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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2015/02/05 (Thu) 23:17
二人で長い旅にでかけませんか?

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「悠理、一緒に長い旅をしませんか?」

 唐突に言われて、彼女はデザートのコーヒーアイスを食べる手を止めて、彼のほうをじっと見つめた。
「旅ってどこに?」
 二人で旅行はしょっちゅうしている。
 7月に入ったところだし、休暇をいつにするか調整の話だろうか?
「どこへでも」
 そう言うと、清四郎は砂糖をどっさり入れたエスプレッソを一口すすった。意外と甘党である。
 彼はニコニコとしているが、悠理はそこになんとなく違和感を感じる。なんなのだろう?
「なんか企んでる?」
 気になったことはストレートに訊くに限る。
 言われて、清四郎はピクリと眉を痙攣させた。珍しく図星らしい。
「ええ、企んでますよ」
と、あっさり認めた。この男にしては素直すぎて気味が悪い。
「で?どこ行くの?」
 悠理は少し警戒しながら重ねて訊いてみた。
「ですから、どこへでも」
 清四郎の眉尻が困ったように下がる。
 疑問形ばかりだ、と思いながら悠理はなおもたたみかけた。
「期間は?あたい、仕事休むなら兄ちゃんに早く言わなきゃ」
 いくら二人が公認の恋人同士とは言え、今は気楽な学生の身分ではない。
 頑張って大学を4年のストレートで卒業した(しかも在学中に短期の語学留学までした)彼女は、今は会長代理の豊作のサポートスタッフの一員という身分で、忙しく働いている。あの勉強嫌いだった10代の頃の自分が今の姿を見たら、目を剥いて驚くに違いない。
「だいたい、この夏はお前も研修先の面接とか試験とかあるんだろ?」
 清四郎は医学部の6年生。夏は来年の初期研修先の採用試験に、秋は大学の卒業試験、年明けには国家試験が控えている。
 もちろんこの男に限って落ちるなんてことはなかろうが、だが呑気に旅行などしている場合ではないんじゃないだろうか?

「仕事を長く休む必要はありませんよ。でも、旅の期間は無期限です」

「は?」
 いよいよ彼女の目は点になった。
「アイス、溶けちゃいますよ」
と言われて、慌ててスプーンを口に運ぶ。
 アイスの冷たさと、コーヒーのほろ苦い香りが混ざった甘さとが、彼女の混乱する頭をすっきりさせてくれるが、やっぱり意味がわからない。
「まだ質問したいですか?」
と、今度は逆に訊き返された。
「わけわかんないよ」
と、彼女は眉を八の字にして両手を挙げた。

 今日は普通に特別な日、のはず。それがこんな風に混乱させられている。
 悠理にはわからないことを言っては困っている彼女を見て楽しむ悪い癖はとうの昔に卒業したはずの恋人は、確かに今も面白がっている様子はない。
 自分でもどう言っていいか考えあぐねているようにも見える。

 清四郎は拳を顎にあてて「ふむ」と言うと、苦笑した。
「すいません、気の利いたことを言おうと考えすぎて、遠回しになりすぎました」
 どうもいけませんね、と人差指で頬をぽりぽりとかく。
 なんだか子どもっぽいしぐさが可愛くて、いまさらながら「そういうところも好きだよなあ」と悠理は笑んだ。
「つまり、今日はバースデーのディナーなわけで」
 そう、今日は悠理のバースデーである。ちょうど金曜日にあたったものだから、お互いに都合をつけてこうして悠理の好きなフレンチレストランでディナーデートをしている。
 悠理は夜空を思わせる濃紺のスリップワンピースに、薄く透ける同系色のシルクのショールを羽織っている。そしていつでも喧嘩大好きだった10代の頃だったらまず自分の意志では履かなかった細いヒールのシャンパンカラーのミュールを足元に合わせている。
 手に光るゴールドの台座に座った赤い石が、全体の雰囲気を引き締めている。
 対する清四郎は、ほぼいつもの通り、薄いブルーのストライプが入ったシャツに、夏物の薄手の生地ではあるがきっちりとした紺色のスーツ。ネクタイは彼女に言われてちょっと冒険してみた、白地に水色で大胆な幾何学模様が描かれたものだ。
「悠理はもう社会に出ていて、僕も来年の春には大学を卒業します」
 そう。清四郎の6年間の大学生活ももう1年も残っていない。
「だからそろそろいい頃合いだと思いまして」

 ここまで聞いて、悠理は「ん?」と思った。この流れ・・・?
 清四郎はと言うと、こくり、とたまってもいない唾を飲み込むふりをした。
 ああ、喉はからからに乾いてるんだろうな、と思う。
 この男でも緊張することがあるらしいと以前から知ってはいたが、そうか、今日の違和感の正体は緊張だったのか。
 悠理はすっと納得行った気がした。

