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こめすた保管庫
二次創作サイト「こめすた?」の作品保管ブログです。 ジャンル「有閑倶楽部(清×悠)」「CITY HUNTER(撩×香)」など。
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2024/05/17 (Fri) 13:51
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2015/02/06 (Fri) 21:35
「有閑御伽草子」第2回。

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「参ったな。あの人を一人にするなんて。」
 今日は西の市の日。「市を見てみたい」とねだる野梨子を連れて、清四郎は市へ来ていた。
 しかし、この人ごみである。気がつくと彼女とはぐれてしまっていたのだ。
 よくない輩も多数入り込んでいるここである。人買いやらにかどわかされやしないかと、清四郎は妹同然の野梨子のことを案じた。

 その時である。なにやら騒動が起こっているような気配がした。
「何をなさいますの!?」
という聞きなれた芯のある声も聞こえてきた。
 清四郎はその声のするほうへと急いだ。

「何だよ、てめえら。いいとこの嬢ちゃんの連れには到底見えないんだけど?」
 清四郎が騒動の現場に到着すると、野梨子の前には彼女をかばうように水干姿の少年が立ちはだかっていた。4,5人の人相の悪い男たちと対峙している。
 こざっぱりとした水干を着て少し日焼けした身を覆うほどの髪を背中で一本に縛った姿は、良家に仕える侍童か、寺住まいの稚児といった趣である。
 小柄でほっそりとした壺装束(笠から布をたらして顔や姿が見えぬようにした女性の外出着)の野梨子とともに並ぶと、絵姿のように美しかった。
「ああ?小童(こわっぱ)がお節介やいてんじゃねえよ。俺らは嬢ちゃんを屋敷に親切に送ってやろうとしてるだけだろがよ。」
「ですから結構ですわ、と申し上げてます。」
 きっぱりはっきり言って布の隙間から男どもを睨む野梨子は文句なく気丈だ。血が繋がってなくともあの姉と姉妹のように育っただけありますよ、と清四郎はため息をついた。
「いいから来いって。」
「きゃっ。」
「汚い手で触るな!」
 男の一人が野梨子へと差し出した手を少年が振り払った。
 それを合図として、男たちが少年に飛び掛った。
 いかん、と清四郎はその場へと飛び出そうとした。
 しかし勝負は少年の圧勝だった。
 一人目の喉元を肘で打ち。
 二人目の腹部に回し蹴りを叩き込み。
 三人目には側頭部に跳び蹴りをお見舞いした。

 だが、四人目に対峙したところで、人ごみの中から「うわあ」と悲鳴が上がった。
「刃物は反則。」
と、やはり茶色の髪の若い男が、人相の悪い男が短刀を持っている手を捻り上げているのだった。
「魅録!」
 少年が甲高い声で叫んだ。どうやら連れのようである。
「おら!油断するな、悠理!」
 少年に出来た隙を見逃さず、四人目の男も短刀を引き抜こうと懐に手を突っ込んだのだ。
 だが、男が完全に抜ききる前に、少年と男の間に直垂(ひたたれ)姿の若い武士が入り込み、抜きかけの太刀で刃を受け止めたのだった。
「連れがお世話になったようで。」
 じろり、と自分より背の低い男の目を睨みながら、清四郎は微笑んだ。
 男は蛇に睨まれたカエルのように「ひっ」と叫ぶと、尻餅をつき、こけつまろびつ逃げ出したのだった。
 人ごみの中で捕まえられていた男も解放され、その後をほうぼうの体(てい)で追っていった。

「清四郎、遅いですわ。」
 少し涙目になりながら野梨子が抗議する。
「すみませんね。この人ごみですから。」
 清四郎は苦笑して謝罪した。
「ありがと。魅録。」
「本当にお前はすぐに騒動に首突っ込むんだから。」
 すぐそばで、野梨子を助けた少年の服を、後からやってきた魅録と呼ばれる男がはらってやっていた。
 背は清四郎と同じ位であろうか。人ごみで頭一つ飛び出す長身である。髪を僧のように短く刈り込んで、粗末な洗いざらしたような水干に小袴を穿いている。身分低いもののようである。
 小奇麗な良家の子弟とその従者(ずさ)と言った取り合わせであろうか?それにしてはお互いに言葉遣いに遠慮がないのだが。
「あの、お二人とも、ありがとうございました。」
 野梨子が優雅に二人に頭を下げる。
「妹がお世話になりました、ありがとう。」
と清四郎も礼を言った。
 にっこり笑って差し出された彼の手を、悠理と呼ばれた少年もにやりと笑いながら握り返した。
「もうはぐれんじゃないぞ。」



「悠理御前、あなた、あの時の悠理でしょう?」
 あの時、握り返してきた手のあまりの柔らかさにはっとした。これは本当に少年のものだろうかと。
「覚えてたの・・・か?」
 悠理はまじまじと自分に覆いかぶさる清四郎の顔を見上げた。暗い灯火のみなので、彼の表情をうかがうことはできない。
 ただ、暗く深い瞳だけが、灯火の光を反射していた。
「ええ。家族の恩人ですからね。忘れるわけないでしょう?」
 清四郎は彼女の手を拘束していたうちの片方の手を放すと、そっと彼女の髪に触れた。
「あなたは客をとるのを心底嫌がっていた。だから、今宵一晩くらいは、こうして守ってやろうかと思いましてね。」
 その低く優しい声音に、悠理は胸が苦しくなるのを感じた。
 何だか変だ、と思う。
「でもあたいは白拍子だ。一晩過ごしたところで・・・」
 確かに嫌だった。男に触れられることを想像するだけで吐き気がしそうなほどだ。
 でも彼女は白拍子だった。
 芸だけ売って身は売らないなどという甘いことは通用しないのだ。
 同い年の可憐はその身をも売って、一座に金を落としているのだから。
「じゃあ、ここで僕に抱かれて、明日からも見知らぬ男に身を売り続けますか?」
 髪に触れていた彼の手が、頬に触れた。その熱さに、悠理は火箸を押し付けられたようにびくりと震えた。
「や・・・やだ・・・」
 かたかたと震える彼女は顔面蒼白になっているのだろう。
 息も絶え絶えになっている。
 脅かしすぎたか、と清四郎はため息をついた。このような姿が男の劣情を誘うのだと、彼女は知らぬらしい。
 彼は彼女から身を離し起き上がると、彼女も起き上がらせて、胸に抱き寄せた。
「ほら、何もしないから。脅かしてすみませんでした。」
 そうして彼女の髪を、静かに撫ぜた。

