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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 14:26
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2015/02/05 (Thu) 23:48
・このお話は平安時代末期の院政時代を舞台としたパラレル設定です。
 もちろんフィクションです。実在の歴史上の人物・事件・団体などには一切かかわりはございません。
・有閑にはありえないほど貧乏臭い世界です。
・セリフはほぼすべて現代語訳でお送りしています。
・登場人物がこの時代のこの階層の人間としてありえないものの考え方や言葉遣いをしていても気にしてはいけません。
・もっぷ作のどへたな半今様(今様は七五・七五・七五・七五、半今様はその半分の七五・七五)が混ざっていたりしますが、温かく見守ってやってください。
 また実在の古典文学の引用に、もっぷによる現代語訳がついている箇所もあります。物語の流れに合わせて意訳をしていたりします。一般的な解釈と違ってても大目に見てやってください。

・物語開始時点での全員の職業です。
 清四郎→北面の武士
 野梨子→下級貴族の娘
 悠理、可憐→白拍子(男装して芸や体を売る遊女)
 魅録→白拍子一座の用心棒
 美童→白拍子一座の笛吹き

以上ご了承いただける方のみ、お読みください。

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 さらり、と衣擦れの音がした。
 特に興味もなく意識をそらせていた清四郎は、だが、周りのものが「おお。」と感嘆の声を挙げて絶句する空気を感じて、彼女たちのほうを見た。
 白拍子を見るのは初めてではない。
 朱の飾り房のついた白い水干(男性装束)を着て、今様(流行の歌)を歌い踊る、遊女たち。
 白く塗られた化粧。伏せられた瞼を縁取る睫毛が影を作る。赤く塗られた唇が、みずみずしく光っている。
 黒塗りの扇を手に、静々と彼女たちは部屋に入ってきた。

 美しい女はいくらでも見てきた。
 彼の屋敷で養われている幼馴染の少女とてかなりの美少女である。
 だが、彼女たちは見慣れた美女とは違う何かがあったのだ。

 舞手は二人。
 二人とも若々しい娘たちだった。
 一人は艶やかににこやかに笑みを振りまいている。指先まで愛嬌が零れている。その瞳の深い色は、男を誘う媚薬だった。

 清四郎の目は、しかし、もう一人の娘に釘付けとなっていた。

 世間一般的に言って、彼女の背は高すぎるきらいがあった。
 背にたらされた髪も日に焼けて少し茶がかっている。
 黒く豊かな髪が美しさの絶対条件であるこの時代において、それはかなりの減点対象である。
 そして、彼女の顔つきはあからさまに不機嫌であった。
 頬を膨らませて口を尖らせて。

 しかしそのかんばせは、とにかく非の打ち所がないまでに整っていた。
 身分低いとはいえ、院(位を退いた天皇)の御所の警備として大臣(おとど)や宮様と言った上つ方の姿を漏れ見ることもある彼らである。
 それらの高貴な方々と同じ空気を漂わせる彼女のかんばせに驚きを隠せぬのであった。
「なんと・・・高貴なかんばせよ・・・」
 思わず声を洩らしたのはどなたであったか。

 どこかで会ったか・・・清四郎は思う。
 切れ長な瞳。
 ぷっくりと柔らかそうな頬。
 小さく塗られた紅が幼くも見える唇。

 二人に続いて現れた少し年嵩の女が口を開く。
「当一座でも一番人気の可憐御前は皆皆様もご存知の通り。匂い高きこの宵に今一人、殿ばらにお初にお目にかけるは悠理御前と申しまする。」
 仏頂面の少女が静々と頭を下げる。

「ほほう。あの娘、初見せか・・・」
「この一座をご存知で?」
 清四郎は隣席の同僚が言うのを聞いて、訊ねた。
「何と、菊正宗殿はこの鬼一座をご存じない?」
 清四郎よりかなり年上の、先だって彼とともに北面に任命されたばかりの中年男が大げさに驚く。
 家柄もなく才だけでここまで苦労してのし上がった男は白拍子遊びが唯一の道楽であるらしかった。
「それ、もうすぐ一座の名の由来がわかりもうそうぞ。」

