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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/05 (Thu) 23:25
この想いを、伝えることは…。(某掲示板投稿作)

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 本当に会いたいのは、逢いたいのは彼女だけ。
 だけど僕は今日もひと時の虚偽の時間を、その場だけの女と過ごす。

「まあ、美童、またデートですの?」
 美童はその声に驚いて振り向いた。いまここにいるはずのない少女の声。
 まっすぐな黒髪を肩口で切りそろえ、淡いピンクのワンピースを着ている。ふわり、と裾が広がっている。
 かっちりとした制服では彼女の凛としたところが立ちすぎて、彼には恐れ多い心地さえするのだが、目の前にいる彼女の姿は慕わしさのほうが先に立つ。
 美童は彼女の笑顔に引き込まれそうな自分を押し隠し、曖昧に微笑んだ。
「ああ、今から二人目の子との待ち合わせに移動するところ。」
 己の軽薄さを表に出し、彼女の軽蔑をわざと買う。
 それは彼が彼女と出会ってから繰り返されている業。
「そうですの。お急ぎでした?私、呼び止めてしまって・・・」
「いいよ。もう少し時間はあるから。野梨子は?」
 それでも彼女との時間が愛しい。この時間が過ぎてしまうのが惜しい。
「私は母さまと一緒に白鹿流関係のお付き合いですわ。このままお店で待ち合わせですの。」
 白鹿流の次代家元として彼女は母親とともに行動することが多い。
 母親は別に一人娘に跡を継ぐことを強制はしていないが、彼女自身がそれを望んだ。
 親戚連中に結婚のことをうるさく言われるのがうっとうしいんですけれどね、と彼女は苦笑していた。
 今もこの近くにある料亭に向かって歩いているところ。行った先に待ち構えているのは見合い写真を懐に携えたおばさまなのだろう。
 彼女はそれを思い、ふうっとため息をついた。
「気が進まない相手なんだ?」
と美童が同情したように言う。
「あら、ま、私ったら。」
 ため息に気づかれて野梨子は肩をすくめた。
「あはは。僕相手に取り繕うことないよ。」
 美童が優しく言うので、
「そうですわね。」
と野梨子もくすり、と笑った。

 ふと沈黙が流れる。

「美童?」
と言われてはっとした。
 いつの間にか彼女の黒い瞳に引き込まれていた自分に気づく。
 そこに自分が映っていることにたまらなく狂おしくなる自分がいた。
 まるで宇宙の深淵を覗き込むがごとく彼女の黒い瞳の奥を探る自分がいた。

 そこにいるのは彼女にとってはただの友人の僕なのに。

「ああ、いや。ちょっと疲れてた、かな。そろそろ行かなくちゃ。」
 首をかしげる彼女に何気なさを装って言う。
 金糸の髪がさらり、と揺れる。
 今の彼の様子は疲労感が漂うように見えないこともないだろう。
 実際、疲れているのだから。

「まあ、お疲れでもデートが優先ですの?美童らしいですわね。」
 心配そうな色を浮かべつつもころころと笑う野梨子は美童のことを友人だとしか思っていないだろう。
 苦々しさに顔を歪ませないように、彼はかなりの努力を要していた。

 だが、彼女は見ていた。
 美童の手が、きゅっと密かに握り締められるのを。
 彼は彼女には見えていないと思っているのか。
 それとも彼自身、自分のそんな些細な仕草に気づいていないのか。

 彼女は見なかったことにした。
 あえて彼が何も言わないのなら、問うことはしない。

「それでは私も失礼しますわ。女性の心を玩ぶのもほどほどになさいませね。」

 ちくん、と棘が刺さった。

 二人の心に。

 でも二人とも、相手に刺さった棘には気づかなかった。
 気づかない振りをした。
 友でいつづけるために、そのままいつもの笑顔を交わした。
 傷を、隠した。
 友人でいつづけることが、今は最善である。

 去って行く彼女の背中を見る。
 まだ幼い後姿。
 今のままの彼女に、男女の情念を教え込むのは酷としか思えなかった。
 今のままの彼では、彼女に想いを告げたとて、暗い情念を押し付けることしか出来ぬだろう。
 それは、酷だ。

 だから、彼は想いを飲み込み、友人でいつづけるという枷を自らに科した。

 背中に彼の視線を感じる。
 熱く切なく狂おしい。
 今のままの彼に、振り向くことは恐怖だった。
 今のままの彼女では、彼の想いを受け入れたとて、友愛と嫉妬以上の感情を持てぬだろう。
 それが、怖い。

 だから、彼女は想いを飲み込み、友人でいつづける卑怯に甘んじた。

 ようやく視線が外れる気配がしたので彼女は振り返る。
 雑踏の中でもひときわ目立つ長身の彼の金髪は、月の色だと思った。

 彼女の後姿へと背を向け空を振り仰いだ彼の目に、西の空に傾く月が見える。
 ほとんど沈みかけるその月は、三日月。
 いつか満ちてゆく月。

 いつか、この想いも月のごとく満ちる日が来るのだろうか?

 大人になれば、この想いは成就するのだろうか?
 それとも、太陽の光のごとき友情のみが肥え太り、この影のごとき想いは光に塗りつぶされて消えてしまうのだろうか?

 どちらでも、よい。

 彼は偽りの仮面をつけると、雑踏の中に歩き出した。
 黒髪の少女が向ける視線にも気づかずに、後ろも振り返らずに。
(2004.8.19)
(2004.10.2サイト公開)
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