「あなたやあの魅録という男の腕だったら一座から逃げて暮らしていくことも可能でしょうに、なぜそうしないんですか?」
 彼女の震えが治まってきたので、清四郎は問うた。
「だって一座には七つのときから世話になってるし・・・それに・・・」
「それに?何ですか?」
「そんなことしたら魅録と夫婦(めおと)にならなくちゃならないだろ?あいつのことは好きだけど、そんな風には思えないもの。」
 すり、と清四郎の胸に額を摺り寄せながら悠理は言う。
 猫みたいな奴だな、と清四郎はますます彼女の頭を撫でる。
 そしてなるほど、と思う。あの男は悠理に惚れているのですか、と。
「じゃあ、魅録と夫婦になるよりも、春を売るほうを選ぶのですか?」
「お前、意地悪だな。」
 ぷっと頬を膨らませて悠理は上目遣いに清四郎を睨んだ。もうその瞳は濡れてはいなかった。
「今夜ゆっくり考えるといい。」
と、清四郎は悠理の頭をぽんぽんと軽くたたいた。

───落窪の姫の物語を知っていますか?
───おちくぼ?
───とある貴族の姫がね、意地悪な継母に落ち窪んだ部屋に閉じ込められて苛められているのです。けれど彼女は美しかったから、公達に見初められました。
───あ、知ってる。それでその公達と夫婦になって逃げ出して、継母に仕返しするんだ。
───そう。そういうお話ですよ。知ってましたか。

「あなたもそれだけ美しいのだから、そうしてやろうという男はいくらでもいますよ。」
 彼がそういうと、彼女の頬が熱くなったようだった。単越しに熱が彼の胸に伝わる。
「顔だけしか見てない男の言うとおりになる気はないやい。」
 すねたように言う。
 本当に風変わりな女だな、と清四郎は苦笑する。
 しかしこれでこそ、庶民の恋か。と思う。
 顔も知らず、家柄と噂だけで恋心を募らせ求婚し、夜這う。そんなのは上流貴族だけの話なのだ。
「きっと、あなたはその境遇から抜け出すことが出来る。そう信じてますよ。」
 悠理の頭を胸に抱き、清四郎は言う。
 額から伝わるその声が悠理を優しく包む。

 なんだか、この声があるなら、なんだってできそうだ。と彼女は思った。

 そろそろ夜が明けるか、と清四郎は思った。
 屋敷の中が少しずつ動き出している。
 この彼女との束の間の逢瀬も、終わりが告げられる。
 なんとも、名残惜しい。
「悠理御前、一つだけいいですか?」
「悠理でいいよ。」
 少し身を離して胸の中の悠理の顔を覗き込む。悠理もじっと清四郎を見上げている。
「では悠理。一つだけ欲しいものがあります。」
「欲しい・・・もの?」
「本当は僕はあなたの最初の客だったはずですし。これくらいはいただいても罰は当たらないと思うのですが。」
 最初の客、という言葉に悠理の顔が引きつる。
「おい・・・」
「あなたの唇を。唇だけは、拒まないでくれ。」

 悠理の返事も待たずに、彼は彼女に顔を寄せた。
 そしてそっと、唇を重ねる。
 悠理は清四郎の袖をきゅっと掴んだだけで、拒否はしなかった。

 彼女の髪に指を絡める。頭を掻き抱く。
 舌で彼女の唇を軽く叩く。
 おずおずと開いたその隙間から、舌を忍び込ませる。
 逃げようとする彼女の舌を掴まえ、吸い上げる。

 熱い、熱い、狂おしいまでの、接吻(くちづけ)。

 甘い吐息を、彼女がつく。
 それを彼はゆっくりと味わう。
 熱い吐息を、彼がつく。
 それを彼女はすべて受けとめる。

 夜明けに咲き始める濃密な花の香があたりを包んでいた。
 つ、と光るものが糸をひくようにして、唇が離れた。

「もしも、逃げるつもりだったら、僕の屋敷に身を寄せるといい。手を貸してやるから。」
 じっと彼女の潤んだ瞳を見つめる。
 彼女も小さく頷いた。
「あんたの・・・名前。まだ聞いてなかった。」
「菊正宗清四郎。従六位上の兵衛の大尉(だいじょう)です。父は衛門大夫(えもんたいふ:衛門府の大尉(普通は従六位相当)で五位の位を与えられたもの)をしています。」
「せーしろー・・・」
と呟く彼女の唇にもう一度だけ軽く唇を触れさせてから、彼は身を離した。
「さあ。夜が完全に明けきったら無粋ですよ。」



 まだ明けきらぬ朝の空気に、清四郎はぶるり、と身を震わせた。
 僕としたことが魅せられてしまったらしい、と口端を上げ、空を見上げた。

 いつか白拍子として他の男に身をゆだねる悠理の姿を思い、ぎりり、と唇をかみ締めた。

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