「ストレートに言います。悠理、人生という名の長い旅を一緒に歩んでいきませんか?」

 彼の黒い瞳と、彼女の茶色い瞳が、一瞬交錯した。
 そして。

 ぷ。と、彼女は噴き出した。
 そのまま肩を震わせて顔を伏せて笑い出す。
「笑いますか」
 清四郎は頬を赤くして口をとがらせた。
「ご、ごめん。だってまだストレートじゃないし」
と、悠理はぶぶぶ、と笑いながら言った。

「じゃあ、情緒もへったくれもなくもっとストレートに言います。結婚してください」
 さらさらと淡々とつげた清四郎に、悠理はすっと黙った(まだ笑いの余韻は残していたが)。
 この男はこの言葉にたどりつくために、何をどれだけ考えたのだろう?
 付き合い始めてからもうすぐ6年、だ。
『正式なプロポーズはもう少し先にしっかりと』と言っていたころからでも5年と少し。
「なんか、もうとっくに婚約してる気になってた」
と、悠理は苦笑しながら肩を竦めた。周囲だってそう思っているに違いない。
「そうですね、でもまだだったんです」
 清四郎は返事をせかすでもなく、同じく肩を竦めて天井をちらりと見上げた。

 悠理は思い出していた。そういえばこないだ、清四郎が銀座の街を歩いてるのを車の中から見かけたんだった。
 後から訊いても、「そうでしたか?」と返されただけで、単純に仕事で顔を出しただけだと合点していた。
 銀座にあるのは、ジュエリーアキ。可憐の実家だ。

 そして再び二人、目が合うと、柔らかくほほ笑んだ。
「まだまだあたい馬鹿が治んないから気の利いた返事はできないんだけど」
「いいですよ、そちらもストレートで」
 悠理の真骨頂は歯に衣着せぬストレートさにある。それは昔も今も変わらない。
「じゃあ、『はい』」
 言うと、悠理はまたくすくすと笑った。
 胸のあたりがうずうずとくすぐったい。そうか、まだだったか。

 清四郎は行儀が悪いのだが、と思いながらもついテーブルに頬杖をつくと、ため息をついた。
「気合を入れすぎて空回りしましたかねえ」
「清四郎に情緒って相変わらず似合わないのかもな」
「言いますね」
 ぴん、と指先で額を弾かれて、悠理はまたくすくすと笑った。
「でも、すんごくいい言い回しだと思うよ」
「そうですか?『世界中で大暴れしませんか?』のほうがよかったんじゃありません?」
「あ、それもいいな」
 ただしそれこそプロポーズと思わず、なにか事件でも起きたか?くらいにしか思わなかったかもしれないが。

 人生という名の長い旅。
 世界中で事件に遭遇している自分たちにはぴったりな言い回しだと思う。

「長い旅の行く先々で、大暴れ、てあたいたちらしいよね」
「大暴れはしなくても結構です」
 大きな事件、小さな事件。
 いろいろな出来事に一緒に遭遇しよう。
 そしていろんなことを一緒に発見しよう。
「そうじゃなくて、いろんな瞬間を一緒に目撃しましょうね」
 将来生まれるだろう子どものことなんかをぼんやり思いながら清四郎が言うと、
「ん?殺人現場とかはごめんだぞ」
と、悠理が返した。
「そういう方面からは離れてください」
 清四郎は眉根をもみながら脱力する。まったくどっちが情緒がないんだか。

 まあ、それが自分たち、だな。

 再び目を合わせてからふふ、と笑み合うと、それぞれナプキンで自分の口元をぬぐった。
「じゃ、まずは帰りますか」
「そうだな」
と、悠理は店員が椅子をひいてくれるのに合わせて立ち上がる。

 待っているのは二人の部屋。
 この春から互いに実家を出て、都内にマンションを借りて住んでいた。もちろん家賃もろもろは折半で。
 互いに多忙なので、一緒に住んでいても顔を合わせられない日もあるが、だが寝顔を見るだけでも癒されている。
「ジュエリーアキで指輪は見つくろってるので、今度選びに行きましょうね」
「了解」
 銀座の用事の正体はやっぱりこれだったか。と、悠理は片眉をあげた。

 長い旅路のもう何歩目だろう?
 これまでも人生の半分以上の時を共有している。
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
 まだまだ長い旅路を行こう。
 行く先々で、新しい毎日を目撃しよう。

 そしてまずは家のドアを開ける。
「ただいま」
と、二人の声が重なった。
(2010.12.8)
(2011.1.20公開)
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