 言われなくとも清四郎の目は一座の者たちに固定されたままだった。

「おお!鬼っ子じゃ。鬼一座の笛吹き鬼じゃ。」
 上座のほうの者が言った様な気がした。清四郎はちらり、と最後尾から入ってきた一座の男を見た。

 なるほど、鬼ですか。
 鴨居に頭が届きそうなほどに背が高い。同じく当代の男としては背が高いと言われる清四郎よりも高いかもしれない。
 とにかく特筆すべきはその色素の薄さであろう。透き通るように白い肌。空気に溶ける金の髪は上流の子弟のように、角髪(みずら)に結っている。
 伏せた瞳は灯火の光を映し出し、青く見えた。
 彼が着る水干は女たちと同じ白いものであったが、そこについた飾り房は深い紺色だった。
 高く通った鼻筋。高い頬骨。柔らかい頬の曲線は女性的でもある。
 美しい、と清四郎は素直に賛辞を心で述べた。

 彼の鬼と呼ばれる青年への関心もそこまでだった。
 再び清四郎は悠理御前と呼ばれた仏頂面の少女へと、目を戻した。

 可憐御前と紹介された少女が一声出す。
 悠理御前が合いの手を。
 座が、静まり返った。

 しゅるり、と衣擦れの音も高らかに、女たちが手を差し伸べる。

 一振り。その指先から光が零れるごとく。
 一振り。その袖から花びらが零れるごとく。

 さやさやと、清水の流れるごとく。
 さらさらと、風が草木を撫でるごとく。

 少し卑猥な喩えも混じる今様さえもが、神々しい祝詞のように聞こえてくる。

 艶やかに微笑む女。
 そして凍りついた如く無表情な少女。

 対照的なその姿に、男たちは目をひきつけられる。

 舞扇の先がぴくり、と震える。
 客たちもはっと息を呑む。
 舞扇に指し示される。動きが止まる。
 客たちは息をすることも忘れる。
 舞扇が招くように女の胸元へ引き寄せられる。
 客たちも身を乗り出す如く引き寄せられる。

 遊び女の下賎な踊りだ。だが、見事だ。
 清四郎は周りの男どもと同様に、引き込まれていた。
 少し冷静にその踊りの見事な呼吸を分析してみようとするものの、すぐにそんなことはどうでもよくなってしまった。

 それは刹那だった。
 不機嫌だったはずの少女の目が、見開かれた。

 清四郎と、目が合った。

 やはり、僕は彼女を知っている・・・
 そして彼女も僕を知っている・・・



 今宵初音の鶯の
 声をば聞けや みかきもり


 脂の乗った朗々とした口調で年嵩の女が謡を〆た。
───今夜初めて客をとる、この少女をさあ、どなたが買われますか?
 そういう意味だった。

「私は可憐御前にしておこうぞ。悠理御前も美しくはあるが、熟れたおなごのほうがよいわ。」
 やんやの喝采が静まるのを待ち、最上段にいる、今宵の宴の主催者である中将殿が言った。特に色好みというわけでもない彼だが、若い部下たちを招いてこのような座を当代の上流貴族の常として時折設けるのであった。
「花代はこの中将が出すゆえ、貴殿方、どなたでも名乗られるがよろしかろ。」

「いましばし。」
 身を乗り出しかけた男どもを押しとどめる如く、凛とした声が座に響いた。
 他ならぬ悠理御前の声だった。

 谷を渡れる鶯も 思う枝葉に止まるものを

───鶯にだって止まる枝を選ぶ自由があるのに。
 ちろり、と横目で年寄り女を睨みながら少女は口ずさんだ。
 自分に選ばせろ、と言うのである。
「ほほう。どのようなおのこがお主の目に留まるのかな?」
 中将が興が乗ったように己の扇で口元を隠しながら微笑む。

「強い男。」

 それまでの謡うような口調はどこへやら、低い声ではっきりと彼女は言った。
 並んで座る可憐御前が軽く肘で彼女をつつく。口元は隠しているが、眉が気まずそうにさがっている。

