができるようになっても、相変わらず馬鹿ですね。」
「なんだと?」
がば、と音をさせて今度はシーツを顎まで下げる。
睨み上げた視線の先で、男はさっきと変わらぬ表情を浮かべていた。
「僕が好きなのは悠理だって、何回言わせればわかってくれるんですか?」
「それはわかってるけど・・・。」
でも、イヤなんだ。
清四郎の手が、あたいの頬に触れる。
「でも、嬉しいですよ。それだけ僕のことを好きだってことでしょ?」
にんまり勝ち誇ったように笑むのが気に食わない。
「うぬぼれや。」
「おや、僕に嫉妬させて喜んでたのはどこの誰でしたっけ?」
「もう忘れた。あたい馬鹿だもん。」
ぷうっと膨らませたあたいの頬を、清四郎がくすくす言いながらつつく。
そうして、すうっと真顔になった。
「僕も、やっぱり嫉妬してますよ。」
「え?」
きゅうっと胸が締め付けられた。
「聖プレジデントで毎日お前を見ている皆に。そしてお前の姿を見る剣菱の社員たちに。」
もう言葉が出なかった。
あたいは吸い寄せられるように清四郎の唇に自分の唇を重ねていた。
自分がこんなに恋愛に対して馬鹿になれるなんて知らなかった。
もう何もいらないと思えてしまうなんて、知らなかった。
自分がこんな女だなんて、知らなかった。
2週間、毎日抱き合おう。
日本に帰ってからも、何度でも。
心配させてごめん、清四郎。
日本に帰ったら自分らしい自分に戻るから。
お前を惚れさせた、雄々しい自分に戻るから。
剣菱を支えられるようにまた頑張るから。
だから、お前といるときは、弱いあたいを見逃してくれな。
2週間後、日本へ帰る清四郎と入れ違いにやってきた和子ねえちゃんの顔が明るかった。
「いい時間を過ごしたみたいね。」
ここに来る前のあたい、そんなひどい顔をしてただろうか?
「じゃ、これからは女同士の時間ね。」
「うん。」
熱帯の太陽が、頭上で輝いていた。
(2005.8.6)
(2005.8.7公開)
(2005.8.7公開)
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