 その場の一同はそのあまりにあけすけな物言いに呆気に取られていたが、すぐに我に返った。
 末席に近いところに座る清四郎がくすくすと笑い出したからである。
「はっきりした方だ。」
 この座は一応無礼講ということになっていた。そうでなくば清四郎がこのような場面で声を発することなどできはしない。
 しかし座のものがこれまた驚いたのは彼のその行為そのものに対してだった。
 まだ若年の身分低き武士。いつも分をわきまえておとなしく武骨に精進している男だとしか思われていなかったからである。
 清四郎の隣に座る男も、彼に続けてにやりと笑った。
「そうじゃの。面白い。ここに居並ぶ方々は北面としていずれ劣らぬ猛者ばかり。どのようにして悠理御前のお目に留まるおのこを選びましょうや?」
 清四郎に肩を組まんばかりに言い寄る。
「私のごとき若輩には決められませんよ。皆様で決められませ。いずれにしても喜んで参加させていただきますゆえ。」

───悠理御前の初めての客に立候補しますよ。

 それは臆面もない表明だった。
 じっと彼女を見つめながら言う清四郎に、悠理御前が赤くなるのが化粧越しでもわかった。
 くわっと見開いた目で彼をにらみ返している。

 そこでにわかに座が活気付いた。
 いかにして悠理御前を射止めるか、勝負の方法で盛り上がったのである。
「強い男であろ?武芸で決めるのが一番じゃ。」
「ここですぐさまできることといえば相撲(すまい)はどうじゃ?」
 確かに夜の宴の最中である。
 弓矢は危険にすぎるし、酔いの入ったこの状態で真剣での立ち会いもいかがなものかと思う。
 相撲は確かに適当に思われた。
 ただ、庶民ならともかく、下級とはいえ貴族のする遊びとしては下賤とも言えた。それで手を下げた者もいた。



 結局相撲に参加することになったのは五人。いずれも筋骨隆々とした、武芸だけを頼みに北面にまで出世した武士の家柄の者たちであった。
 そして、その中にいて清四郎は、背は一番高いながらも体はほっそりとして見えた。
「では、勝ち抜きで。」
 上半身裸になり裸足で庭に降り立った清四郎は、最初の対戦相手とにらみ合い、礼をした。

 筋肉の塊にしか見えない男が転がる。
 一同からやんやの喝采が上がる。
 一番細く見えた清四郎が他の全員を倒したのである。

 噴出す汗をものともせず、乱れた髷(まげ)もそのままに、清四郎は宴席のほうを見上げた。
「お気に召しましたか?悠理御前。」
 全く息も上げず、口端をあげる彼の表情には余裕すら見受けられたのだった。



 汗を拭き、替えの小袖をいただいて着替えてから、清四郎は与えられた中将邸の一室に案内された。
 灯火がぼう、と揺れている。
 そこで少女は待っていた。
 すでに白拍子装束は解き、単(ひとえ)姿というほとんど寝巻きに近い格好である。
 床に手をつき、恭しく頭を下げて彼を出迎えたのだった。

 彼が座った気配に続き、ゆるり、と彼女が顔を上げる。
 ああ、やはり美しい、と清四郎は思う。

 そして、気づいた。彼女の目が揺れていることに。
 彼女の目は、常人であれば気づかぬほどかすかに、彼と、彼の背後の庭の方とを、うろうろと見比べていた。
 隙を探っているような、そんな目であった。彼女の指先も真っ白になっている。緊張しているのだ。
 清四郎は思わず拳を口に当て、「ぷ」と吹きだした。
「な、何を笑って・・・」
 少女が憤慨したように目を丸くする。
「逃げ道を探しているのですね。」
 くすくすと笑う彼に、彼女は腰を浮かせた。彼が笑いで少し体を傾けたのを隙と見たのだ。
「甘いですよ。」
と、彼はそんな彼女の手を取ると、瞬く間に褥の上に彼女を横たえた。
「やっ・・・」
と、女の手足がばたつきかける。
 たおやかな外見に似合わずその素早い動きに清四郎は内心で感心した。これだけ動けるとはね。
 相手が僕でなければ逃げおおせたでしょうね。と彼女の動きを全身で抑えながらその顔を覗き込んだ。

 彼女は、敵わぬと悟ったのか、次第におとなしくなった。
 目を瞑り、決して清四郎の顔を見もせず、その眦から光るものを零した。

 清四郎はそのしょっぱい液体に唇を寄せ、そっと掬うと、耳元へ口を運んだ。
「大丈夫。何もせぬから。あなたは野梨子の恩人ですからね。」

 その言葉に、やっと悠理は目を開けた。

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